リング
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32部分:エリザベートの記憶その十
エリザベートの記憶その十
流石にこの辺りは帝国の勢力圏となっている星系が多かった。だが艦隊はなくまずは順調に占領を進めていった。
「思ったより帝国軍の抵抗が少ないな」
「やはりワルキューレにも兵を向けているせいと思われます」
「ふむ」
「こちらの戦線には十二個の艦隊を置いていたそうですがそのうちの一個はあのチューリンゲンでの戦いでワルキューレに倒されてしまったそうです」
「そうか」
「そして一個は我々が撃破しました。これで十個です」
こう述べていく。
「まだ方面軍としてはかなりの戦力だな」
「そのうち我々にあらたに向けられているのは二つの様です」
「二つか」
「残る八個艦隊のうち五つは紫苑の海賊に向け、そして三個艦隊をラインゴールドに置いております」
「予備兵力か」
「それと同時にニーベルングの護衛かと」
「ニーベルングのか」
タンホイザーの目が動いた。
「はい。この三個艦隊はかなりの精鋭だと思われますが」
「しかも彼が直率している」
「おそらくは」
「彼はその艦隊で我々か紫苑の海賊には向かわないのか」
「何故か動く気配はありません」
「ふむ」
その言葉に頷く。
「何か。それよりも重大なことの為にあの星系にいるようです」
「その重大なことが何かまではわからないな」
「残念ながら」
「まあよい。まずはこちらに向かって来ている二個艦隊を叩くとしよう」
彼はまずは向かって来ている敵を倒すことにした。
「敵はどういった航路で来ているか」
「少し変わった道を採っております」
「変わった道を」
「はい。ラインゴールドから大きく迂回してこちらに来ております」
「迂回してか」
「そしてアンスバッハ星系で動きを急に遅めております」
「アンスバッハでか」
それを聞いたタンホイザーの眉が動いた。
「あの星系でか。成程な」
「何かあるのですか?」
「うむ、あの星系には巨大なブラックホールが二つある」
「はい」
「それを使って我々を迎え撃つつもりだろう。細かいことまではわからないが」
「では避けますか?彼等を」
「いや、そういうわけにもいくまい」
彼はそれはよしとはしなかった。
「ここで彼等を叩かなければ後顧の憂いを作る。それに彼等はそのラインゴールドの通り道にいる」
「やはり戦いますか」
「そうするしかあるまい。それでは行くぞ」
「了解しました。ですが」
「最後の艦隊がまだか」
「どうされますか?」
「今彼等はチューリンゲンにいたな」
「はい」
「司令官は確かヴォルフラム=フォン=エッシェンバッハ提督だったな」
彼が信頼する提督の一人である。老齢ながら堅実な采配で知られる人物である。タンホイザーの軍においては最長老でもある。
「そうだな」
彼はここで暫し考えた。そしてそれから述べた。
「ここは彼に任せよう」
「任せるとは」
「無闇に合流を強制はしない。ここは彼には自由に動いてもらう」
「遊撃戦力ですか」
「そうだ。そして我々はこのままアンスバッハに向かう。よいな」
「了解」
こうして方針が決定した。タンホイザーはそのまま軍を進めアンスバッハに向かった。そして同時にアンスバッハの調査を細かく進めるのであった。
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