| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

永遠の謎

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

360部分:第二十三話 ドイツのマイスターその十五


第二十三話 ドイツのマイスターその十五

「最早私達を分けるものはです」
「ありませんか」
「そうです。共にです」
 どうかというのである。そしてなのだ。
「私達は共にいられるのです」
「左様ですか。では陛下」
「はい」
「その絆の証にです」
 どうなのか。ワーグナーの手からだ。
「持って来ました」
「あの作品をですね」
「はい、マイスタージンガー」
 その作品をだとだ。王に話すのである。
「こちらに」
「そうですか。ではその作品は後で」
「御覧になられますか」
「そうさせてもらいます」
 玉座からだ。王は微笑みながらワーグナーに話すのだった。
「是非共。そしてなのですが」
「指輪ですね」
「あれはどうなっていますか」
 ワーグナー自身にだ。問わずにはいられなかった。だからこそ問うたのである。
「今は」
「もう少しお待ち下さい」
 いささか社交儀礼的にだ。ワーグナーは王に答えた。
「指輪につきましては」
「少しですか」
「はい、もう暫くです」
 ワーグナーの話術だった。あえて何時かは話さない。
 その話術にだ。王は気付かないうちに信じさせられ。そうしてだった。
 頷きだ。満足した顔でこう言うのであった。
「では楽しみにしています」
「そうして下さい」
「それでなのですが」
 今度は王から話した。その話すことは。
「劇場ですが」
「私が我儘を言わせてもらっている」
「はい、あの劇場のことです」
 王は微笑みながら彼に話していく。
「予算はあります」
「用意して頂いたのですね」
「お金のことは気にしないで下さい」
 ここでも予算のことは考慮しない王だった。王は芸術の前には金のことなぞと思っていた。それは金を卑属と考え芸術を至上としているからだ。
 その王だからだ。予算についてはそれで済ませたのだった。
「貴方が望まれるだけです」
「使って宜しいのですね」
「遠慮はいりません」
 こうまで言うのだった。
「ですから」
「有り難うございます。それでは」
「場所は何処にされますか」
 暗にだ。王の希望を述べはじめた。
「やはりそれは」
「選ばせて下さい」
 ここでも話術を使い王に話す彼だった。
「それは」
「そうされますか」
「約束できることは」
 これもまたワーグナーの話術だ。多くの借金取りや支援者、そして女性を窓割り虜にしてきたその話術を王にも使ってきたのだ。 
 だが王はそれには気付かず、ワーグナーへの心酔故に気付かずだ。彼の話を聞きそのうえで頷くだけだった。今の王はそうだった。
「この国にです」
「バイエルンに」
「はい、この国に設けさせてもらいます」
 公約はここまでだった。
「そうさせてもらいますので」
「左様です」
「はい、そうさせてもらいます」
 微笑んで王に話すのであった。表情も使っているのだ。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧