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永遠の謎

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361部分:第二十三話 ドイツのマイスターその十六


第二十三話 ドイツのマイスターその十六

「ですからそれはです」
「わかりました。それでは」
「御期待下さい」
「私達の作品の為だけの劇場が」
 『私達』だった。王はそこに絶対の思い入れを見せている。
「私の国でなのですね」
「築かれるのです」
「それは何と素晴しいことなのか」
 王は恍惚したまま己の、盲目的な思い入れを話していく。
「その時が本当に来るのですね」
「そしてその時に」
「指輪も」
「全ては。私の中にあります」
 ワーグナーは指輪についても答えた。
「その中で陛下はです」
「私は、ですか」
「パルジファルであられます」
「あの聖杯城の王ですね」
「それであられるのです」
「素晴しいことです。私は聖杯城の王になる」
 そのことを話す。王自身の口で。
 そのうえでだ。王はその表情にある恍惚をさらに深めてであった。ワーグナーに、その作品を生み出す彼に対して言うのであった。
「では貴方は」
「私はですか」
「ハンス=ザックスですね」
「そうです。私は僭越ながら」
 何かというのだ。ワーグナー自身は。
「ドイツの芸術を生み出しています」
「この国の。新たな芸術を」
「ヴァルターを」
 そのだ。マイスタージンガーの主人公をドイツの芸術と擬人化して語るのだった。
「その彼をです」
「ヴァルターをですね」
「そうです。そうしているつもりです」
「では偉大なるマイスターよ」
 ヴァルターに己を投影していることを今は忘れ。王はワーグナーをザックスと呼んでだ。満足した顔のまま彼にこんなことも告げた。
「住む場所に年金はあります」
「有り難うございます」
「貴方の芸術に専念して下さい」
 王のワーグナーへの願いを話すのだった。
「是非共」
「そうさせてもらいます。それでは」
「はい、指輪に」
「劇場を」
 今度はその二つだった。マイスタージンガーの後はその二つであった。
 ワーグナーは王との再会の後で宮廷を去った。だがその足で向かったのは王が用意した屋敷ではなくだ。彼女のいる場所だった。
 コジマのところに行きだ。そのうえで言うのであった。
「有り難いことだ」
「陛下は全てを約束して下さったのですね」
「そうだ。劇場のことも」
 そのことがだ。最も重要であった。今の彼には。
「全てな」
「ではすぐにですか」
「いや」
 ここでだ。ワーグナーは言葉を一旦止めた。そのうえでだ。
 己の席でコーヒーを飲みながら。コジマにこう話すのだった。
「ミュンヘンだな」
「はい、劇場はこの町にですね」
「考えているのだ」
 実際に深い思慮を見せている顔での言葉だった。
「この町は私の劇場に相応しいのかとな」
「そうなのですか?」
「そうだ。確かに劇場はバイエルンになくてはならない」
 それは何故か。彼を庇護する王の国だからだ。
「だが。その築く町はだ」
「ミュンヘンとは限らないのですか」
「ミュンヘンは好きではない」
 顔を曇らせての言葉だった。
「いや、好きではなくなった」
「なくなったのですか」
「最初は違った」
 複雑なものをだ。表情にも言葉にも帯びさせるワーグナーだった。
 
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