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稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生

作者:ノーマン
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42話:爵位継承

宇宙歴773年 帝国歴464年 3月下旬
新無憂宮 控えの間
ザイトリッツ・フォン・リューデリッツ

「謁見の順番が参りましたらお迎えに上がりますのでこちらでお待ちください」

先導してきた近衛兵が敬礼をして部屋を出ていく。近衛兵の制服は何度見ても儀礼の面では良いものだと感じる。自分で着たいかは別の議論になるだろうが......。ちなみにおれは道化志望ではないので、自分で着たいとは思わない。

「ザイトリッツよ。リューデリッツ家もルントシュテット家には及ばぬかもしれぬが武門の家柄じゃ。改めてになるがゾフィーともどもよろしく頼む」

現当主のセバスティアン義祖父上が声をかけてくる。

「何をおっしゃられまする。イゼルローン要塞の建設責任者は義祖父上です。人類史に残る大業を果たされたのです。リューデリッツ家の名前は歴史書にも載りましょう。後継ぎは具体的に何をしたのか?などと言われぬように励まねばと思っております」

初めて正式な兄貴との謁見の為に新無憂宮に来ている訳だが、当代と次代のリューデリッツ伯が揃っているのは、当主の交代をするからだ。リューデリッツ家だけで考えるなら、当代のリューデリッツ伯はまだまだ現役だし、領地の経営は実質RC社主導で動いているので、予備役入りする理由もないのだが、次兄が婿入りしたシュタイエルマルク伯爵家の状況に引きずられてこのタイミングでの当主交代となった。

当代のシュタイエルマルク伯も既に65歳、宇宙艦隊司令長官として叛乱軍との戦争を有利に進めているし、第二次ティアマト会戦で戦死した将校たちの子供世代の育成にも多大な貢献をした。ミュッケンベルガー家のグレゴール殿は、大将としてイゼルローン要塞に着任し、回廊周辺星域での叛乱軍との戦闘の総指揮をする立場にある。長兄は大将として艦隊司令官の任についているし、次兄は宇宙艦隊司令部の総参謀長として中将の地位にある。我らがザイ坊は少将だが、来年の定期昇進で中将になるし、メルカッツ先輩も中将として艦隊司令官だ。名前を上げだすときりがないが、俺たちはシュタイエルマルク元帥の弟子と言っていい存在だ。

つまり、高齢の域に入ったシュタイエルマルク元帥ではあるが、いきなり『引退します』で話が進む立場ではなくなってしまった。次世代艦への更新を主導したのも、その戦術・運用方法の理論構築と実証をしたのも、率いる将官を育成したのもシュタイエルマルク元帥だからだ。なので、まずは自家で判断できることから、引継ぎをしようと判断した。つまり婿入りした次兄のコルネリアスにシュタイエルマルク伯爵号を継がせる判断をしたのだ。
長兄のルントシュテット家、我らがリューデリッツ家も武門の家柄であることは間違いないが、シュタイエルマルク元帥の功績からすると2歩ぐらいは譲る形になる。より大きな功績を立てた方が爵位を譲るのに、自分たちはこのままでいいのか?いずれ譲るものだし、揃って手続きをすればそれはそれで面倒が減るのではないか?という思惑もあり、伯爵家3家が揃って当主交代することになった。
新当主は兄弟なので、お披露目のパーティーも合同で行うことにしている。兄上たちはともかく、俺は30前で将官で伯爵か。改めて考えると、嫌ではないが、自分が望んだレールには乗れず仕舞いのキャリアを歩んでいる。そんなことを考えながら、皇室御用達のソファーの感触を楽しんでいると、先ほどの近衛兵がノックをして部屋に入ってきた。謁見の順番が回ってきたらしい。先導についていくと謁見の間に通された。既に叔父貴と、もう一人、狐顔の中年が入室していた。上座に少し距離を置いて膝をついて控える。別の入り口から、先ぶれが入室し、そのあとで兄貴が入室してきた。

「リューデリッツ伯、ザイトリッツ。久しぶりじゃな。黒真珠の間ではないのだ。楽にして良い」

兄貴は嬉しそうな表情を浮かべながら謁見を始めた。季節のやり取りや手紙のやりとりはしていたが、イゼルローン要塞の視察以来だから公式には10年ぶりになる。

「嬉しいお言葉ありがとうございます。このたびリューデリッツ家の当主をザイトリッツに譲る決断をいたしまして。お忙しいとは存じましたがご報告を兼ねて謁見をお願いした次第です」

「リューデリッツ伯を継ぐザイトリッツでございます。帝国の隆盛の為、さらに励む所存でございます。よろしくお願いいたします」

兄貴と叔父貴だけならもう少し砕けた表現を使えるのだが、狐顔がいるので儀礼を守っておく。誰だよと思っていると、空気を読んでくれてたのか、自己紹介された。

「クラウス・フォン・リヒテンラーデと申します。この場に立ち会える事、光栄に存じます」

誰かと思えば、カストロプ家と並んで、政府系の門閥貴族の2大巨頭のリヒテンラーデ家の次期当主か。あと数年で世代交代されると噂されている派閥の領袖と言う訳だ。自分が高貴な人間だと思う奴ほど、会えて光栄に違いないとか、場にいて当然だと思う物だ。中年の狐顔に会って誰が喜ぶのか問い詰めたいところだが、やめておく。

「陛下、グリンメルスハウゼン子爵は私ともご縁がある中ですのでご列席いただけたこと嬉しく思いますが、リヒテンラーデ殿はいかなる理由でご参加されたのでしょうか?当家とはそこまでお付き合いはございませんし、正式に爵位を継いだわけでもないと認識しておりますが?」

「ザイトリッツは相変わらずじゃのう。言葉を飾らぬ。リヒテンラーデは数年のうちに爵位を継ぐ予定じゃ。その上で、軍部のカナメでもあるそちに将来的に政府を担う者として確認したいことがあるというのでな。同席を許したのだ」

狐顔が出番到来とばかりに話し始めた。

「ご意見を頂戴したいのは、アルテナ星域に門閥貴族が建設している要塞に関してです。事業費も巨額に上ります。起工理由も皇族とのご婚約ですので、通常より結納金を増やすべきか判断に迷っているので、参考までにご意見を頂戴できればと思いまして」

「陛下、この方が将来の政府首班ですか?叛乱軍にとっては慶事でしょうな。火中の栗を拾う気がないなら、自領でお茶でも飲んでいれば良いと存じます」

一旦言葉を区切って、狐顔に視線を向けて話を続ける。

「アルテナ星域は首都星オーディンとフェザーンの航路となります。近々で帝国の国防に役に立つ場所ではありません。軍人でなくとも帝国で重きをなす方ならお分かりでございましょう。陛下もあの件は自分たちでやるなら好きにせよとのご判断だったはず。つまり要塞建設の件は本来なら考慮に値しないものです。それを考慮しようとはどのようなご判断なのか?あの方々に恩を売るための予算の出どころはどこでしょう?陛下が即位されてから増額された戦死傷者年金からでしょうか?軍部の予算から?もしくは増税ですかな?帝国臣民と軍部にとっては明るい未来となりそうですね」

そこまでいうと兄貴が笑い出した。

「リヒテンラーデよ。軍部系貴族の政府への採点はかなり厳しいという事じゃ。政府首班の役目もかなり励まねばならぬという事じゃな」

「失礼いたしました。陛下がこのような場を設けられたという事は、自己紹介をしておけとのご配慮と判断いたしました。長いお付き合いになるでしょうから、誤解のないように自己紹介させて頂きました」

「ただな、ザイトリッツよ。アルテナ星域に要塞を造るという事は、帝国のメイン航路を押さえられたようなものだ。政府の立場からすると、少しでも配慮すべきかと迷う案件でもある。あまりリヒテンラーデをいじめぬようにな」

そういうと狐顔に目配せをする。狐顔は一礼して退室していった。

「それにしてもザイ坊よ。そちは相変わらずじゃな。面白い見世物を見せてくれるものよ。息災なようで良かった。いよいよリューデリッツ伯か。さすがに以前の3男坊だからと好き勝手していたようにはいかぬぞ。心配はいらぬと思うが、念のためな」

「承知しているよ、兄貴。ただでさえ義祖父上は歴史の教科書に載るだろうから、後継としては頭が痛いって控えの間でも話していたんだよ」

雰囲気が一気に変わったことに当代のリューデリッツ伯がついてこれていないことに気づいたのか

「余とザイトリッツはまだ殿下だったころからお忍びで一緒に宴を重ねた仲じゃ。余人がおらぬ非公式な場ではこういうやりとりを楽しんでおるのだ」

とニコニコしている。

「左様でございましたか、いささか急なお話で驚いておりました」

俺は横目で見ていたが義祖父上は狐顔との自己紹介が始まったあたりからかなり焦っている様子だった。そりゃ次期政府首班と心温まるやりとりが急に始まれば、遮るわけにもいかないし判断に困るだろう。真っ当な反応だ。

「陛下には幼少から親しくして頂きましたが、軍部系貴族や辺境領主とのパイプと誤解される事が無いように、内密にしておりました。ご心配をおかけしました」

俺がそう言うと、うむ。とは返事をするが、まだどう振る舞えばいいのか判断に困っている様だ。そんな状況を見かねたのか、いたずら心をくすぐられたのか......。

「してザイ坊よ。仲間内の呼び名はそちが付けるのが決まり事であったはず。リューデリッツ伯の呼び名は何とする?」

などと言ってきた。さすがに義祖父上のあだ名を本人の前でいうのはなあ。まあ勅命だし仕方ない。

「兄貴、無遠慮に付けるなら『理屈だおれ』だけど、俺を見込んで婿にしてくれたからね。『名文家』あたりで手を打ちたい所だけど......」

すると兄貴も叔父貴も上機嫌で笑い出した。義祖父上もようやく気がほぐれたようだ。名文家か、悪くはないか......。などと呟いている。そんな歓談を短い時間だったが楽しんだ。今回の謁見は、当主交代の事前挨拶の様なものだ。来月から正式に伯爵家の当主になる。 
 

 
後書き
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