リング
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3部分:ファフナーの炎その二
ファフナーの炎その二
「身元をですか」
「そうだ。若しかするとクリングゾルのスパイかも知れない」
「まさか」
「そう断言できすか」
彼はそう言って部下を見据えた。
「それは」
「できないだろう。こうした時代だ。少しでも疑わしい場合は確かめておかなくてはならない」
冷徹とも聞こえる声でこう述べた。
「いいな、すぐにだ」
「わかりました」
こうしてクンドリーの身元が調べられることになった。だが命じたその日のことであった。
「クンドリーの姿が見当たりません」
「何っ」
それを聞いたヴァルターの青い目が光った。
「それは本当か」
「はい。何処にも。何処に消えたのやら」
「まずいな」
彼は顎に自分の手を当てて呟いた。
「まずいといいますと」
「すにぐマイン全域に戒厳令を敷け」
「戒厳令をですか」
「それだけではない。第一種戦闘配備だ」
彼は続けて指示を下した。
「それにより内外に備えよ。さもないと大変なことになる」
無機的な、機械があちこちに見られる執務室において彼は指示を続けた。
「私の危惧が正しければ」
言葉を続けた。
「クンドリーはスパイだ。クリングゾルのな」
「クリングゾルの」
「そうだ。だからこそ戒厳令を敷くのだ」
彼は言う。
「戦闘配備もだ。急げ」
「は、はい」
部下達は戸惑いながらも頷いた。
「敵が来る前にな」
だがそれは遅かった。軍服を着た男が一人ヴァルターの執務室に駆け込んで来た。グレーの、第四帝国の将校の軍服を着た男であった。
「執政官、大変です」
「どうした、ダーヴィット大佐」
ルシャナはダーヴィットに顔を向けて問うた。
「敵です、クリングゾルの軍が来ました」
「馬鹿な、そんな筈が」
ヴァルターはまずはそれを否定した。
「ヴァルハラ=ドライブは全て遮断している筈だ。それが何故」
「わかりません。ですが」
武官はそれでも言う。
「何かがこちらに向かって来ております。かなりの大きさです」
「かなりの」
彼はそれを聞いて首を傾げさせた。
「隕石か何かか」
「わかりません。とにかくとんでもないもののようです」
「わかった。今すぐ軍を出撃させよう」
ヴァルハラは決断を下した。そして周り者達に対して言った。
「駐留艦隊を出撃させる」
「ハッ」
「私も行こう。何が来たのかこの目で確かめたい」
「わかりました。それでは」
「ああ」
こうしてルシャナ自身も出撃することになった。思えばそれが運命の分かれ目であった。
このマインには駐留艦隊も存在していた。その数約五十。帝国の新型艦であったザックス級戦艦を旗艦としている。帝国崩壊前までは辺境地域の防衛艦隊であったのだ。
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