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リング

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88部分:ニーベルングの血脈その二十


ニーベルングの血脈その二十

「俺の入った士官学校はパイロット養成の士官学校でな。喧嘩っぱやい奴が揃っていた」
 第四帝国の士官学校は複数あったのである。ローエングリンも士官学校出身であるが彼のそれは艦隊指揮官等を育成する学校の一つであった。ジークムントのいた士官学校とはまた別の学校であった。
「その中でも俺は特に血の気が多かったがな」
 ニヤリと笑いながらこう言った。
「その中で静かな奴だったよ」
「そうだったのですか」
「他の奴が喧嘩していてもあいつは何もしなくてな。それでも何でも出来た」
「優秀だったとは聞いています」
「俺と常に成績を張り合っていたさ。実技では俺の方が上だったが頭を使うのじゃあいつの方が上だった」
 これは実にそれぞれの適正がよく出ていた。ジークムントは天才肌であり直感で動く。それに対してメーロトは努力肌であり状況を見極めて動くのである。
「結果はあいつが主席だった。俺は次席だった」
「そうだったのですか」
「それからパイロットになってな。そこでも一緒だった」
「長い付き合いだったのですね」
「ブラバント司令の艦隊に配属されたのもな。一緒だった」
 彼は言った。
「あのクンドリーって女を追う時まで一緒だったさ。あの時まではな」
「しかしあの時に」
「あいつは俺を裏切りやがった」
 声に怒気が含まれた。
「いきなり後ろから撃ちやがった。気が着いた時には俺はもうベッドの上だった」
「その間にメーロトは」
「帝国軍の司令官になってあちこちを荒らし回っていやがった。俺はあいつを討つ為に司令から艦隊を借りて今まで戦ってきたんだ」
「そしてナイティングまで来られた」
「本来なら艦隊戦で決着を着けたかったがな」
 ジークムントはそれが少し残念そうであった。
「あそこで空母を使ってな。俺のこの手で奴の旗艦を沈めてやるつもりだった」
「提督御自身が」
「奴は俺がやる」
 声には怒気が含まれたままであった。
「いいな、あいつだけはやらせてくれ」
「はい」
「俺を裏切ったことをあの世で後悔させてやる。ヴァルハラには行かせはしねえ」
「ムスペルムヘイムにですか」
「そうだな。奴には似合いの場所だな」
 ジークムントはそれを聞いて頷いた。ムスペルムヘイムとは炎の巨人達が住む世界であり罪人達が行く世界であるとされている。罪人達はそこでその罪と身体を焼かれるのだ。
「その為にも」
「提督御自身の手で」
「そういうことだ」
 ジークムントの目には最早怒りと憎しみしかなかった。それを抱き先に進む。その怒りを持って彼と部下達はその山地に遂に辿り着いたのであった。
 まずは山地の麓の要所を押さえる。それから山に入る。その先頭には彼自身がいる。
「提督」
 そんな彼に部下達が声をかける。
「何だ?」
「あまり戦闘に行かれない方が宜しいかと」
「危ないとでも言うつもりか?」
「そうです」
 部下達はそれが言いたかったのだ。
「我々と違い軽装ですし」
 見れば普段指揮を執っている時のジャケット姿のままであった。
「それに目立ちます。あまり先に出られると」
「それが狙いなんだよ」
 だが彼の返答は不敵なものであった。
「狙いといいますと」
「奴も当然俺がここに来たのは知ってるだろう」
「おそらくは」
「そして俺のことも知っている。なら俺が来ているとわかれば」
「自分で来る」
「そうだ、俺はそれを待っているんだ」
 その声が強くなった。
「奴が俺の前に姿を現わすのをな」
「それで先に進まれているのですか」
「何、そうそう敵の弾になんか当たりはしねえよ」
 これには絶対の自信があった。
「俺はな、今まで敵の弾に当たったことはねえんだ」
「はあ」
「何処から来るのか、直感でわかるんだよ。大抵のことはな」
 また彼の持ち前の直感が大きくものを言っていた。
 
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