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永遠の謎

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379部分:第二十四話 私の誠意その十七


第二十四話 私の誠意その十七

「あの方を。けれどあの方は」
「バイエルン王は」
「といいますと」
「あの方は結ばれず。その代わりのものを」
 皇后にはわかっていた。読めていたのだ。もう一人の自分だからこそだ。バイエルン王のそのこともわかったのである。
「求められるでしょう」
「求められるとは何を」
「一体何をでしょうか」
「代わりのものとは」
「はい、幻想を現実のものにすることをです」
 それをだというのだ。王は求めるというのだ。
「求められるでしょう」
「幻想を現実に?」
 皇后のこの言葉には誰もが首を傾げさせた。それは最初聞いただけでは殆んどの者がわからないことだった。しかし皇后はその彼女達にだ。
 静かにだが確かにだ。こう言うのだった。
「といいますと」
「一体どういうことでしょうか」
「幻想をこの現実の世界にですか」
「そのものにするとは」
「あの方が愛されている世界」
 皇后の目にそれは見えた。あの銀色の聖杯が。
 それは眩く、優しい光を放ち宙に浮いている。その聖杯を見つつ話すのだった。
「白鳥がいて。女神の洞窟があり」
「白鳥に女神」
「そういった存在が」
「そうです。そし歌があり英雄の息吹がし」
「歌に英雄」
「それも」
「そして何よりもあの騎士がいます」
 皇后はまた見た。今度は白銀の鎧と白いマントに身を包んだ剣を持った騎士だ。その彼が出て来てだ。皇后の前にいたのである。
 その騎士を見つつ。皇后は言った。
「それは森と城の中にあるのです」
「森はドイツには多いですが」
「そこにですか」
「はい、その中にこそあるべきなのです」 
「幻想が現実となっている世界」
「それはですか」
 周りの者達には騎士は見えない。だがそれでも言うのだった。
「ううむ、そうした世界なのですか」
「あの方が望まれる世界は」
「森と城の中にある」
「そうした世界なのですね」
「はい、あの方はその中で生きられるでしょう」
 そのことはわかっていても残念だという口調だった。
「永遠に」
「ではバイエルン王としてはどうなるのでしょうか」
「そのことは」
「この世にあるものは完全に幻想とはなりません」
「幻想と現実はですか」
「完全に一つとはなりませんか」
「ある程度は重なっても」
 それでもだというのだ。本来は完全に分かれているものが完全に重なり合うことはないとだ。その寂しい現実が皇后の目には見えていた。
「あの方の夢は完全には果たされないのです」
「そうなりますか」
「どうしてもなのですか」
「そうです。しかしあの方はそれを追い求められます」
「現実ではないそれを」
「どうしてもですか」
「そのことが悲劇になり」
 そうしてだというのだ。
「あの方に結末をもたらすでしょう」
「では何としてもではないでしょうか」
「やはり」
 周りの者達は言うのだった。それならばだ。
「あの方とゾフィー様を幸せに」
「そうなるべきです」
「無論誰もがそう思います」
 皇后だけではなかった。それを願うのは。
 
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