レーヴァティン
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第六十二話 伊勢の巫女その十一
「参るでござる」
「これからな」
英雄が最初に立ち上がった、そして社の方を見た。
「入らせてもらおう」
「それでは」
「しかしや」
ここで耕作は自分達の前を見て眉を顰めさせてこう言った。
「ちょっとやることあるわ」
「何だ」
「子供が泣いてるわ」
見れば小さい女の子がそうなっていた。
「ちょっと笑わせよか」
「子供をか」
「子供は笑うもんや」
そうしたものだからだというのだ。
「それでや」
「今はか」
「あの娘を笑わせてな」
そうしてというのだ。
「それからな」
「行くか」
「笑わせるのは得意や」
それでというのだ。
「そやからな」
「そうか、じゃあそちらはな」
「それがしにやな」
「やってもらう、俺はだ」
どうしてもとだ、ここでこう言った英雄だった。
「人を笑わせる才能はないからな」
「お笑いはかいな」
「笑顔を作るのが下手だ」
その鉄仮面の様な表情での言葉だ。
「どうもな」
「あれっ、落語好きでするやろ」
「いつも動作は付けるがな」
落語独特のそれはというのだ。
「しかし表情はこの通りだ」
「変わらへんのか」
「そうだ、それでもいいか」
「ちょっとやってみてくれるか?」
耕平は英雄のその言葉を聞いて彼に頼んでみた。
「それなら」
「ではな」
英雄はその場で無表情のまま彼が知っている上方落語の一つをしてみた、すると子供にすぐに異変が起こった。そうしてから社の中に入ったのだった。
第六十二話 完
2018・4・15
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