| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

リング

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

47部分:ローゲの試練その一


ローゲの試練その一

                   ローゲの試練   
 銀河の戦乱により多くの血が流れていた。そして彷徨う者達も多く出ていた。
 その中でかって帝国の基幹戦力であった艦隊は各地に四散している状況となっていた。だがその中で比較的安定した状態にあり軍を維持している者達がいた。
 かって銀河帝国の艦隊司令の一人であり軍の要職にあったローエングリン=フォン=ブラバントの軍である。彼は自らの下にあった五個艦隊をほぼ無傷でブランシュヴァイク星系に置いていたのである。
 彼はかっての帝国では名門の出身であり優秀な提督として知られていた。リェンツィ帝の忠実な腹心であったリスト=フォン=ブラバントを叔父に持ち、その地位も高かった。堅実で無駄のない采配で知られ、最年少の元帥になるのも時間の問題とさえ言われていた。
 だがクリングゾルの軍がその運命を変えた。仕えるべき国家と皇帝、そして叔父をなくした彼は帝国に反抗する道を選んだがとりあえずは戦力を維持する為にブラウンシュヴァイクに逃れた。そしてそこで帝国に反抗する機会を覗っていたのであった。
「宜しいのですか」
 そのブラウンシュヴァイク星系の惑星の一つオスカーの軍事基地の司令室に彼はいた。そして部下の一人の問いに耳を傾けていた。
「何がだ」
 司令の椅子には若い男が座っていた。赤茶色の髪を後ろに撫で付け、ブラウンの目を持っている。絵画の様に整った端整な顔を持ち、そこには堅実で知的なものさえ漂っていた。丈の短い黒い軍服を着ておりそれが実によく似合っていた彼がそのローエングリン=フォン=ブラバントであった。ここに展開している軍の司令官でもある。
「ジークムント閣下を向かわせて」
「構わない」
 彼はそれよしとした。
「一個艦隊ならば。もうじき再編成出来る」
「いえ、そういう問題ではなく」
 部下はまだ言葉を続けた。
「閣下は。あのご気性ですから」
「一軍を指揮するのには合わないと言いたいのだな」
「はい」
 彼は答えた。
「あくまで私の考えですが」
「確かに彼の気性は激しい」
 ローエングリンはまずはそれを認めた。
「はい」
「それは艦隊の司令としてどうかと思う。卿の危惧はそうした意味で的確だと言えるな」
「では何故」
「だが誰にも欠点はあるものだ」
 彼はここで述べた。述べながら席を立つ。
「誰にでもな。そして」
 言葉を続ける。
「長所も。彼にはそれを補って余りある長所があるのだ」
「それは」
「センスだ」
 ローエングリンは言った。
「センス」
「そう、彼は天才的な戦争のセンスがある。これはおそらくこの銀河一だろう」
「天才ですか」
「その点では私なぞ足下にも及ばない。特に航空機を使った作戦はな」
「閣下は元々戦闘機に乗っておられましたから」
「それもある。だが彼は言うならば軍人になるべくして生まれてきたのだ」
 ローエングリンがここまで人を褒めるのは珍しかった。いつもは人の評価そのものをあまり口にはしない男であるからだ。
「だから安心していい。彼ならばきっとやってくれる」
「メーロトの捕獲をですか」
「それだけではない。クンドリーももしかするとな」
「クンドリーも」
「あの女の居場所はまだわからないのだな」
「はい」
 部下は答えた。
「行方は。ようとして」
「そうか」
 ローエングリンはそれを聞いて頷いた。
「また何処かで。暗躍しているのだろうな」
「おそらくは」
 部下は答えた。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧