永遠の謎
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356部分:第二十三話 ドイツのマイスターその十一
第二十三話 ドイツのマイスターその十一
「誰からもだ」
「見られているのですね」
「その一挙手一投足までも」
「その全てが」
「今私は欧州で最も注目されている男だ」
ビスマルクは己のことがわかっていた。彼が何を考え何を言い何をするのか。欧州中がだ。始終見ているのだ。注目されているということだ。
それを話すのであった。だが、であった。
「しかし王はだ」
「その閣下よりもですか」
「常に見られているのですか」
「そうだ。王は常に見られるものだ」
首相よりもというのだ。その彼よりもだ。
「私には個人の時間があるが王はそうはいかない」
「王は生活自体が仕事ですね」
一人がこの現実を話した。
「そうですね」
「そうだ。王とはそうなのだ」
生きている、そのこと自体が仕事でありそして常に、今のビスマルクよりも遥かに見られる。そうしたものだというのである。それが王だというのだ。
「常に見られるのだ」
「大変な重圧ですね」
すぐにこう言われた。
「思えば」
「繊細では辛い」
ビスマルクはここであえてこの言葉を出した。
「そしてあの方はだ」
「あまりにも繊細ですね」
「その御心は」
「繊細で。清らかに過ぎるのだ」
また唇を噛み締める。眉も顰められる。
「王であられるには。いや」
「いや?」
「いやといいますと」
「この世におられるのにも。繊細であり過ぎる」
ましてや。王となると、というのである。
「玉座は高い場所にあり広く多く見える」
「この世がですね」
「この世のあらゆるものが」
「それができるには王の資質も必要だが」
「あの方はおありですね」
「王として」
「あられる。だからこそ不幸になられる」
王としての資質を備え玉座にある。だがそのことは決して幸福とはならない。むしろその二つが合わさり逆になることもあるのだった。
「あの方はその玉座からこの世の醜いものも御覧になられてしまう」
「この世は。人は」
「醜いものも持っている」
「だからこそ」
「あの方が愛されているワーグナー氏にしろだ」
そのだ。芸術家であった。
「あの人物はいかがわしい。あそこまでいかがわしい者はそうはいない」
「金銭問題に女性問題」
「それに反ユダヤ主義」
「あの御仁には様々な問題があります」
「その一つ一つもかなりのものだ」
ただだ。問題があるだけではないというのだ。
「山師と言われても仕方のない人物だ」
「バイエルン王はそのことにも気付かれていますね」
「気付かれていない筈がない」
ビスマルクはその手に持っている様にだ。このことがわかっていた。
「あの方ならばだ」
「しかしそれをあえて言われず」
「そのうえでなのですね」
「しかしその御心は傷ついていく」
このことはだ。避けられないというのだ。
「どうしてもな」
「傷を癒せるのは」
「それはあるでしょうか」
「芸術しかない」
それだけだと。ビスマルクは言い切った。
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