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永遠の謎

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343部分:第二十二話 その日の訪れその十四


第二十二話 その日の訪れその十四

「いや、それはおそらく」
「幸せにはならないですか」
「あの方はこの世では幸せになれない方だ」
「この世におられるべき方ではないからこそ」
「しかしその幸せを追い求められますね」
「人の性だ」
 今度の言葉はこれだった。
「人は幸せを追い求めるものだからだ」
「そうですね。それはですね」
「その通りだ。幸せを追い求めるのはいい」
 ワーグナーもそのことはいいと考えている。何故なら彼もまたそうだからだ。幸せをだ。常に追い求めているから言うのだった。
「だがそれは一歩間違えればだ」
「不幸をもたらせてしまいますね」
「そうなる」
「幸福を追い求めても」
「少しでも道を踏み外すとそうなる」
 王について言っていく。そんな話をしてであった。
 王の婚約と成婚を見守りながらだ。そのうえでだ。
 ミュンヘンに戻るその時を待っていた。そしてその時はだった。
 少しずつ用意されていた。そのミュンヘンでだ。
 宮廷の者達がだ。動き回りそのうえで話していた。
「あまり好ましくはありませんが」
「そうですね。あの方はどうも」
「浪費家でありしかも女性問題もありますし」
「存在自体が揉めごとです」
「その方を入れられては」
 こうだ。ワーグナーについて話していた。
 その言葉はだ。浮かないものであった。
 そしてその浮かない言葉でだ。さらに話していくのだった。
「しかし陛下のご要望ですし」
「ワーグナー氏に批判的だった方々はあらかた去られました」
 失脚した。プロイセンとオーストリアの戦争で積極的にオーストリアについた彼等はだ。プロイセンが勝利したことによりだ。去らざるを得なくなったのだ。
 それでなのだった。彼等が去りだった。
 そうしてだった。そのうえでだった。
「仕方ありませんね」
「これはどうしても」
「陛下のたっての御要望ですし」
「それならです」
 結論は一つしかなかった。
「ワーグナー氏には戻ってもらいましょう」
「確かに臣民達の反発はありますが」
「それでも。陛下によってバイエルンは助かりましたし」
 戦争で積極的に動かなかったことによりだ。プロイセンから不興を被らなかったということがそれだ。
「では。そういうことで」
「話を進めていきましょう」
「それでなのですが」
 ここでだ。話がまた動いた。
「ワーグナー氏は仰っていますが」
「あの劇場のことですね」
「御自身の作品の為の劇場ですね」
「それを設けられたいというのですね」
「まだそう言っておられます」
 この話になるのだった。
「それはどうしてもというのです」
「思えば。恐ろしく尊大な考えですな」
「全くです」
 多くの者がワーグナーのその望みについてこう言った。それまでそうした考え、自分の作品の為だけの劇場を設けようという考えを言葉に出した人間はいないからだ。そうした意味でもワーグナーは尊大であった。謙虚という徳が彼にはないのは残念ながら事実であったのだ。
「しかもそのことに陛下も賛同しておられますし」
「ではワーグナー氏が戻られたらです」
「そのこともですね」
「実現に傾きますか」
 こう話していってだ。顔を曇らせるのだった。
「また。費用がかかります」
「歌劇だけでも相当だというのに」
「あれは歌劇にかかる費用ではありません」
 確かに芸術には金がかかる。それは歌劇も同じだ。だからこそ歌劇は長い間王侯貴族の娯楽であったのだ。しかしそれでもだった。
 ワーグナーの歌劇はだ。桁外れだった。費用がかかり過ぎるのだ。
 その彼が戻ればどうなるか。誰もがわかることだった。
 
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