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インフィニット・ゲスエロス

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閑話4 ヒカルノと太郎(表面)【前編】

 
前書き
最初に→お気にいり登録と評価、ありがとうございますm(._.)m

裏面は→インフィニット・ゲスエロス(リバース)に掲載予定です。 

 
ある昼下がり。

自宅に戻って来た太郎に、ヒカルノは当たり前のように家事を押し付け、自身の子供を含めた3人の子供の面倒を見ていた。

「さ~て、ママが来ましたよ~」

そういって、三人のベビーを抱き上げる。

全員、ヒカルノが抱き抱えた40秒後には、寝息を立てて眠った。

何故じゃ!?

起こす訳にはいかないので、心の中で叫ぶだけだが、ヒカルノは大混乱。

そっとベビーベットに寝かすも、首をかしげた。

ただ、赤ちゃん組からすれば、そうなるのは必然であった。

普段は必要以上に元気な赤ちゃん達も、限界は存在する。

一昨日は束、昨日は千冬が一日オフを利用して構い続ける一日。

勿論お昼寝などの睡眠をを邪魔するような真似はしないが、二人とも体力的にほぼ無尽蔵組である。

そんな彼女らに、一日中遊ばれ(?)た赤ちゃん達が、疲れて無いわけなかった。

結果、見事に今日は『眠いっす』を全身で表現。

授乳以外は、常におねむであった。

流石に悪戯好きなヒカルノも、そんな状態の赤ちゃんに悪戯できる訳もなし。

結果残ったのは、圧倒的!…………空き時間。

なら私が太郎に構って貰おう!

ヒカルノの考えは(ヒカルノにとっては)当然の帰結であったが…………

「…………とりあえず、俺に家事を押し付けるのは構わん。だが仕事の書類の整理はお前がしとけ。その間に家事はやってやるから」

ザックリと断られた。

「ぶー!」

あからさまに頬を膨らませて抗議するも、太郎は黙殺。

「終わったら構ってやるから、さっさとしろ」

そう捨て台詞を残す始末。

背中を向けて、さっさと溜まっていた洗濯物を籠にまとめた太郎は、その身をベランダに出してしまう。

反論しようとしたが、太郎がヒカルノの仕事用のワイシャツを干しているのを見て、流石に止める言葉を失う。

あ、そういえば、替えが5枚あるから、しばらく下着以外洗濯籠に放置してたわ。

横目で見ると、残り二人の物も合わせ、まだ洗ってない洗濯物の籠と、その目の前で回っている洗濯機。

ヒカルノに出来たことは、トボトボと自分の仕事部屋に戻ること、だけであった。

人間、他にやることがないと、素直に普段はやらないことも出来る。

そう気づいたのは、最後の書類をバインダーに整理した後であった。

「終わった~」

時計を見ると、一時間もたっていない。

いくら太郎が得意だろうが、洗濯機の稼働時間が変えられない以上、ある程度暇な時間が出来るのは、必然であった。

「手伝ってもいいんだけど…………」

どうしよっかなー、とヒカルノが部屋を眺めながら悩んでいると、不意にヒカルノの目に止まる『モノ』があった。

「おおっとー」

すかさず手を伸ばし、それを抜き取る。

「へっへー、良い暇潰しみっけ」

そう呟きながら、ヒカルノはその本をめくる。

その本の題名には、こう、書かれていた。

高校卒業アルバム、と。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

ヒカルノが太郎とあったのは、高校の入学式であった。

…………まあ、壇上に上がっている太郎と、それを下から眺めている私、という構図だが。

その頃の私は、まさかその男が旦那になるとは、全く考えてなかった。

そもそも、多分太郎の方も私個人なんて見てないだろうし。

実際、彼…………太郎と頻繁に話すようになったのも、入学式の数日後、太郎が私が仮入部していたパソコン部に来たからである。

…………パソコン部の部費を、十円にするという死刑宣告と共に。

「「「はぁ!?」」」

当然、当時部室にいた人間達は全員で文句を言ったが、太郎は、どこ吹く風とばかりに、言葉を続けた。

「…………先月の部費使用内訳」

ぼそりと、しかし聞こえるように口にしたその言葉に、部室の何人かが反応した。

それすら無視して、太郎は淡々と事実を羅列する。

「雑費…………御菓子類が八割、二割が飲みもの。交通費、半分が私用。最後に設備修繕費に手をつけて、ゲーム機購入…………」

言い終わったあと、ジロリと眼鏡越しに睨み付ける太郎に、当時の先輩達は震え上がった。

あ、これあかんやつや。

…………私は仮入部という形で弄らせてもらったパソコンに目を反らした。

『私』は、やってないし(ポッキーをかじりながら)

更に太郎は続けた。

「あのなあ!俺だって同じ高校生、部室の中の事にグチグチ言いたくねえよ!だけどお前ら迂闊すぎる!」

恐らく会計用の書類であろう、紙束で机を叩きながら、説教続行。

「隣の生物部を見習え!テレビに繋いだゲームは家からの持ち出しだし、御菓子も同様。交通費を使うときも、私用と公用を混ぜるために、ちゃんと行った場所で必要な物を買って請求してる。ここまですれば、ばれないし言わんわ!」

水槽ポンプ代、と書かれた領収書の店の場所は、電気街やマンガ、ゲーム店が立ち並ぶ駅の名前が書かれていた。(恐らくこの駅である必然性はないが、部の備品をちゃんと買っているのでOK、なのだろう)

ちなみにその下には、淡水魚捕獲とレポート作成という名目で電車の一日パス券の、人数分の領収書などが連なっている。

なるほど、さっさと現地でレポートを仕上げてしまえば、後に残されるのは自由時間と一日パスのみ、という訳か。

…………真の意味でヤバイのは、高校生の身分でそんな粉飾決算工作を行える生物部の方ではないだろうか?

そう、下らない考えが頭をよぎったが、どうやらそこら辺の所謂『ズルい』真似は、太郎的にはOKらしい。

太郎は一息で問題点を言い切ると、最後にバッサリと纏めた。

「昔からやってるから、どうせ、はした金で上は判子押してるだけだから、なんて通用しない。知ってると思うが半年前からこの学校は改築の準備を始め、色々生まれ変わるレベルで改装する予定だ。勿論、メディアや市区町村からも注目される。このままズルズルとやっていざバレたら、良い恥さらしだ!」

(その注目集めた原因、あんたらの『せい』な気がするなあ…………)

太郎を含めた、超人三人をこの学校に入学させるため、理事長と校長のダブルス土下座が行われたと、専らの噂である。

実際、同じ中学の先輩によると、三人の入学が推薦(物理)で決まった直後に、校内新聞で号外出したらしいし。

つまり、この学校が余計な注目浴びたの、あんたらのせいじゃない?

別にパソコン部のお歴々がやっていた不正が消えた訳では全くないが、そんな空気が流れる。

そのような視線と空気に気が付いたのか、太郎は初めて、申し訳無さそうに咳払いした。

「…………まあ、その原因の一端は俺にあるだろう…………だが、俺は謝らない!」

だが、そのようなしおらしい態度は始めだけ。

太郎に目線を向ける皆に対し、逆に胸を張って答える。

「コンビニが高校の中にあると便利だろ?『私達の学校、校内にカフェがあるんだけど……』とか元中学の奴に自慢できると嬉しいだろ?そんな便利さと引き換えだ!悪い取引じゃあるまい!」

流石に全員では無かったが、大半の人間は『確かに…………』と首肯く。

誰だってプライドはある。何もしないのに、自分の学校が便利に、恰好よくなることにより、周囲から羨望の目で見られるのを否定的に見る人間はいない。

現実的にみても、校内にコンビニとかマジで便利だし。

さて、こういう空気になると、逆ギレ気味に太郎を叩くことも難しくなる。

逆ギレするには、皆の気持ちが太郎に好意的に傾いてしまったからだ。

実際、恐らく責任者として吊し上げられる(予定)と書かれそうな部長と副部長は、真っ青通りすぎて、真っ白になっていた。

進退極まる。

正にその言葉がぴったりの状況に、場は固まった。

(やるねえ…………)

何処から頼まれたのか知らないが、場と空気を読み、伝える必要がある言葉を、きちんと相手の頭に届かせるその手法に感心していると、初めて太郎と眼があった。

いや、太郎が私に目を向けた。

何が琴線に触れたのか私にはわからんが、メッチャ見てる。

おや、目をつけられたかな(冷汗)

これは、さっさと部長(生贄)を差し出して逃げないと…………。

そう考えていると、先程まで険しかった顔を、にこりと笑顔に変えた。

「でも、『直ぐに漠然と何かしろ!』なんて事を言われても困るよね?分かるよ」

そう、あからさまに優しい口調で言い始めた太郎に、ヒカルノの背筋に悪寒が走る。

に、逃げないと…………

だが、部室の出口の関係上、この位置からこっそり出ることは、不可能。

そして、この空気で目立つ真似をしようものならどの様な奇異の目を向けられるか、そんなこと考えなくても分かった。

つまり?→八方塞がりだよ!

ガッデム!

そう心中で叫んでいる間にも、事態は動いていた。

太郎は、掴んでいた紙束の後ろから、ホチキス止めされた十枚程度の書類を、部長の前まで歩いて渡す。

ゾンビの如く、ふらふらとその紙をつかむ部長。

その部長に対して、努めて優しい声で太郎は続ける。

「簡単にだけど、建て直し計画を立ててきたんだ。勿論、生徒会などにも根回しは済んでるから、これをやれば部費は元の値段貰えるよ」

元のように『自由に使える』とは、言わないのがミソである。

「お、おぉお………………」

地獄に垂らされた、蜘蛛の糸。

声を上げた部長は勿論、周囲の部員の表情にも安堵が広がる。

それを待って、太郎は最後にこう言った。

「同意が得られて何よりだよ。なら直ぐに生徒会に報告したいから、パソコン部の代表として、一応、彼女を借りるね?」

………………。ヱ?

なんで話の中に私を連れていくの組み込んでるの?

これ、断れないじゃん?

副部長と歓喜の涙で抱き合っている部員や、早速太郎の書類の中身を見ている部員を横目に、私は頭を押さえながら、言った。

「あー、はいはい、行きますよ、太郎さま~」

そう投げやりに言う、私に向かって、気づいてないかのように振る舞う太郎は、こう言った。

「名前を知っていただいているようで、何よりだよ。話が早くて済む」

そして、彼は部室から二人で出ながらこう、言った。

「君は僕を知ってるらしいけど、僕は君の名前を知らないんだ?だから教えてくれ…………君の名を?」

これが、私と太郎のファーストコンタクト。






 
 

 
後書き
現代

ヒカルノ「なんで、初めて会ったときに私を指名したの?」

太郎「理由はあの日に説明した事もあるが、一番は一人で百面相しながら謎のジェスチャーしてたから」

ヒカルノ「ガッデム!」 
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