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楽園の御業を使う者

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CAST31

「くぅ……くぅ……」

昼食を終え、真夜は木陰のベンチに腰掛けていた。

その膝の上には白夜が頭をのせ、寝息をたてている。

「ねぇ、水波ちゃん」

真夜が隣のベンチの水波に声をかけた。

「はい。極夜様」

「今は真夜でいいわ。一つ聞いていいかしら」

「何なりと」

ガーディアンと当主、水波は真夜に問われた時に拒否できる立場にはない。

「貴女も、白夜君が好きなのよね?」

「…………」

「コレは四葉家当主としてでも、質葉極夜としてでもなく、一人の四葉真夜という女としての質問なの。
答えてくださらない?」

真夜と水波の視線が交差する。

まるで、剣を向け合うように。

「私は、水波ちゃんなら仕方ないとも思っているの。
白夜君を最後に守るのはきっと貴女だから。
その命と引き替えにしてでも白夜君を守るという心が貴女の中にあるのなら、貴女が忠誠以上の感情を抱いてもおかしくはないとおもっているわ」

先に鋒を逸らしたのは水波だった。

「私が、私が好きなのは白夜『ちゃん』です。
百合なんですよ、私は」

鋒は青空に向けられた。

「…………」

「可愛いんですよ。白夜ちゃん。無防備なのも、警戒心が薄いのも、甘え上戸なのも、時折見せる無邪気な笑顔も、ここぞって時に見せる格好いい顔も、身内には無条件に甘いのも」

だが結局は、白夜は白夜なのだ。

男だろうが、女だろうが。

容姿も、声も、身長も、行動も、好みも…

何一つとして変わる事はないのだ。

楽園の御業を使う程度の能力を以てして性別を変えようとも、白夜は己を貫き続ける。

「私の家系って皆同性愛者ですから。
しかたないんですよ」

桜井穂波は、レテミストレス四葉深夜のガーディアンであり、恋人だ。

四葉の楯である『桜井シリーズ』には、そういった調整がなされている。

損得ではなく、家への忠誠心でもなく、主への愛を以てして最後の楯となるために。

「ですから、ですから白夜様は貴女に譲ります。
でも、白夜ちゃんは私にください。
私はそれで満足です」

「本当に?水波ちゃんは本当にそれでいいの?」

「そういう事に、してください。
それが私の、私なりのケジメですから」

「そう。わかったわ…」










「見つけたわよ真夜!」

三人がベンチでのんびりとしていると、そんな声が響いた。

「姉さん!?」

「ふぅぅぅ…! 当主の仕事を私に押し付けてラブコメなんていい度胸ねぇ!」

「面倒なのが来たわね…達也さんまで…」

真夜の視線が深夜の後ろに控える達也に注がれる。

その後ろにいる深雪は顔を赤らめているが、真夜からは見えないアングルだった。

「姉さん、私と白夜君のラブコメを邪魔しないで。馬に蹴られちゃうわよ?」

「黙りなさいこの色ボケ!達也!」

「……………母上、俺に当主に牙を剥けと?」

「ちっ…穂波!」

「いえ、馬に蹴られたくはないですので」

完全アウェーの中、深夜は仕方なしに深雪の方を見た。

「みゆっ………き……さん?」

しかし深雪は達也の後ろから真夜と白夜を見て顔を赤くしていた。

「ひっ、膝枕…今度お兄様に…」

それを見た真夜がプッと笑った。

「あら、姉さんには味方がいないのね…。
見ていて哀れねぇ…」

「真夜。喧嘩を売ってるならそう言いなさい」

「バツイチ」

「買ったわ」

顔に井形を浮かべた深夜が腕に巻いたCADを操作する。

「水波ちゃん!逃げるわよ!」

「に、逃げるってどこにですかっ!?」

真夜はニヤリと笑った。

「貴女も使えるでしょ?銀の鴉を。
インビジブルは私がやるわ」

水波も思い至り、ペンダントを握る。

深夜の放った魔法は当たる寸前で水波の背から生えた二対四枚の光翼に妨げられた。

「……達也。あれは?」

「白夜が開発した飛行兼攻撃兼防御魔法シルバークロウです」

「飛行魔法?」

「障壁で翼を作る魔法ですね。障壁系の才能がなければ発動すらできませんが」

障壁魔法は何もない空間に物が『在る』と想像せねばならず、高いイメージ力が要求される。

それは十文字のファランクスの再現性が低い要因でもある。

「ですが『桜井』である水波なら、十二分に実用レベルで使えるかと」

深夜が達也の説明を聞いている合間に、真夜も白夜を横抱きにして、インビジブルとシルヴァークロウを起動していた。

フィィィン…という高周波のような音が辺りに響く。

深夜には二人の姿は見えないが、音の方向を頼りに魔法を放つ。

しかしその魔法は防がれる事も、当たる事もなかった。

「ああ、逃げられてしまいましたね、母上」

やや上を見上げる達也の『眼』には、飛び去る三人の姿が見えていたのだった。










上空300メートル

「ここまで来れば大丈夫かしら?」

「ええ、流石に達也様も今の私達を撃ち落としはしないかと」

水波は観戦用スコープで地上を見下ろしていた。

300メートル下では達也と深雪が苦笑いをしながら水波と真夜に手を振り、穂波が深夜を宥めていた。

深雪の視線が若干ずれてるのはご愛嬌だ。

「ぅゆぅぅ…ゆ?」

パチリと目を覚ました白夜が、周囲を見渡した。

「……………ああ、深夜さんきてるのか」

「ちょっと待ってください白夜様、理解が早すぎやしませんか?」

「いや…千里眼で下見りゃわかるし…」

━━空を飛ぶ程度の能力━━

白夜が真夜の腕の中から抜け出し、空中に立った。

「で、あれどうすんの?」

白夜が深夜達を指差す。

「どうしましょう?一応インビジブルは張ってあるから見えてはいないのだけど…」

「このまま空中遊泳でもしてましょうか。
真夜さんも水波もまだまだ余裕でしょ?」

こうして三人は空中散歩を楽しむのだった。
 
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