リング
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159部分:ラグナロクの光輝その十三
ラグナロクの光輝その十三
「ヴァルハラを目指すべきだということも。そして自身が造られた存在だったということをな」
「ニーベルングのことは」
「それは何も知らないようだ」
残念そうに首を横に振る。
「それだけはな。残念なことに」
「そうなのか」
「だが。一つ気になることを言っていた」
「気になること!?」
タンホイザーはその言葉に顔を向ける。
「ニーベルングは。一人でしかなり得ないのだと」
「一人でしか」
「その一族には血脈はあるが。彼は自分以外に妻を持つことは出来ない存在だというのだ」
「どういうことだ!?それは」
これはヴァルターにもわからなかった。
「彼女以外の妻を持つことが出来ないとは」
「それはわからない。だが」
「だが!?」
「若しかするとあの男は。これは私の予測に過ぎないがな」
あくまでヴァルター個人の予想だ。しかし妙な現実感がそこに感じられるのだ。
「うむ」
「子を。作ることが出来ないのではないのか」
「子をか」
「そうだ。だからこそヴェーヌスを造った」
タンホイザーは言う。
「子を作ることが出来ないから。妻もまた」
「造り出したというのか」
「まさかとは思うが」
「ふむ」
「どうやらニーベルングには得体の知れない謎があるようだな」
「何もかも。わかっていない男にはさらに謎がある」
「その謎を解き明かした時にあの男の正体もわかるが」
「まだ何も。わかってはいないな」
「そうだな」
結局はそれを認めるしかなかった。彼等がわかっているのは砂の海の中の砂粒程度しかないのが現状であった。それ以上のことは何もわかってはいなかった。
「全てはムスペッルヘイムに行ってからだ」
「十二月に」
「それまでに」
「全ての中立星系を我々の勢力圏に収めておく」
タンホイザーの言葉が強くなった。
「私は北を」
「そして私は東を」
「それぞれ手中に収めに行こう」
「そうだな。全てはそれからだ」
「うむ」
二人もまたそれぞれの任務に向かった。謎は解き明かされぬまま戦争に向かう。中立星系の懐柔自体は順調に進み、ローエングリンの軍政とあいまって連合の力は飛躍的に増大した。そして第一段階とも言える準備は整ったのであった。
「まずはこれでよし、です」
ジークムントとジークフリートを除く五人は一旦ライプチヒに集まっていた。その中の一室でパルジファルが他の四人に対してこう述べた。
「それではいよいよムスペッルヘイムだな」
「はい」
彼はタンホイザーの言葉にこくりと頷いた。五人は円卓を囲んで座っていた。誰が中央にいるというわけでもなかった。だがどういうわけかパルジファルが中心にいる印象が拭えないものであった。
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