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リング

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17部分:ファフナーの炎その十六


ファフナーの炎その十六

「よいな。まずは後ろからだ」
「はい」
「それが終わってからでいい。前に進むのは」
「わかりました」
 ヴァルターはまずは後方の足場を固めた。そしてそれが整ってからナイティングに兵を進めた。その数四個艦隊、かなりの戦力であった。
「ヴェルズングの軍はどうしているか」
 彼は進軍の途中で部下にこう問うた。
「はい。既にナイティングに侵攻しているようです」
「速いな」
「どうやらグレイプの艦隊はそちらにかなりの部分が向かっているようです」
「ふむ」
「ですがブリトラはこちらに向けて置かれているようです。そしてグレイプの艦隊も」
「つまり我々に対しては切り札を切ってきたというわけだな」
「おそらくは」
「面白い。ではこちらも切り札を切ろう」
 ヴァルターは知的に笑ってこう述べた。
「予定通りだ。ミョッルニルの用意をしておけ」
「はい」
「ナイティングに入ったならばすぐにファフナーが来るだろう。そこを倒す」
「わかりました」
「その際陣形は乱すな。グレイプの艦隊もいることを忘れるな」
 彼の指示は続く。
「両方を倒してはじめて我等の勝利となる。全てはそれからだ」
「はい」
 ヴァルターの軍もナイティングに入った。すると彼の予想通りすぐにファフナーがその前に無気味な姿を現わしてきた。
「ファフナーが来ました」 
「来たな」
 ヴァルターはそれを見て静かに呟いた。見れば確かに巨大な黒い竜がそこにいた。ニュルンベルクを破壊したあの竜であった。
 ファフナーは無気味な咆哮をあげるとヴァルターの艦隊に向かって来た。その後ろには帝国軍の艦隊がいる。
「グレイプの艦隊だな」
「おそらくは」
 部下の一人であるシュワルツが答える。
「どうされますか」
「ザックスを前面に出せ」
 彼はまずはこう指示を出した。
「先にファフナーを叩く。いいな」
「わかりました」
「ただ司令」
 だがここで別の部下であるファルツがヴァルターに申し出てきた。
「どうした」
「ファフナーをこれで倒せなかった場合は」
「その時は一度撤収する」
 彼は言った。
「また何か有効な可能性のある手段を発見するまで力を蓄えるしかない」
「左様ですか」
「だがファフナーはここで確実に倒せる」
 声が強いものとなった。
「あのモンサルヴァートという男」
「はい」
「信頼できる。彼が授けてくれたものならば確実に仕留められる」
「それでは」
「うむ。砲撃準備にかかれ」
 彼は命令を下した。
「全ての主砲を使う。よいな」
「はい」
「一撃で決まればいいがな」
「そうなることを祈ります」
 ヴァルター以外の者は皆殆ど信じてはいなかった。かって五十隻の艦艇による総攻撃を退けたファフナーが新型兵器とはいえ一隻の艦艇の攻撃で退けられるのか。とてもそうは思えなかったからである。
 だがヴァルターは信じていた。これでファフナーを倒せると。自信に満ちた顔でまた指示を下す。
「砲撃用意」
「砲撃用意」
「照準を合わせろ」
「了解」
 部下達が復唱し、照準を合わせる。照準は完全にファフナーは捉えた。そこで幕僚の一人がヴァルターにリモコンのスイッチを手渡した。
「主砲のか」
「はい」
 その部下は頷いて答えた。
「司令御自身で決めて下さい、決着は」
「済まないな」
 エヴァ、そしてニュルンベルクのことである。あの時最も無念の涙を飲んだのは誰だったのか、部下達は知っていたのである。守るべき星を、民を、そして婚約者を奪われたのだ。ヴァルターこそ最もファフナーを憎む者であった。
 そのファフナーが今目の前にいる。ならば何をするべきなのかわかっていた。
 彼は躊躇わなかった。そのスイッチを手に持った。そしてボタンに手をかけた。
「いいな」
「はい」
 幕僚達がまた頷く。
「何時でもどうぞ」
「わかった。では」
「お願いします」
 指に力が入る。思いきり押そうとする。今全てが決まる、ヴァルターの全身に稲妻が走った。
「撃て!」
「撃て!」
 命令が復唱される。艦が大きく揺れた。今ミョッルニルが放たれたのであった。
 数条の光が黒竜に突き進む。そして一撃を加えた。光が竜を包んだ。
「やったか!?」
 部下達はファフナーを見た。期待と不安の入り混じった顔であった。若し効果がなければ。だが一人冷静なままの男がいた。
「大丈夫だ」 
 ヴァルターであった。彼は自信に満ちた笑みを浮かべモニターに映るファフナーを見ていたのであった。
 
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