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楽園の御業を使う者

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CAST32

 
前書き
二人の口調がわからない…。 

 
白夜はちょこん、とスタジアム隣接のカフェテに座っていた。

正確には、カフェテリアに座る水波の膝の上に座っている。

「うふふふふふ」

「あははははは」

白夜と水波の座るテーブルには、他に達也、深雪、穂波が座っている。

木製の円形テーブルを囲むように椅子が配置されている。

「うふふふふふ」

「あははははは」

そして隣のテーブルからは、麗しく美しく艶やかな笑い声が響く。

そこには『美』があった。

一揃いの人形のように瓜二つの女性。

両者とも同じ位置に、否鏡写し故に真反対の場所に泣き黒子がある。

どちらも美しく、同性異性関わらず惹かれるであろう容姿。

だがそのカフェには二席を除いて客が居なかった。

なぜなら、中心の二人が狂ったように互いに微笑みあっているのだから。

「ねぇ達也。あれって営業妨害になんないの?」

「どうだろうな。普段であれば母上とご当主の声など掻き消されているはずだからな」

彼らが来たときにはその通りであった。

「所でどうして深夜さんはあんなにキレてるの?」

「ご当主が母上に仕事を押し付けてお前とラブコメしてたからだ」

「ラブコメ?」

「ご当主と付き合う事になったんだろう?」

「待て!何故知っている!?」

白夜は向かい側に座る達也に手を伸ばしたが、届かなかった。

「ん?水波がお前に仕掛けた盗聴機のデータを送って来たからだが?」

「ヲイ水波っ!?」

白夜が振り返ろうとした瞬間、水波が白夜をぎゅっと抱き締めた。

「だって…白夜ちゃんを盗られると思って…」

ぽしょぽしょと呟く水波に、達也ですら可愛いと思った。

白夜が自分を抱き締める水波の手をぽんと撫でた。

「わかったわかった…。女でいる時の俺は水波だけの物だよ」

「はい…」











「いいの?白夜君取られちゃうわよ?」

「いいのよ。白夜君は私の物。白夜ちゃんは水波ちゃんの物。
そういう風に決まってるのよ」

にこやかな顔を崩さぬまま、二人は会話をはじめた。

「でもどうするつもり? 貴女と白夜君では、彼には失礼だけど釣り合わないわ」

「あら? 戸籍の偽造は私達の十八番でしょう?」

「正気?」

「愛は狂気の一種よ?」

「いい年こいて少女漫画みたいな恋愛でもする気?」

「そうね、そんな幸せな恋ができたら理想ね」

「わかっているようで何よりだわ」

「ええ、恋なんてした事のない姉さんにはわからないでしょうけど」

「あら、私は恋は知らないけど愛は知っているわ。
私は貴女を愛しているのよ真夜?」

「ええ、私も姉さんを愛しているわ」

「あら、意外ね。てっきり私は貴女に憎まれたまま死ぬのだと思っていたのだけれど」

「彼がいなければ姉さんが死んだ日には私は嬉しさのあまり踊り狂っていたかもしれないわ」

「貴女が年甲斐もなく踊り狂う姿を幽霊になって側で嗤えるなら死ぬのも悪くないわね」

「姉さんはいい趣味をお持ちなのね。
死後の進路はパパラッチかしら?」

「貴女の恥態を他人に教えられないのが苦しいからやめておくわ」

「そう。良かったわ。姉さんを祓うためにネクロマンサーを雇うお金が浮いて」

二人は尚も笑顔を崩さない。

「で、何処に惚れたの?」

「そうね、王子様みたいな所、と言っておくわ」

「答える気は無いのね」

「姉さんに白夜君を取られたくはないもの」

「私にそういう趣味は無いわ」

「あらそう? 姉さんの事だから女体化した白夜君を襲いそうな物だけど」

「……………」

「あらあらまぁまぁ。いけない、愛するお姉様の図星を突いてしまったわ。
大変、嫌われたくないわぁ、どうしましょうどうしましょう」

「はぁ…元気ねぇ…貴女」

「私も相当無理をしているわ………」

二人がふっと真顔になる。

そして隣のテーブルに視線を向けた。

そこではきゃいきゃいと騒ぐ本物のティーンエイジャーが居た。

楽しそうで、輝いていて、尊い。

「真夜、貴女あの中に入れる?」

「姉さんが手本を見せてくれるなら」

「その答えで十分よ」

はぁ、と二人がため息を吐く。

「若いっていいわね。そうは思わない?真夜」

「肉体だけ若くとも、精神は…。
そうね、若さが羨ましいわ」

「貴女は若いわよ。恋する女は若々しいっていうのは事実ね。
私も新しい恋でも探そうかしら」

「白夜君はダメよ」

「………それも面白いかもしれないわね」

「ショックだわ…まさか私の姉がNTR属性だったなんて」

「貴女もなかなか俗に染まったわね真夜」

「私達は仙人でも尼僧でもないわ」

「世間から見た四葉なんて邪仙そのものよ」

「邪仙…ねぇ…」

「あら何か気になる事でもあるの?」

「この間白夜君が言ってたのよ。グ・ジーもしくはジード・ヘイグという大漢の男について」

「どんな話?」

「きっと日本の四葉に報復するだろう、って」

「叩き潰せばいいじゃない」

「昔とは違うわ。今の四葉には昔ほどの力はないのよ?姉さんもわかっているでしょう?」

「あら、貴女の白夜君への想いで吹き飛ばしちゃいなさいよ。
貴女なら戦術級で流星群を発動させられるのでしょう?」

「そうね。そうしましょう。何人たりとも私と白夜君の恋路を邪魔させないわ。
邪魔する者はそうね、とりあえず流星群かしら」

「ソレ、少女漫画の主人公じゃなくてバトル漫画のヒロインのセリフよ」

「私はヒロインなんて結局は守られるだけの立場は嫌よ。彼の為なら私の持つ全ての『力』を使う事も厭わないわ」

「はぁ…。いつの間に私の妹はこんな脳筋になったのかしら」

「権力は使う為にあるのよ」

「もう好きになさい」

二人が無言になり、温くなった珈琲に口をつける。

「温いわ」

「姉さんが黙らないからでしょう?」

「ブーメランって知ってるかしら?」

再び笑みを浮かべ、にらみ会う二人だった。
 
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