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リング

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51部分:ローゲの試練その五


ローゲの試練その五

「何がだ」
「ローゲを開発した科学者に関してです」
「一体どの様な者だったのだ?」
「何でも科学に関する知識及び才能は相当なものだったそうですが」
「他に問題のある部分があったのだな」
「その通りです」
 彼はこう答えた。
「人格破綻者だったそうです」
 よくあることと言えばよくあることであった。その才能と人格は全く別物である。天才的な音楽家が人間としては最低だということもある。人種差別主義者でも、浪費家でも、女癖が悪くとも音楽での才能はあるというわけである。無論その逆も両方備わっている場合もある。
「何でも人の命を全く何とも思わず、そして自らが最も優れた者だと妄信していたそうです」
 所謂マッドサイエンティストである。
「多くの者が彼の実験により命を落としたそうです」
「その男の名は」
「ミーメ」
 彼は答えた。
「ミーメ=フォン=ニーベルングといったそうです」
「ニーベルングだと!?」
 ニーベルングという言葉を聞いてローエングリンの顔色が一変した。
「ではその者もまた」
「はい。何でもクリングゾル=フォン=ニーベルングとは兄弟だったそうです。彼の弟だったとか」
「そうだったのか」
 はじめて知ったことであった。知ると余計に何かおぞましいものを感じずにはいられなかった。
「あの男の弟が、か」
「科学者としては天才だったといいます」
「科学者としては、か」
「人間としては。そうした男だったそうですが」
「だが死んだのだな」
 ローエングリンは問うた。
「はい」
「その男が死んだのは報いだが」
 ローエングリンの顔は喜んだものではなかった。
「バイロイトが崩壊し多くの者が世を去ったのは許せるものではない」
「ですね」
「そして陛下も我が叔父も死んだ。全てはニーベルングの為だ」
 その声に怒りが篭る。
「許せるものではない。だからこそ私は立った」
 それが彼が帝国に反旗を翻した理由であった。
「それにニーベルングという男にはよからぬものを感じる」
「よからぬもの」
「魔性だ」
 彼は言った。
「魔性」
「そうだ。以前はそうではなかった」
 彼は言う。
「最初はな。ごく普通の一軍人でしかなかった。だが事故から一人生還した後で」
「大きく変わっていたと」
「まるで別人だった」
 ローエングリンは言葉を続けた。
「性格も能力も。全く変わっていた。最初は後方で事務をしているのが最も似合っていた」
「それがあそこまで」
「変わった。何かあったのかもな」
「あの男については不明な点が多過ぎます」
 フルトヴェングラーが言った。
「あまりにも。その出生すら今では疑問視されている程です」
「軍人として記載されていたあれは偽造だったそうだな」
「どうやら」
「全てがそうだ、あの男は」
 彼はまた言った。
「その全てが不明だ。その正体は謎に包まれている」
「ですが一つだけはっきりしていることがあります」
「わかっている」
 彼はフルトヴェングラーのその言葉に応えた。
「この銀河を征服せんとしていることだな」
「はい」
 フルトヴェングラーはその言葉に頷いた。
「それだけは間違いないかと」
「少なくともあの男にこの銀河を渡すわけにはいかない」
 ローエングリンの声が毅然としたものとなった。
「そうなれば恐ろしい世界になるだろう」
 彼はそう感じていた。クリングゾルから放たれる魔性から。それを防ぎたくもあった。
「だからこそまずはミュンヘンを占領する」
「はい」
「それから帝国軍を退けこの辺りの星系を全て掌握する。そして力を蓄えるぞ」
 それが彼の戦略であった。
「帝国に対抗する為に」
「わかりました」
「ではこのままミュンヘンに向かう」
 彼の戦略はまずそこからであった。
「いいな」
「了解」
 こうして行動が進められていった。そしてローエングリンの艦隊は予定通りミュンヘンを占領したのであった。
 
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