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33部分:エリザベートの記憶その十一


エリザベートの記憶その十一

「やはりこの二つのブラックホールが大きいですね」
「ああ」
 タンホイザーは艦橋に映し出される映像を見て応えた。その映像はローマの生体コンピューターを使って映し出されたものである。
「敵がこれをどう使うかです」
「考えられるのはここに我が軍を追い落とすことだな」
「ブラックホールの中に」
「そうだ。奇襲を使ってな。これなら兵力が多くとも勝てる」
「確かに」
 参謀達は彼の言葉に納得した。
「おそらくは我等を誘い出す。そして」
「ブラックホールに、ですか」
「それならばそれでこちらにも考えがある」
「どういったものでしょうか」
「まずはその誘いに乗ろう」
 彼は言った。
「ニーナに入るぞ」
「はい」
「そしてブラックホールの側まで行き」
「そして」
「反転だ。だがここで敵の艦隊の数に注意しろ」
「二つですが」
「そう、二つだ」
 彼は言った。
「ブラックホールは左右に並ぶ形で存在しているな」
「はい」
「左右にだ。我々がその間に来ると」
「前後から挟み撃ちも考えられます」
「若しくはそこで急襲を仕掛け混乱状況に陥れる」
「どちらにしろここで攻撃を仕掛けてくるのは間違いないだろうな」
「それでは」
「前以てエッシェンバッハ提督にはアンスバッハに向かうことを伝えよ」
「ハッ」
「まずはそれを行え。それから我等はアンスバッハへ入る。いいな」
「わかりました」
 こうして彼は新たに新編成された艦隊にそれを伝えた後でアンスバッハに向かった。そして予定通り二つのブラックホールの間に向かった。
「敵艦隊は」
 タンホイザーはローマの艦橋で問うた。
「今のところ姿も形もありません」
 無人偵察艇の通信を受けたビテロルフが応えた。
「そうか。だがそろそろ来るぞ」
 彼の読みが正しければ、である。
「いいな、来たならば」
「予定通りに」
「そうだ。わかったな」
「はい」
 彼等はそのままブラックホールの間に入った。それと同時に密かに戦闘態勢に入った。
「来ました」
 部下から報告があった。
「後ろからです」
「よし、後方の一個艦隊で迎撃しろ」
「了解」
「もう一個敵がいる筈だが」
「下から来ているようです」
「よし、そちらには残る二個艦隊で一気に潰す」
 彼はここで艦隊を二手に分け、それぞれの敵に軍を振り分けてきた。
 彼は二個艦隊を直接率いて下の敵艦隊に向かう。そのまま一直線に下った。
「火力を前面に集中させるぞ」
「了解」
「そして一気に突ききる」
 その言葉通り動いた。まずは下の敵艦隊に攻撃をありったけぶつけた。
 二倍の戦力の一斉攻撃を受けてその艦隊は忽ち崩れた。一個艦隊を崩すとタンホイザーはそれを突破した。そして防いでいた艦隊に向かう。これも一気に蹴散らした。
「まずはこれでよし」
 そして三個艦隊を素早くブラックホールから離す。タンホイザーはその上に布陣した。
「敵の戦力は半減したな」
「お見事です。まさか敵の動きを逆手にとられるとは」
「動きさえ読めればどうということはない」
 彼は答えた。
「これで敵と我々の戦力差は歴然たるものになったが。さて、どうするかな」
「公爵」
 ここで連絡将校が一人艦橋にやって来た。
 
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