稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生
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10話:兄貴の感想
前書き
・三点リーダー修正 2018/10/08
宇宙歴752年 帝国歴443年 12月下旬
首都星オーディン 宇宙港
ザイトリッツ・フォン・ルントシュテット
この人生で3回目のオーディンに降り立った。年末年始を家族で揃って過ごすために領地から出てきたのだ。とはいえ、今回のメインは兄貴にやっと完成した大吟醸酒を飲んでもらい、感想と売り方のアドバイスをもらうことだ。
叔父貴を通じて兄貴とは定期的に連絡を取っていた。一番ハイリターンが見込めるのは皇室のお墨付きをもらうことだ。大吟醸酒の出来はまだわからなかったが、陛下に献上するなら見栄えもこだわりたかった。だが残念ながら領内では工業品レベルの容器は作れても工芸品レベルのものは難しかった。
その旨も相談すると、数パターン、工芸品レベルの酒瓶が叔父貴から送られてきた。
正直、適当なワインを入れてもとても高いものだと勘違いするレベルの出来だった。
すぐに1瓶あたりの製造原価の確認と兄貴がいいと思うデザインで100本、用意してくれるように依頼した。
もちろん叔父貴の口座に追加で200万ほど振り込んでおいた。領地を発つ前に瓶の用意はできている旨は連絡が来ていたので兄貴や父上に振る舞う分も含めて500本分の大吟醸酒を低温保存でもってきた。
オーディンのルントシュテット邸のワインセラーには大吟醸酒用の大型冷蔵庫も用意した。ここまでするには当主である父上の了承が必要だ。おばあ様にちょくちょく手紙を書いてもらい、面白そうだから事の顛末を見届けるまで好きにやらせてほしいと、お願いという文面の強制をしてもらった。好き放題出来ているが、折を見て機嫌を取る必要があるだろう。
皇室献上用の瓶は叔父貴が管理してくれているが、まずは実際に味わってもらう必要があるだろう。俺はまだ酒は飲めないしな。そんなことを考えているうちにルントシュテット邸に到着した。割り当てられた部屋に荷物を置くと6本分の大吟醸酒を用意してフランツに持ってもらった。
今回はフランツにもついてきてもらう予定だ。さすがに6歳児一人で飲み屋街をうろうろするわけにもいかない。準備がおわって玄関に向かうと声をかけられた。
「ザイトリッツ。前回は兄上と随分お楽しみだったようだね。僕は悲しいよ。君には兄が2人いるのに、片方とばかり楽しんで。」
振り返ると次兄のコルネリアスが少しすねた様子で立っていた。この人は多少機嫌をとっても見透かしそうだけどまあいいか。
「これは兄上、まさに天のお助けです。フランツと向かおうと思っていたのですが、いささか心細く感じておりました。コルネリアス兄上にご同席頂けるなら大船に乗った気持ちです。」
少し芝居がかりすぎたかな。一瞬ジト目をしたが機嫌は取れたようだ。
「そこまで言われては、兄として協力しないわけにはいかないね。さあ出かけよう。」
そういうと我先に玄関へむかった。こうしてザイトリッツとゆかいな仲間たちのお忍び第二弾が始まったわけだが、先に兄上にはしっかり説明しておかねば。
「兄上、お聞き及びかもしれませんが領地の方で新しいお酒を作ることができました。今回はいろいろとご助言いただいた方に実物を味わっていただくのでございますが、これから向かう先では本名を名乗りあうのは無粋とされている場です。お互い仲間内での呼び名で呼び合うのが粋とされる場ですのでそれだけはご了承ください。それ以外は特に難しいルールはございません。
あと、かなり料理が美味な場でもあります。ローベルト兄上は食べ過ぎて戻りましてからの晩餐を平らげるのに四苦八苦しておりました。兄上がどの程度お食べになれるのかは存じませんが、晩餐分はご自制ください。堅物という呼び名が出た際は、ローベルト兄上の事なのでお含みおきください。」
俺が矢継ぎ早に話すと、コルネリアス兄上は堅物ってなどとつぶやきながら笑いをこらえている。そんな話をしているうちにオーディンの飲み屋街が近づいてきた。連絡でもいっていたのだろうか、親分がご案内しますと言って道案内をし始めた。
そしてあの隠れ家Barに到着した。店に入ると、兄貴と叔父貴が奥のテーブル席にすでに居た。テーブル席に近づくと
「おお、ザイ坊。今日は違うお供のようじゃな。呼び名はどうすればよい?呼び名はお主が決めることになっておろう。」
と声をかけてきた。まあ、2人とも呼び名は決めてあるから問題ない。
「お待たせした様で申し訳ございません。後ろに控えておりますのは、大きい方が右腕、小さい方が腹黒でございます。」
さすがに腹黒は......。だの右腕とは我が家の誉!だの聞こえるがこの場はそういう場だから気にしないことにしよう。
「さようか。腹黒、右腕とやら、私は兄貴、横におるのが叔父貴じゃよろしく頼むぞ!」
一瞬マスターに視線を向けると注文は既にしてある心配はいらんと兄貴が答えた。ここはお任せしよう。一品目の料理が出てきたタイミングで兄貴と叔父貴のグラスに大吟醸酒を注ぐ。
「兄貴、俺はまだ酒が飲めないから何とも言えないけど関わった職人達の話ではかなりいい物ができたように思う。率直な感想を聞かせてもらえると助かるよ。」
「うむ。透き通っており見た目は水のようだが香りは芳醇。年代物の白ワインにも引けを取らんな。では一口。」
確かめるように舌で転がしながらグイっと大吟醸を兄貴たちが飲んだ。俺は黙って感想を待つが、兄貴と叔父貴は黙ったままだ。俺は黙ってカラになったグラスに大吟醸を注ぎなおした。兄貴たちはテーブルにあった料理を一口たべると、もう一度確かめるように大吟醸を飲んだ。そんなに長い時間ではなかったが判定を待つ俺にはかなり長い時間に感じた。兄貴が感想を紡ぎだした。
「ザイ坊、すごい酒をつくったな。正直ここまでとは思わなんだ。この酒の凄味は特に料理を食べる合間に飲むと分かる。どんなにいいワインであれその香りが残るものだが、この酒は芳醇な香りがあるのに料理の後味を全て洗い流すかのようにさっぱりとさせてしまう。
合わせ方にもよるが、特にコース料理でそれぞれの味わいを楽しみつくす意味ではこれ以上の酒はないであろうし単体でも十分に芳醇で薫り高く、飲み口はすっきりと心地よいほどだ。」
兄貴が確認するように叔父貴に目線を向けるが叔父貴も同意するかのように一度うなずいた。俺が知ってる中でこの2人以上に酒に詳しい知り合いはいない。横目で見るとマスターも飲みたそうな表情をしているが、今は兄貴と叔父貴の話が優先だ。俺はもう一度大吟醸を注ぎなおした。
「で、ザイ坊よ。この酒の売り方も相談したいとの事だったがそちの思うところを聞かせてもらえるか?」
前回と違い、真剣な面持ちだ。腹黒と右腕も、真剣に話を聞いている。
「今考えているのは陛下に献上してお墨付きをもらう事だけど、もしお墨付きをもらえるなら兄貴みたいにこの酒の良さを分かる人で、かつ門閥貴族の介入を跳ね返せる人に取り仕切ってほしいと思ってるよ。
詳しく言うのは無粋だけど、長男と3男が争っている家があるだろ?その取り巻きが調子に乗っててさ、色々と無理難題を吹っ掛けられてるみたいなんだ。仮にお墨付きを頂けたとしても、製造法を取りあげようとか振り分けをしてやろうとか言って、入り込もうとしてくると思う。両親は疲労困憊の状態だし、これ以上負担は増やしたくない。だから兄貴の伝手で、そういうのを跳ね返して、高値で売りさばける人を後ろ盾にできれば嬉しいんだけど......。」
「ザイ坊よ、因みにだがこの酒は何本分用意してきたのだ?」
「一応500本分用意してきたよ。兄貴たちにも気に入ってもらえたら渡しておきたいし、親分やマスターたちにも飲んでもらいたかったし。」
兄貴は真剣な表情で考え込みながら
「ザイ坊の気持ちは分かった。その気持ちに応えられるように動いてみよう。それでよいか?良いなら叔父貴のところに100本分明日には届くように手配りをしてほしい。」
「分かった。右腕に手配させるよ。叔父貴、無粋な話だけど手元は寂しくない?追加が必要なら手配するけど。」
「そちらは大丈夫じゃ。ザイ坊にはいつも気にかけてもらって助かっておる。」
兄貴の評価はこれ以上ない物だろう。正直ホッとした。右腕にちょっと離席してもらって叔父貴の所に大吟醸を運び込む手配をしてもらう。こういう時は余分に手配したほうがいいから150本を用意した。
その後はまた兄貴のお酒談義を楽しんだ。いつの間にか腹黒も相槌を打ちながら兄貴と叔父貴のグラスに大吟醸を注いでいる。兄貴が話し上手なのもあるが、腹黒が気配り上手なのもあるだろう。堅物はメシをパクついていただけだしね。それにしても兄貴は酒だけじゃなくて美食でもかなりの知識を持ってるみたいだ。出てくる料理は確かに旨いけど、料理人の腕の見せ所やその素材の出どころとか面白く話してくれる。
勝手な俺の予想だけど、親分たちも兄貴から飲食店の経営コンサルみたいな事をしてもらっていたのだと思う。そうでないと、あんな高額になるまでツケを待つ理由がないだろうし。とは言えいい時間だ。そろそろ戻らないとまずいだろう。
「兄貴、今日もありがとう。すごく勉強になったよ。持ってきた大吟醸は置いていくから、親分やマスターにも試してもらって。」
「うむ。ザイ坊はしっかり配慮できる男じゃな。とはいえ、腹黒もなかなかじゃ。こちらも楽しかったぞ。」
「はい。私も腹黒が同席してくれて助かりました。堅物や紳士は食べてばかりでしたからね。」
兄貴は笑顔になるとあの二人にもよろしくと言ってきた。マスターにこの後の宴会分も踏まえてお金を支払ってザイトリッツとゆかいな仲間たちは家路につく。
「ところでザイ坊。右腕はいい呼び名だけど、僕の呼び名が腹黒とは、少しひどくないかい?」
少し揶揄するようにコルネリアス兄上が話しかけてきた。
「兄上、その呼び方はあの場だけに限定するのがマナーですよ。私も本で読んだ程度で詳しくはわかりませんが、飲み屋街で始まる交友もあるそうです。お互い本名を名乗りあうと爵位や肩書を気にしてしまうので仲間内の呼び名を使うのです。」
「確かにその方が心置きなく楽しめるだろうね。」
「左様です。この交友が続けば堅物がとうとう結婚するそうだ。とはいえあいつは固すぎる。子供がグレなければいいが。とか、散々逃げ回っておったが腹黒の婚約が決まった。あやつもとうとう年貢の納め時だな。でしたり、右腕はザイ坊にいつも無理難題を押し付けられておる。一度ねぎらってやらねばなるまい。というような感じで、仲間内で会話を楽しむわけです。」
そんなことをワイワイ話している内に、ルントシュテット邸についた。
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