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インフィニット・ゲスエロス

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22話→家族(後編)

 
前書き
遅くなりましたm(._.)m次話はなるべく急ぎます。 

 
愛で空が墜ちてきそうな、書き込み半端ない顔で、一夏は叫ぶ。

「全部知ってて…………だんまりとか!」

悲しみに身を震わせる一夏の全身から、オオッン!という効果音が聞こえ、悲しみのオーラ(!?)が流れる。

え、何この音と青いエフェクト。ISにこんな機能あったっけ?

困惑する太郎を他所に、一夏の嘆きはつづく。

「ひどぃよぉ!?あんまりだぁ!?」

悔しさをにじませた劇画顔で涙を流しながらハンカチを噛む一夏。

いや、ラ○ウ顔でハンカチを噛まれても…………

笑っていいのか、哀れんでいいのか分からないソレを、とりあえず太郎は宥めた。

「そんな怒んなよ」

「怒るわ!」

即座に返されるその返答に、少々太郎は面食らう。

俺の後をちょこちょこ着いてきた一夏が、ここまで俺の前で怒気を発するとは…………

ふむ、宥める協力とかしてくれないかな?

少しでも一夏の怒りを鎮めることに手を貸してもらえないかと、そっと二人を見る。

結論から言おう、期待した俺が馬鹿だった。

束…………ニヤニヤしながら俺の対応を見ている。

(コノヤロウ…………)

何も言わなくても分かる。

あれは一言で言うなら、『観戦モード』

俺があたふたするのを期待している顔だ。

結論、使えない。

千冬…………何を言われたのか、頭を押さえて俯いている。

これは、通常強気な千冬が、普段穏やかな俺や一夏をマジギレさせて、反省と同時にどう詫びたら許してくれるか悩み通している顔だ。

この状態では、千冬が上手いことなだめる事を期待するのは酷だろう。

結論、使えない。

(どうしようもねえな…………)

心の中で溜息をつきながら、言葉を重ねる。

「千冬が言い忘れるなんて、いつものことやん?」

とりあえず、軽くジャブのように会話を紡ぐ。

「限度があるわ!なんで兄貴と子供作ったことまで黙ってるんだ!」

当然のように怒りの反応が返ってくる。

問題はこれ、一夏の怒りが別に間違って無いって事なんだよな…………

ドイツに千冬が一年間出張に行ってたのは、子供作ったからです。

兄貴(俺)の居場所を知っていたどころか、頻繁にあってコトを致してました。

でも全部言ってません。

うん、残当。

もうぐったりしてるバカ(千冬)に全投げしようと考えるが、こういった頭使う事であいつがろくな事したことないんだよな…………。

これは、一夏の甘さにつけこむしかないかな(カス的発想)

「仕方がない、ほら、千冬が連絡事項忘れるなんて、いつもの事だから!」

努めて明るい声で、一夏の説得にかかる。

「小学校の連絡ノート代筆してたし。お前も短い付き合いじゃないんだ、千冬が、わざと忘れた訳じゃないくらい、分かってるだろ?」

小学生の頃から家の家事全てを取り仕切っていた一夏なら、千冬のズボラさなんて、とっくに知っているはず!

まあ、それを差し引いても今回のは酷いが。

俺も、直接渡せないからと渡した手紙類すら渡されてない現実に心折れそうだよ(本音)

…………いかん、いかん。

頭がまた諦める方面に飛んだわ。

今は、一夏の説得が先だ。

頭が冷えてきた一夏に、言葉を紡ぐ。

「ほら、兄ちゃんからも子供達の紹介したいからよ、とりあえずここは収めてくんねえか?」

軽く拝むように、そう一夏に頼む。

予想通り、優しい一夏は悩み始めた。

「え…………うーん、…………いや、いやいやいや、いくらなんでも、今回は絶対おかしいよ!いくらなんでも!」

ちっ、直ぐには納得してくれないか。

「…………まあ、なんだ、今回の関係は俺もガチでバタバタしてて、お前に直接連絡出来なかったせいもある。すまんな」

なら俺も謝るか。

俺は千冬と違い、一夏には幼い頃から良い格好しかしていない。

その俺に対しては、一夏は判定激甘。

そんな俺が謝ったら、一夏はきっと許してくれるさ!

ほら、頭抱えて悩み始めた。

「こ…………今回だけだからな!」

ありがとう一夏。

何回、『今回だけ』の許しを受けたか覚えてないけど、気をつけるわ。

まあ、基本やらかすのは二人なんだがなあ。

溜息一つついて、太郎は言う。

「言葉少ない千冬の説明じゃ、赤ン坊の事、説明不足だろ。俺からも教えるわ」

とりあえず、気分的に最悪だ。

癒されなければ。

そう想いながら、今度は四人で子供部屋に向かう。

向かうといっても、リビングの横だ。ノブをひねれば直ぐに着いた。

子供用ベットに、ぬいぐるみ(抗菌仕様)、そして真ん中に白をベースとした機械が鎮座する。

いつもの子供部屋の光景に安堵しながら、いつも通り子供達にじゃれつかれながら、面倒をみている真ん中の白い機械、通称『子守りロボ』の元へ向かう。

見えてくる可愛い子供達のお陰か、ササクレ立っていた太郎の心は徐々に回復していく。

あー、癒されるわ。

なんかもう全てを投げ捨てて、主夫になりたい。

…………まあ、七年前の件が解決しない限り、無理なのは重々承知だけど。

思い出した『負の遺産』にうんざりしながら、目線を合わせるために近くに座ったあと、まずは一人目を抱き上げる。

「この子の名前はチカ。千冬の『千』に、お前の『夏』を合わせて千夏。可愛い女の子だ」

そう言ってピンク色のモコモコパジャマを着た赤ン坊を抱き上げ、あぐらの中にすっぽり納める。

この場所がお気にいりなのか、両手を叩いて喜ぶ千夏。

その動きに満足感を得ながら、次に近くに寄ってきた青いパジャマを着た男の子を抱き上げる。

「この子は結太。『束』ねると意味が似ている『結』ぶに、俺の太郎の『太』で結太だ」

そう言って次は右の太もも横に置くと、結太は何が楽しいのか、ペシペシと俺の太ももを叩いたり顔をグリグリ当てたりし始めた。

「か、可愛ぅいリィー!」

一夏の言語中枢が壊れ始めた。

まあいい、後は一人だけだし。

そう思いながら、気づけば太郎の左側で服を引っ張ったり押したりしている黄色のパジャマの赤ン坊の頭をそっと撫でた。

「この子は光(ひかる)。女の子だ。光のように可愛いだろう」

最後に『ヒカルノ』の子供を当たり障りなく紹介したが、どうやら深く突っ込まれる心配はなさそうだ。

手を目の前で組んで、祈るように言葉を紡ぐ一夏。

「…………悪い大人、見本筆頭三人から、こんな可愛い子供が生まれるなんて…………神よ!感謝します!」

言うね、お前も。

事実ではあるが、そこまでハッキリバッサリ言われると腹が立つ。

腹が立ったので、おしめを換えさせてみた。

『我が世の春が来た!』

はっや、しかも丁寧。

余裕でこなしてるよ。

くそ、誰だよこの男を家事万能にしたのは!

…………俺だわ。

そんなセルフボケ突っ込みをしながら、なんか悟った聖人みたいにアルカイックスマイルを浮かべながら、子供達の面倒を見る一夏を見る。

これ、外に出たら小鳥が自ら止まりにきそう…………

これは、一夏のヤバイ扉を開いてしまったかもしれん。

身体中に赤ン坊をまとわり着かせながら、仏像ポーズでスマイルを絶やさない一夏にちょっとビビりながら、太郎は一夏と残り二人に赤ん坊を任せて、キッチンに向かった。

決して、今の一夏が怖かったからではない!

と、冗談はともかく、一夏も(主に千冬のせいで)苦労してたし、少しは甘やかしてやろう。

飯の準備くらい、今日は俺一人で準備してやるか。

冷蔵庫横につけてあるエプロンをつけながら、太郎は準備をする。

七年越しの、家族団らんの食卓を。

夕食は和やかにすすんだ。

途中、一夏の『俺に姉はいない、兄だけだ』宣言にまた白目剥いてるアホがいたが、まあ許容範囲内だろ。

疲れているだろう一夏に、早く休むように言って、太郎は仕事部屋に向かった。

さて、後は俺も急ぎの仕事は無いが…………

残念ながら、仕事外でやることがある。

正直、一夏の相手をしたことを含め、一日行った事を総計すると、体力が非常に高い太郎をして、疲れたと言い放つ量があったが、『これ』は後回しに出来ない。

ドアを開け、デスクの一番端にある封筒を開く。

なんのことはない。このIS学園の入学書類だ。

必要事項を入力すれば終わり。簡単なモノである。

通常の学校なら。

まあ、未成年ながらも、扱うのはこの世界の最新兵器、軍事機密である。

国からの推薦書類や、身元を確認する書類など、山ほど取り寄せたり書く書類が存在する。

で、一夏は更に初めての男子高生。

事が露見した時点で、マスコミに追っかけ回される事、確定である。

まあ、『度が過ぎた』やつには此方で処理できるが…………

俺ら『本人』を探すダシにしようものなら、即人生ボッシュートだが、今のところ、俺達の関係者でしかない一夏を、余りに特別扱いすると、本人にも、周りにも良くない。

かつて自身達を取り巻く環境から、その状態が一夏のような普通の感性をもつ者には毒にしかならないと『実感』している太郎は、だからこそ、『ここぞ』という時にしか手を貸す気はなかった。

(だけど…………こんくらいは良いよな?)

IS学園は全寮制、かつ、マスコミ関連は厳しい許可を潜り抜けた一部企業しか参加不可。

更に、一度やらかせば、原則許可は取り消され、再度許可をもらうには年単位の待機時間が必要な場所だ。

つまり、入学後に、無闇に外に出なければ、『一応』そういったプライバシー含めた身の安全は保証される。

つまり、一部の有力者しか一夏がIS装着可能な事を知らない今、この書類を仕上げておけば、一夏が書類の不備等で外に出て、結果、市役所等で客寄せパンダになり、辛い思いをしなくて済むということだ。

まあ、これは兄貴からの『プレゼント』ってことでいいだろ。

恐らく、千冬や束が聞けば『ブラコン』と言われるであろうとうっすら自覚しながら、太郎は書類関連を自室のデスクに広げた。

さて、日付変わるまでにはすませるか。

太郎の夜は続く。

◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️

その頃、一夏は自分用に用意していたという部屋で、ベットに一人寝そべりながら考えていた。

結局、聞けなかったな…………

七年前、兄貴が珍しく真剣な声で伝言を頼んだあの日、何が起こったのか?

食事中聞いてみても、曖昧な笑みを浮かべながら、結局、兄は何も口にしなかった。

(答えられない、か。まだ俺は、兄貴に守られる存在のままって訳かよ)

更に兄を問い詰めることは可能であった。

だが、出来なかった。

『聞いても、お前じゃどうにも出来ない』

そういった意味の返答が返ってくるのが怖かったから。

無意識に手を見る。

七年間、兄の残した器具や指導書で鍛えた、豆だらけの手。

確かに積み上げたその力で、一夏は兄を少しでも助けられれば。そう思っていた。

(まあ、結果はあの様だけどな)

一夏に他人の心を読める異能があるわけではない。

兄がどのくらい一夏を評価し、本気を出していたかなど、言われなければ分かる訳がない。

事実だけ言えば、兄と一夏の戦闘は一方的な『兄の勝ち』だった。

その事実は、一夏の心に、少なくない傷を作る。

昔、子供の頃は踏み込むことができた、兄との『距離』が、今はひどく、遠かった。

(くそっ、気を抜いたら…………眠く…………)

悩んでいるうちに、戦いの疲労が溜まった一夏の体を、睡魔が襲う。

無理もない、深い怪我等は無かったが、全力で戦闘行動を格上に行った『つけ』は、無意識のうちに一夏の体に負担をかけていた。

そのため、体が休める状態にあることで、蓄積された疲労が次第に表面化。

結果として、既に寝そべっていた体は、容易に眠りに堕ちていった。

…………どれだけ、経った後だろうか?

『やあ、はじめまして』

その言葉が、鼓膜を震わせ、一夏は『起きた』。

一夏の目が、『開かれる』

白一色の、奇妙な空間の中で。

(…………なんだ?ここは?)

先程割り当てられた自分の部屋とは似ても似つかないこの場所に、ただただ困惑する一夏。

「ああ、いたいた!」

すると、いくらもしない内に、何故か家族でも、友人でもないのに聞き覚えのある声が、鼓膜を震わせた。

瞬間、白だけの世界に色がつく。

突如、現れた『銀髪の少女』によって。

自然界では有り得ない銀髪をショートカットに、ノーネクタイのスーツで身を固めた、美しい少女。

(誰だろう…………)

声には聞き覚えがあるが、姿には全く覚えがない。

そんな、不思議な彼女の登場に困惑する一夏を尻目に、彼女は一方的に話し始めた。

「あー、ごめんね遅くなって!脳波トレースシステムを通して、君に逢いに来たんだけど、手間取っちゃった!」

一夏、意味が分からず、困惑する。

だが、相手方もそれは承知していたのか、さらりと銀髪の少女は、続けて言葉を口にした。

「あはは、私の姿は初めてでも、私の声には聞き覚えないかな。これでも、君のおにーさんが送ったシミュレーターのナビをしてあげたりしたんだけど?」

「…………あっ!?」

そうか、それで!

一夏がその言葉に理解を示し、警戒心が薄れたと同時に、彼女は笑みと共に言葉を重ねた。

一夏の欲しい言葉を。

「…………太郎の七年前のこと、知りたいんでしょう?良かったら教えてあげるけど?」

「知りたい!」

その言葉に飛び付く一夏を、満足そうに見ながら、彼女は言った。

「なら教えてあげる…………ほら、この手をとって?」

少女はそっと、一夏に手を差し出した。

「…………ああ!」

もはや、少女の正体など、気にならない。

知りたかった事を教えてくれるならば、彼女が何者でも構わなかった。

一夏は、彼女の手を握った。 
 

 
後書き
次回、『七年前の真実』 
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