| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

人徳?いいえモフ徳です。

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

二十八匹目

客室のソファー、シャクティは膝にシラヌイを乗せ、翼でくるんでいた。

「きつねくん……しっぽもふもふだな」

「シャクティの羽毛ももふもふだよ~」

シャクティは包み込んだシラヌイの尻尾を、シラヌイは自分を包むシャクティの羽毛を、それぞれもふもふしていた。

「はわぁ~…しゃくてぃのつばさもふもふぅ~」

シャクティもシラヌイも、互いにもふりあってリラックスしている。

「きつねくん、耳をさわってもいいかい?」

「敏感だから、やさしくしてね」

父がエルフであるシラヌイは素の魔法的聴覚が母や祖母より高いが、比例するように耳は敏感だ。

「むろんだ」

シャクティは翼に力を込め、シラヌイを膝の上に固定し、両手でシラヌイの狐耳を触り始めた。

「ふさふさ…ふにふに……すごいな」

「んぅ……んゅ……んにゅゃ…」

次第にシラヌイから理性が剥がれ落ち、幼さが露出する。

シラヌイはシャクティの羽に包まれながら、寝息をたて始めた。

シャクティは次に、シラヌイの髪を手櫛ですき始めた。

男にしては少し眺めの髪は、真っ直ぐのストレートでありながら柔らかく、ふわっとしていた。

すんすん、とシャクティはシラヌイの匂いを嗅ぎ始めた。

「甘いにおい………?」

微かだが、ふわりと甘い匂いを感じたシャクティ。

「こーすい?」

すんすん……すんすん……。

「このにおい…すき……だなぁ」

欲しい。シャクティの中に、欲望が生まれた。

「きつねくん………」

シラヌイをぎゅっと抱き締めながら、シャクティは、眠りに落ちていった。









会場ではシュリッセル夫妻、アーグロ夫妻共に妻夫は別れ、話し合っていた。

夫同士は最近の情勢がどうだとか、次の王は誰になるかなどを話していた。

「やぁ、第三師団長殿、第五師団長どの」

「これはこれはアーネスト皇太子。如何なされましたか?」

現れたのは、金髪の美丈夫だ。

名をアーネスト。姓はフライハイト。

アルフレッドの次男、皇太子だ。

「ふふ、にあってないぞブライ」

「お前こそな、アーネスト」

アーネストとブライが顔を見合せ笑う。

ブライはアーネストが子供の頃から知っており、アーネストもブライを兄貴分のように思っている。

が、ファルコはそうも行かない。

「第五師団長、君もそう固くならなくともいい」

「は、ですが…」

「私などただのヒューマンだ。君達翼人が畏まるような存在ではないよ」

アーネストは自嘲気味に言った。

「どうしたアーネスト? お前らしくもない」

「そうかい?」

「ま、話くらいは聞こう。お前も付き合えファルコ」

「あ、あぁ」








一方妻達は子育てや家事について話していた。

「それでですね、シラヌイの尻尾のもふもふ具合ときたらお母様にも負けず劣らずでしてね」

シェルムが年頃の少女のような笑顔で息子を自慢する。

子供自慢からいつの間にかもふもふ自慢になる辺り、シェルムもブライをバカにできないのである。

「確かに筆頭のご子息の尻尾は触り心地がよさそうだ」

「あとで触って見てください! 絶対気に入りますから!」

「は、はい」

周辺諸国が恐れるリーサルウェポンの二つ名とニコニコと純真無垢な少女のような笑顔の間のギャップに、ホルルは困惑していた。

「ホルルさん、ところでシャクティちゃんの翼はどうなのですか? もふもふですか?」

「もふもふだな。それに大きい。
きっとご子息くらいならば包み込めるだろう」

「なるほど、今頃シラヌイはシャクティちゃんの翼の中ですか」

「だろうな」

「ふむ……」

シェルムが考える素振りを見せる。

「筆頭?」

「ホルルさん」

「なにか?」

「今日ここに泊まっていきません?」











「私に娘がいるのは知っているだろうか?」

「知っているとも。私の叔父上の孫だからな」

アーネストが浮かない顔で切り出し、ブライが応える。

「トレーネは私の三倍は生きている。きっとクーコも長く生きるのだろう」

「ふむ……ハーフエルフの2世代目位まではエルフと寿命がかわらないからな…」

「私はきっと、娘と妻に見送られて死ぬのだろうな……」

アーネストが悲しげに、憂うように言った。

「殿下。エリクシールを使えば良いのではないですか?」

「私はあの薬をあまり好きになれないんだ…。
命を伸ばす薬……それは円環の理に反しはしないか?」

「アーネスト、たかが人間一人が長生きしたところでサークリオン様は何も言わん。
それも含めて運命の円環だ」

「そうなのだろうか…」

「アルフレッドとツェツィーリアだって使っているだろう」

「うむ…しかし…」

そこでファルコが発言した。

「殿下」

「ん、なんだ第五師団長」

「貴方が為したいように成せばいいのです。
貴方が円環に従いたくば、エリクシールを飲まない。
妻子と同じ時を歩みたいならば、飲めばいい…。
まだ時間はあるのです。今の段階でそう悲観する事もないでしょう」

「………そうだな」

結論を先延ばしにし、話が断たれた。

短い沈黙の後、道化役を買ってでたのはブライだった。

「暗い話はここまでだ! 今日は飲もうじゃないかアーネスト! ファルコ!」











客室

「んみゅぅ……もふ…もふぅ……」

「きつねくん………もふもふ………」

結局パーティーが終わっても、シラヌイとシャクティは目を覚まさなかった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧