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犬神

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第一章

               犬神
 鮎川進次郎は高地にいる兄の孝太郎に電話でその話をされて思わずこう返した。
「うちをなんだ」
「ああ、頼めるか?」
 兄は弟に電話の向こうから言ってきた。
「うちの娘達をな」
「預かってくれっていうんだ」
「少しの間な」
「大阪旅行をするから」
「ちょっと頼むな」
「ちょっとうちの奥さんと話していいかな」
 進次郎は孝太郎に真面目な顔になって返した。
「それから答えていいかな」
「ああ、そうしてくれ」
 幸太郎もそれをいいとした。
「御前の家の都合もあるしな」
「うん、うちの子はまだ小さいけれどね」
「二歳か」
「三歳だよ」
 その歳だというのだ。
「男の子でね」
「そこはうちと同じだな」
「最初はね」
「うちはその後三人続けて生まれたけれどな」
「女の子ばかりでね」
「その娘達がそっち行きたいって言うんだよ」
 進次郎が住んでいる大阪までというのだ。
「だからな」
「それで、だよね」
「うちの娘達をな」
「大阪旅行の間だね」
「預かってくれ、そっちにいる間はな」
 孝太郎は進次郎にさらに言った、背は彼は一八〇位あるが進次郎は一七二程だ。そして孝太郎の目は大きいが進次郎の目は細い。額は進次郎の方が狭く兄弟で今一つ似ているとは言えない外見をしている。
 しかしだ、声はそっくりで二人共電話のやり取りをしながら自分自身と話している様に思えていた。
「家事でも何でも使ってくれ」
「それはいいよ」
「いいのか」
「ああ、いいよ」
 こう兄に返した。
「女房がいるから」
「まあそう言わずにな」
「家事にはなんだ」
「ああ、使ってくれ。ホテル代としてな」
「まあとにかくだね」
「そっちの奥さんと話してな」
 そしてというのだ。
「そうしてな」
「兄貴の娘さん達、僕の姪の娘達を」
「頼むな」
「それが出来たらね」
 まずはこう返した、そしてだった。
 進次郎は自分の妻と話してだ、そのうえで話を決めた。
 するとだ、妻もあっさりと言った。
「いいじゃない、あの娘達私もよく知ってるけれど」
「実家に帰った時いつも会ってるしな」
 進次郎の実家にだ、そこは高知にある。
「奥さんも知ってるよな」
「ええ、いい娘達だしね」
「だったらな」
「うちに来てもらってもいいじゃない」
 笑顔でだ、妻は夫に言った。
「というか来てもらいましょう」
「来てもらうのか」
「だってね、うちは女の子私だけだし」
「それでか」
「家に華があるっていいわよ」
 それでというのだ。
「だからね」
「あの娘達に来てもらうか」
「是非ね」
 妻の方が乗り気でだ、それでだった。
 進次郎は姪達を招き入れることにした、そのうえで。
 兄に今度は自分から連絡をするとだ、彼は弟に笑顔で言った。 
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