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リング

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4部分:ファフナーの炎その三


ファフナーの炎その三

 ヴァルターはその指揮官も務めていた。彼はスードリの軍事、行政両方における統治者であったのだ。だからこそ今艦隊を率いていた。
 このザックス級戦艦はバイオCPUを搭載していることで知られている。その為かなりの高性能を発揮しているのである。只の最新鋭艦ではなかったのである。
 ヴァルターはその艦橋にいた。そして来るであろう敵を見据えていた。その彼のもとにまた報告が届いてきた。
「司令」
 艦隊を率いている場合はこう呼ばれる。彼は軍人でもあるのだ。
「来たか」
「はい」
 幕僚の一人ナハティガルが応えた。
「前方からやって来ます」
「前からか。また大胆なことだな」
 彼はそれを聞いてこう述べた。
「一体何物だ。それともかなりの数だというのか」
「それが」
 だがその幕僚は口を濁していた。
「何かあるのか」
「はい。何かおかしいのです」
「おかしい」
 ヴァルターはそれを聞いてその知的な眉を顰めさせた。
「どういうことだ」
「これを御覧になって下さい」
 幕僚はそう言うとモニターのスイッチを入れた。そしてそこにバイオCPUによるコンピューター映像が映し出された。
「これは」
 それを見たヴァルターの顔が強張った。
「馬鹿な、有り得ないことだ」
「あれは一体」
「ファフナーだ」
 そこには巨大な黒い竜がいた。どう見ても生物であった。その巨体の周りに青白い稲妻も覆っている。禍々しい異形の姿であった。半透明の姿に長い首の上にある邪悪な頭をヴァルター達に向けていた。
「ファフナー」
「バイロイトを崩壊させたあの」
「そうだ」
 ヴァルターはその整った顔を強張らせたまま答えた。
「それが一体何故ここにまで」
「わからない。だが一つ言えることは帝国軍がここまで来たということだ。ヴァルハラ=ドライブをも無視してな」
「ヴァルハラ=ドライブをも」
「そうだ。そして」 
 言葉を続けた。躊躇いながらも。
「あれをどうにかしないと我等は滅びる。確実にだ」
「バイロイトの様に」
「すぐに総攻撃を仕掛けよ」
 ヴァルターは指示を下した。
「そして叩き潰せ。よいな」
「ハッ!」
 こうしてすぐに総攻撃が加えられた。五十隻の艦艇によるビームとミサイルの攻撃が加えられる。だがファフナーはそれを受けても全く動じてはいなかった。
「駄目です、まるで効果がありません」
「馬鹿な、そんな筈がない」
 ヴァルターはそれが信じられなかった。
「これだけの艦隊の攻撃を以ってしても。どういうことだ」
「まさか我等の攻撃を無効化する新兵器を搭載しているとか」
「ならば撃破は不可能だと」
「そんなことは有り得ない」
 ヴァルターは幕僚達の言葉を否定した。
「この世に破壊できない兵器なぞ存在し得ない。そんなこともわからないのか」
「ですがこのままでは」
「わかっている」
 ヴァルターは戦いとは別の決断を下さざるを得なかった。
「住民をシェルターに入れよ」
「はい」
「全ての住民をだ。よいな」
「わかりました。それでは」
「バイロイトがどういった崩壊をしたのか詳しくは知らないが」
 彼はファフナーを見据えながら言った。
「幾ら何でも地下深くまで潜り込んでは手出しの仕様があるまい。これでいい」
「艦隊は如何致しますか」
「一先後退する」
 艦隊に対しても指示を下した。
「フランケン星系まで後退する。よいな」
「わかりました」
「住民はシェルターにいれば当分は大丈夫だ。そしてファフナーをやり過ごす」
 妥当な案であった。しかしこれがヴァルターにとって最大のミスとなってしまうことにこの時彼は気付いてはいなかった。
 
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