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人徳?いいえモフ徳です。

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二匹め

その世界は異質だった。

まず球形でない。

否。天球の中の杯。

その杯には水が注がれ、その上に環状の大地が浮かんでいた。

環状世界フローティア。

円環の女神サークリオンの造り出した世界。

その管理者スペース……通称神域。

「おや…おやおや」

女神サークリオンは自らが作り上げた世界に異物が紛れ込んだのを察知した。

「ふむ…ゴースト…いや魂だけですか」

今にも壊れそうな、否壊れかけた魂。

サークリオンは手を伸ばし、その魂を神域に掬い上げた。

「ふむ。この魂のパターンはヤハウェの所の子供ですね。
それも吸血鬼ですかぁ…」

ヤハウェは道を外れた子供を救済しない。

「おやまぁ、なんとも…覚醒前に殺されるとは運がない」

手の上にのせた魂は今もなお壊れつつある。

「ヤハウェの円環から弾かれたのですね…」

それは円環の女神たるサークリオンからすれば許しがたい事である。

その怒りがむく先は迷い混んだ魂ではない。

かの神の暴虐に怒っているのだ。

全知全能や愛を謳いながら、自分に背いた物を悪と断じる悪辣の神に。

「いいでしょう。私の世界に迷い混んだ以上この子は私の子です」

サークリオンはその壊れかけた魂を修復し、近く生まれてくる赤子に宿らせる事にした。

「おや…? あの子は…」

サークリオンが下界に目を向けたとき、ちょうど一人の女が見えた。

ピンととがった耳、ふさふさの一本の尻尾。

「あの子はたしか…彼女の…」

サークリオンはほんの数千年前の事を思い出す。

その時も魂が迷い込んできていた。

そしてその魂を自らの円環へと受け入れ…

サークリオンはその女を見つめた。

その魂の半分は、やはりサークリオンが転生させた者から分け与えられた物だ。

「タマモの娘…彼女なら…」

サークリオンの手の中の魂が泡に包まれる。

女神はその泡をそっと、下界へ落とした。












フライハイト王国、その王都の一等地。

そこでは赤子の鳴き声が響いていた。

大きな屋敷の中の一室で新たな命が生まれたのだ。

小さく儚いその命は大声で泣き、その存在を世界に知らしめる。

「シェルム。お前の子供だ」

九つの尾をもつ女が赤子を抱いている女へ声をかけた。

女にも耳と尻尾があるがその身長は一本だけだ。

言うまでもなく、彼女の腕の中の赤子にも狐の耳と尻尾がある。

「はい…。お母様」

九尾を母と呼んだ女の名はシェルム・フォン・シュリッセル。

この国の宮廷魔術師を率いる魔術師。

この国の国防の要であり魔法学の権威だ。

「シェルム。ところでお前の夫は何をしておるのだ?」

対する九尾の名はタマモ。

中国皇帝をたらしこみ、日ノ本へ渡り殺生石として封印された白面金毛九尾乃前…玉藻御前そのものである。

「ブライは、国王陛下の命にて邪龍討伐に赴いております」

「ちっ…あの小童あとで絞める」

なお国王はすでに60を迎えようとしている。

それを小童呼ばわりできる玉藻の年はもう本人ですら覚えていない。

「では円環の儀式といこうか」

円環の儀式とは生まれたばかりの赤子に名を与え、ステータスプレートを作ることだ。

その時に円環の女神サークリオンの加護が与えられる故に円環の儀式と呼ばれる。

「シェルム。この子の名は?」

「シラヌイ」

「ほう『不知火』か。懐かしい響きだ。
それに、相応しき名でもある。
まぁよい。シラヌイじゃな?」

タマモが赤子を受け取り、魔方陣の上に置く。

その額に空白のステータスプレートを置き…

「神よ。新たなる生を円環へ受け入れ給へ。
かの名はシラヌイ。円環の加護を新な子に与え給へ」

ステータスプレートが発光し、文字が浮かび上がる。

名 シラヌイ・シュリッセル
性別 男
種族 ルナール
年齢 0
クラス 未定
level 1
スキル エナジードレイン 円環の祝福
リインカーネイター(封印)

それを見たタマモは、クスリと笑った。

「よもや…儂を除いてサークリオンに会った魂がおるとはのぅ…
して封印という事はまだ目覚めておらぬのか」

「お母様?」

「なんでもない」





シェルムは出産の疲れで眠っている。

その傍らでタマモはシラヌイを抱いていた。

「シラヌイ」

「あー?うー?」

「儂の言葉がわかるか?」

「うー?」

「だめか…まぁよい」

タマモがシラヌイの額に指を当てた。

「魂橋」

タマモの意識が落ちる。落ちる。落ちる。

そうして、タマモは真っ白い空間に立っていた。

その空間には、一本の木がはえている。

その木だけは幹は茶色く、葉は青く、色があった。

そして、その木には一人の人間が埋め込まれていた。

小さな男児で、その目は閉じられている。

「シラヌイ。聞こえておるかの?」

だが、木と同化した男の子は起きない、答えない、眼をあけない。

タマモがその木の周りをぐるりと一周する。

「ん?なんじゃこれは?」

幹に、文字が書いてあった。

不知火の反対側の幹だった。

その文字はタマモが現在生きている世界の文字ではなかった。

漢字。彼女の前世の世界の文字だった。

『タマモへ。貴女の事です、きっとここに来ていることでしょう。
彼は吸血鬼の幼子でしたが、目覚める前に殺められ、ヤハウェの救済を受けずにフローティアにやってきました。
その精神を修復し、貴女の娘の子供に宿らせました。
諸々の理由で現在は眠らせています。
五歳になったら目覚めるはずですから、その時には彼にいろいろ説明してあげてください。
サークリオンより
追伸。食べちゃダメですよ?』

「くく…サークリオンらしいのぅ…。
まぁよい。主神様の言い付け。
守るしかあるまいな」

タマモはその意識をシラヌイの中から引き上げた。

「さて、五年後が楽しみじゃのぅ…」
 
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