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稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生

作者:ノーマン
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9話:大きな出会い

 
前書き
・三点リーダー修正 2018/10/08 

 
宇宙歴752年 帝国歴443年 8月下旬
首都星オーディン ルントシュテット邸
ザイトリッツ・フォン・ルントシュテット

俺はオーディンのルントシュテット邸にいた。麦と米の収穫はかなりの成果が出ていた。小麦だけで3割増しの約520万トンが収穫できたし稲の方も20万トン近い収穫をあげることができた。

余剰分120万トンに関しては80万トンを軍に納品した。帝国量全体では少し不作という状況だったようで、例年なら納品価格は300帝国マルク/トンだが350帝国マルクでお買い上げいただくことができた。一括納品は先方も困るようだったので、保管料を無料にする代わりに、補給基地とルントシュテット領を結ぶ軍の定期船で定量ずつ引き取ってもらうことにした。

これだけで2億8000万帝国マルクの増収だった。おれの手元には2800万帝国マルクが入ることになるがそれだけではなかった。おそらくおばあ様は成功しても失敗しても良いように、布石を打っていたのだと思う。

取り決めでは昨年基準での増収分の10%が俺に入る事になっているが、てっきり直接的に因果関係が成立する増収分が取り分だと思っていた。だがおばあ様は一律で増収分の10%をもらえるように手配してくれていた。
結果として、9億帝国マルクを領地に投資した形になるがそいつらも回りまわって20%位が税金となり増収要因になっていたし、その投資が呼び水となって好景気になったため投資した5%の4500万帝国マルクが俺の懐に入ることになった。

正直、結果が出るまで不安だったし少しずつとはいえお金が入るのは精神衛生の面からも助かった。前世でいうポイントキャッシュバックではないが、今後なにか新しい事業を考えたとき、第一候補地に領地が選ばれやすくするとともに、仮に失敗しても多少はお金が戻る様に手配してくれたのだと思う。これは勝手な思い込みで、確認しようにもおばあ様ははぐらかすから真相は闇の中だが。

金儲けの第一陣は成功と言っていい状態な訳だが、なぜオーディンにいるかというと酒の市場調査の為だ。別に資料はいくらでも集められるのだが、第一陣はきちんと自分の目で確かめたからこそ成功できたとも思っている。

そんな中で、近況報告を兼ねて家族と手紙のやり取りをしていたのだが、長兄のローベルトが数日帰省することが分かった。さすがにオーディンの飲み屋街を観光したいとは言えなかった。オーディンを案内してほしいが仰々しいのは困るので、士官学校の制服ではない格好で案内してほしい旨を依頼していた。

可愛い末弟のお願いを長兄は喜んで聞いてくれた。
そして今に至るわけだ。

今更だが、酒造の件について抜け漏れがないか考え込んでいるとメイドが呼びに来た。頼りになる長兄が帰省したらしい。早速、遊戯室に向かうと、長兄ともう一人、同じ年頃の男性が談笑していた。

「失礼いたします。末弟のザイトリッツと申します。いつも兄がお世話になっております。私の事もお見知りおき頂ければ幸いです。」

長兄が連れてくるという事はまともな軍人の卵だろう。名前を覚えておいてもらうに越したことは無い。

「これはこれは、ご丁寧に痛み入る。ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツと申します。」

「ザイトリッツ。メルカッツ先輩は寮で同室でな。今回の休暇は先輩が帰省するには少し短すぎたので思い切ってお声がけしたのだ。失礼のないようにな。」

メルカッツ先輩とやらは歳のわりに結構落ち着いた印象を感じる。長兄ほど堅物という印象ではないが、実直であろうとしているローベルトとは相性はよさそうだ。とはいえ、お連れがいるとは誤算だ。きちんと相談の態で話を進めなければ。

「兄上、手紙ではお伝えしていなかったのですが、実はオーディンの飲み屋街をお忍びで視察したいのです。というのも、領地ではかなり豊作な状態で軍に糧秣を納めましたがそれでも余剰が見込まれるので、酒造を新たに始めることを検討しています。
そこで、一番の消費地であるオーディンの飲み屋街を実際に見て見たかったのですが、さすがにメルカッツ殿をお誘いするのはご無礼でしょうか?兄上が任官されてから統率する兵士たちは言ってみればオーディンの飲み屋街にいる方々と似たような方々ですから一度見ておくのもよろしいかと思っていたのですが......。」

兄が感心しないかのような表情をしだしたが、思わぬ助け舟が入った。

「ローベルト、弟君のいう事も一理あるかもしれんぞ。確かに我々は自己鍛錬を怠ってはおらんが実際、兵に接したことは無い。活かせるかどうかはともかく、見てみるのも一興では。我らは今更オーディンの名所を見たところで新しい発見はあるまい。」

おお!メルカッツ先輩いい人だわ。先輩からそう言われては、兄上も反対はしないだろう。

「先輩がそうおっしゃるならよろしいのですが、我らは未成年。飲酒は厳禁です。ザイトリッツ、ひと舐めといえども許さんぞ。よいな!」

そういうことで、ザイトリッツとゆかいな仲間たちはお忍びでオーディンの飲み屋街へ繰り出した。従士のフランツがついてきたそうだったか今回はお忍びなので我慢してもらった。

テクテクと3人で飲み屋街へ向かう。領地の視察で歩き回っていたせいか、なんとか二人についていくことができた。もっともまだ幼年の俺にかなり合わせてくれてはいたが。そうして飲み屋街に少し入ったあたりで、

「お若いの、この先はまだおぬしらには早いのではないかね?」

と20過ぎくらいの少しくたびれた印象の男性に声をかけられた。傍に30手前位の男性が控えている。目線を向けると兄上もメルカッツ先輩も少し焦っている。別に娼館に行こうとしていたわけでもないし、やましい事は無いのになあ。まあ、ここは俺の出番だろう。

「お心遣いありがとうございます。別にお酒を飲みに参る訳ではないのです。新たに酒造を始めることを考えておりまして、一度、飲み屋街を見てみたいと後ろの2人に強請ったのです。場慣れない3人組ですのでご心配になられたのでしょう。ありがとうございます。」

「ほほう、酒造とな。酒に関してなら一家言程度なら話せるしこの辺りにも詳しいが良ければ付き合わんか。」

うーん。正直お酒の事は兄上もメルカッツ先輩もまだまだこれからだろうし、これも何かの縁だ。話を聞いてみるのも一興だろうが士官候補生である事は内密にした方がいいだろう。ここはあの手で行くか。

「お誘い、ありがとうございます。とはいえ何かの本でこういった場では本名を名乗りあうのは無粋で、お互い仲間内での呼び名で呼び合うのが粋と読んだ覚えがあるのですが、間違いないでしょうか?」

「うむ。場馴れた者たちはそういったことをしておるな。」

「分かりました。さすがに呼び名をどうするなどと相談するのも無粋でしょう。私が即興で考えたいと思いますがよろしいでしょうか?」

そういうと声をかけてきた男性とそのお伴は目を合わせたが

「面白い。良き呼び名を期待するぞ。」

と返してきた。
因みに兄たちは急展開についてこれていないようだ。

「分かりました。では後ろの茶色い方は堅物、銀色の方は紳士。あなたは......。そうですね、この集まりの兄貴分ですから兄貴。後ろの方は叔父貴、私の事は......そうですねザイ坊とお呼びください。」

「面白い。そういう事にしよう。どうせ酒は飲めまい。旨い料理を出すところに案内しよう。ついてまいれ。」

兄貴は上機嫌になって先頭を歩きだした。後ろの二人はついていくか戸惑っていたが、俺がテクテクと歩き出すと流れに押されたのかついてきた。

兄貴はメイン通りから一本入った隠れ家的なお店に入っていった。結構いい雰囲気。前世でいう隠れ家Barみたいな感じだ。奥まったテーブル席に座ると兄貴が早速ぶちまけた。

「我らはあまり持ち合わせはないが大丈夫かね?」

堅物と紳士が何故かこちらを見てくるが

「ご心配には及びません。黄金でも食べない限り何とかなるでしょう。」

と答えた。まあ、前世の癖で1万帝国マルクは持ち歩いている。上級貴族が秘蔵しているワインでも開けない限り何とかなるだろう。

「ザイ坊は見かけによらず甲斐性もあるようじゃ。堅物と紳士も見習わねばならんな。そうであろう叔父貴?」

などと、この場を粋に楽しみ始めた。注文は初めての店だし兄貴にお任せした。初めの一杯と数品料理が出てきてつまみ始めたあたりで兄貴と叔父貴に話しかけた。この店の料理は確かに旨い。堅物と紳士は料理に夢中になっている。

「兄貴、無粋な話になってしまうけど、酒造を始めるって事は話をしただろ?とはいえ、すでに評価が決まってるワインに手を出しても勝負は厳しいと考えているんだ。
そこで、今高価格なお酒についてワインに限らずなんで好まれてるのか、なんで高いのか?とかを教えて欲しいんだよ。せっかく作ったお酒が安く買いたたかれても面白くないしさ。お酒をこれから飲み始める仲間に教える感じでいろいろ話を聞ければ助かるんだけど......。」おれが切り出すと

「ザイ坊は甲斐性だけでなく商売の才能もあるようじゃ。よし!この兄貴が色々と指南してくれようぞ。」

と、色々とお酒の知識を話してくれた。ワインの知識だけでも兄貴はかなり凄かった。前世でいうソムリエとしても十分通用するんじゃないだろうか。あと、意外に話しの聞かせ方がうまい。料理に夢中だった堅物と紳士も、いつか飲んでみたい!などと兄貴の話に聞き入っているし、たまにあいまいな所があると叔父貴が自然な感じで補足してくれていた。
ってか上級貴族でも開けるのを戸惑うワインの話もチラホラ出てくるし、本に書いてある表現じゃないからほんとに飲んでるんだろうけど、この人何者なんだろ。

と兄貴の話に夢中になっていると、何人か酒場の主人っぽい人たちが入ってきて兄貴に声をかけてきた。

「少々ご相談があるのですが?」

代表者っぽい人が声をかけてきたが兄貴はバツが悪そうだ。俺が視線を兄貴に向けると

「いや、実は少しツケが溜まっておってな。催促されておるんじゃ。」

いい感じに場が盛り上がっていたし、ここで話が途切れるのも嫌だったので

「親分、ここの払いは私が持つし、兄貴のツケに関してはお愛想するまでに取りまとめてもらえないか?明日までに用立てて叔父貴に渡しておくよ。遅くても明後日までに、きっちりお支払いできるようにするからさ。」

俺がそういうと親分たちは安心した様だ。この店のマスターもサービスです!とか言って一品持ってきた。兄貴と叔父貴は少し困った様子で大丈夫か?とかいうからこれからも色々と相談に乗ってほしいとこちらからお願いした。

「実は兄貴。製法が失伝したお酒を造ってみようと思ってるんだ。早ければ年末にはできる予定なんだけど、兄貴にも飲んでもらって感想を聞きたいし、いい物だと思ったらどう売るかも相談したいんだけどお願いできるかな?」

兄貴は喜んで請け負ってくれた。それにしても士官学校ってまともな食事が出てないんだろうか。堅物と紳士はずっと食べてばかりだ。君たちのメシ代も俺の払いだということを忘れているのだろうか。まあ、付き合ってもらったし気にしないでおこう。

お愛想を頼むと、それなりの金額を求められたがおそらく少し安くしてくれていると思った。上客に見えただろうし次回もよろしくってトコだろうが士官候補生には少しお高い金額かもしれない。そしてメインの兄貴のツケだ。正直あっても10万帝国マルクだろうと思っていたが、親分が持ってきたのは56万帝国マルクの請求書だった。

兄貴、酒の知識もすごいけどツケの金額もすごいな。まあ、今後も相談できると思えば高い買い物ではない。ただこういう話は当人に聞こえないようにするのがマナーだ。俺は叔父貴と親分に声をかけて店の端に移動した。

「親分、本当にこの金額で大丈夫?結構待っただろうし、この金額だととりまとめも一苦労だったでしょう?。」

「いえ、楽しくお酒を飲まれる方ですし私どももついつい勧めてしまう状況でして、はい......。」親分も少し申し訳なさそうだ。

「では叔父貴、明日までに60万用立てますので、そのまま親分にお渡しいただけますか?親分にもお手数をおかけしたでしょうし。」

「そうじゃな。親分、心配をかけてすまぬ。明日にはツケを清算できよう。色々とかたじけない。」

「親分、私は年末にはまたこちらに来ると思います。あまり高額なのは困りますがそういうことでお願いできますか。」

親分は意図を察したのか頷いて場を離れて行った。あとは叔父貴の振込先の確認だ。これも念を押しておこう。

「叔父貴との事はこれからも叔父貴・ザイ坊の仲でいたいのですがお願いできますでしょうか。」

叔父貴は頷くと振込先を教えてくれた。宴会はお開きとなり、ザイトリッツとゆかいな仲間たちはルントシュテット邸に戻った。俺はフランツに叔父貴の振込先へ100万帝国マルク振り込むように指示をした。おそらく叔父貴もできるかぎり身銭を切っていただろうし手元にお金がある分には困ることはないだろう。

余談だが、その日の晩餐で我らが長兄ローベルトはあまり食が進んでいなかった。あれだけ食べればそうなるだろう。かくゆう俺はもちろん食べる量をセーブしていたからしっかり晩餐を楽しむことができた。裏切り者を見るような視線を感じたが気のせいだろう。 
 

 
後書き
口座残高:1億7200万帝国マルク
 
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