人徳?いいえモフ徳です。
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二十九匹目
前書き
パーティーの翌日の話です。
ソファーに座ったシャクティの膝の上に腹這いになって尻尾をもふられていると、ガチャとドアが開いた。
入ってきたのはメリーちゃんだった。
ミニスカートから露出した脚がとてももふもふしている。
「ぬいちゃんだれこのおんな」
「わたし? きつねくんのかいぬしだが?」
お婆様、もふもふなのにぎすぎすです。ひるふぇ…。
「っていうか待ってよシャクティ飼い主ってなにさ!?」
「きつねくんはかわいいからな。かいたくなった」
「飼うって何さ飼うって!?」
「それよりきつねくん。この羊はだれ? 」
「私はメリー・アリエーソ。ぬいちゃんのふぃあんせ」
「何時から僕は君の婚約者になったんだよ!?」
メリーちゃんがシャクティの右隣に…僕の頭のある方に座った。
僕の上半身を持ち上げ、メリーちゃんがずりずりとシャクティの横につく。
「まだまだだね、とりおんな。ぬいちゃんは耳をせめた方が可愛い声でなく」
「知っているとも。だが尻尾の付け根もなかなかに…」
「おい。なんの話だ」
「ぬいちゃんを啼かせる方法」
「きつねくんを啼かせる方法だが?」
「もう勝手にしてくれ……アニマライズ」
手足と体が縮んで、鼻が突き出る。
「ぅきゅー…」
side out
パーティーの翌日の午前、シュリッセル家応接室ではロリが狐をもふっていた。
「ぬいちゃん、ここがいいの?」
「きゅー……」
メリーがシラヌイの耳をふにふにと揉むと、シラヌイは目を細めて鳴く。
「シラヌイ、ここはどうだ?」
シャクティが尻尾の付け根辺りを触ると、一瞬擽ったそうにするが、直ぐに体を弛緩させる。
「うきゅ……きゅぁぁぁぁ………❤」
「ふふ…ぬいちゃんかわいい…」
メリーがシラヌイの顎の下を撫でると、くるくると喉をならした。
「きゅぁぁん…」
シラヌイがメリーのもふもふの太ももに体を擦り付ける。
「ぬいちゃんも私をもふもふしていいよ」
「ぅきゅっ……うきゅぅぅぅぅぅぅぅ……」
ソレを見ていたシャクティはと言えば……
「むぅ……」
むくれていた。
シャクティは片翼を広げ、シラヌイの体に被せた。
「暖かいだろうシラヌイ?」
「きゅぅー…」
と嬉しそうに一鳴きしたシラヌイはくぅくぅと寝息をたて始めた。
「ねちゃった?」
「ねたな」
二人は顔を見合せると、いっそう激しくシラヌイをもふり始めた。
「ふぁぁ……ぬいちゃんもふもふ……ずっとこーしてたい……」
「もふもふ…ほしい……」
「あきゅぅぅん…きゅゃっ…」
シラヌイが擽ったさから逃れるように身をよじる。
「にがさないぞシラヌイ」
が、シャクティの翼にもふっと抑え込まれ、逃れる事ができない。
「ないす、しゃくてぃー」
「だろう? めりー」
目を覚ますと、ベッドの上だった。
「ぅきゅー……?」
よく見るとメリーちゃんとシャクティが両隣に寝ている。
僕をもふりながら寝落ちしたのだろうか。
「あら、起きたんですねシラヌイさん」
後ろから声が聞こえた。
ヒューマライズ。
「センマリカ…………さん」
うつ伏せのまま、背後の声に応える。
「お義母様って呼んでもいいんですよ?」
「女物のドレスを送るような人を母とは仰ぎませんよ?」
「あら手厳しい」
ベッドから出ようとして、シャクティとメリーちゃんにホールドされていると気づく。
正確にはヒューマライズしたので抜け出せなくなったようだ。
アニマライズ。
獣化して、二人の間から抜け出す。
センマリカさんの目の前まで行って、問いかける。
「きゅぃ?」
「私とホルル副将軍の娘が獣にならないように見張ってたんですよ」
「きゅぅ」
「わかりませんよ? シラヌイさんはそこらの女より可愛いですからね」
「きゅー」
「いえ、外見と中身のギャップに愛らしさを感じるのは男も女も同じですから。
むしろ背伸びしてるみたいで可愛らしいですわ」
「うきゅ」
「そう拗ねないでくださいよ」
拗ねてねーし。
センマリカさんに背を向け、ベッドに乗る。
二人の間…というかシャクティの翼の下に潜り込む。
「きゅー」
「はいはい。おやすみなさいシラヌイさん」
side out
結局、三人が目を覚ましたのは昼頃だった。
まずシャクティが目を覚ました。
体をお越し、キョロキョロと辺りを見る。
「ひっとうどの?」
「あら、起きたのねシャクティちゃん。
家の子の抱き心地はどうだった?」
「もふもふできもちよかった」
「でしょう? シラヌイをもふりたくなったら何時でも来ていいわ。
なんなら毎日でもいいわよ」
「かんがえておこう」
「うんうん。それがいいわ」
次に起きたのはメリーだ。
「んぅ………」
身をお越し、メリーがシェルムに挨拶をする。
「おはようございます、シェルムさん」
「おはよう、メリーちゃん」
くぁ…とあくびをして、メリーがシラヌイを抱き上げた。
「ぬいちゃん。おきて……ぬいちゃん」
「きゅぁぁん…………」
うっすらとシラヌイが目を開けた。
「ぅきゅ…」
「ずいぶんとお寝坊ですねシラヌイ」
「きゅ?」
メリーの腕の中から、シラヌイがシェルムを見た。
「きゅぁ」
「もうお昼過ぎですよ?」
「きゅゃぁぁん……」
「いえ、特に怒ってはいませんが、夜眠れなくなりますよ?」
「ぅきゅぅ」
「うーん…それは睡眠ではなく昏睡なのでは…?」
「きゅー、きゅー」
「ああ…あのときのディアマント製ナイフがそうなんですね…」
「きゅ!」
「だめですよ。健康にわるいですから」
「うきゅぅ……」
シラヌイが僅かに首をすくめる。
「とりあえず、ご飯にしましょう?」
「きゅー!」
客室から出たシラヌイが、四つ足で自室へ向かう。
「おお、ようやっと起きおったかこの寝坊助め」
「きゅぁ~ん」
その途中、タマモと会った。
タマモはシラヌイを抱き抱えると、胸元にスポッとシラヌイをつっこんだ。
「うきゅ?」
「ボーデンがやっておるのを見てやりたくなったのじゃ。うむ…温くていいのぅ」
「うきゅ」
「なんじゃ着替えたいのか? なら儂が用意してやろう」
タマモがシラヌイの頭に触れる。
「クロスチェンジ」
シラヌイの体をゾワゾワとした感触が駆け抜ける。
「これでよいかの。さ、ゆくぞ」
タマモはシラヌイの部屋とは真反対へ、食堂へ向かった。
食堂へ入ると、メリーとシャクティが既に席についていた。
親達はおらず、二人と給仕のメイドだけだ。
「ぬいちゃんぱふぱふ?」
「でかいな…」
タマモは胸元からシラヌイを引き抜き、椅子に置いた。
「うきゅぁー」
シラヌイの手足が伸び、鼻が低くなる。
「ってなにこれぇ!?」
シラヌイが来ていたのはレースがふんだんにあしらわれた白いふりふりのドレスだ。
「今朝センマリカが持ってきた物じゃ」
「僕の礼服は!?」
「儂の魔法袋の中じゃが?」
「あっそ……」
シラヌイは諦めたような顔をした。
「ぬいちゃん。かわいいから元気だして?」
「そうだぞシラヌイ」
「カカカカ! モテるのぅ! 我が孫は結婚相手に困らずとも良さそうじゃのぅ!」
ニヤニヤとしたままタマモがパン!と手を叩く。
「では儂は出ておるよ」
タマモと入れ違いにメイド達が食事を持って現れた。
「お、カツサンド」
「「?」」
三人の前にカツサンドの盛られた皿が置かれる。
「シラヌイお坊っちゃまが考案された物です」
「いや、僕が考えた訳じゃないけどね?」
取り敢えず、と三人が手を合わせる。
「「「いただきます」」」
円環への感謝の言葉を唱え、三人がカツサンドを手に取る。
「あ、おいしい」
「旨いな」
「気に入ってくれて何より」
シラヌイは両手でカツサンドを持って頬張る。
もきゅもきゅ…もきゅもきゅ…
「ぬいちゃん」
「んゅ?」
きょとん、と首を傾げる。
無害そうな、小動物チックな動作だった。
「「……………」」
もきゅもきゅ…ごくん…
「どうかした?」
「「なんでもない」」
「?」
二人が顔を見合わせる。
「シャクティ」
「メリー」
コクン、と無言で頷き会う。
「ねぇ、女って五歳でもそんな視線だけで話せるの?」
「安心しろ」
「ぬいちゃんは」
「「私達が守るから」」
しばらくシラヌイはその意味を考え…
「わけがわからないよ」
と結論を出すのだった。
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