真田十勇士
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巻ノ百二十七 戦のはじまりその五
「よいな」
「はい、死なぬ」
「絶対にですな」
「命を捨ててはならぬ」
「次の戦も次の次の戦も」
「それは決して」
「何度も言うが真田家は潔く死ぬ家ではない」
そもそもだ、このことは昌幸もそうであり幸村にしても兄である信之にしてもそうだ。もっと言えば真田家が信濃の国人としてその立場を確立した時よりも前からだ。
「あくまで生き続けてじゃ」
「そうしてですな」
「その目的を達する」
「そしてそのうえで、ですな」
「さらに生きる家ですな」
「だからじゃ、死んではならんぞ」
誰一人としてというのだ。
「死ぬ時と場所は同じという誓いもあるしな」
「はい、ではです」
「そのことこの度の戦でも肝に銘じます」
「そのうえで思う存分戦いましょう」
「真田家の武を見せてやりましょうぞ」
「相手に不足はない」
幸村は笑ってこうも言った。
「大御所殿に将軍殿が揃って出陣されていてじゃ」
「上杉殿、伊達殿、藤堂殿とですな」
「諸将も揃っておられまする」
「まさに関ヶ原がまた来た様ですな」
「錚々たるものですな」
「それだけの相手に真田の武を思う存分見せられるのじゃ」
それならというのだ。
「これ以上の果報はあるまい」
「全くですな」
「まさに武の見せどころ」
「これ以上の大舞台はありませぬ」
「本朝の歴史でもそうそうですな」
「そうじゃ、こんなよき戦の場はないぞ」
相手にとって不足はない、そして真田家の武をふんだんに見せられるならばというのだ。幸村は今も笑っていた。
「では拙者もな」
「思う存分采配を振るわれますな」
「この真田丸において」
「そうされますな」
「例えここに幕府の軍勢の全てが来ようともじゃ」
二十万、そこまでの大軍がというのだ。
「それでもじゃ」
「負けぬ」
「左様ですな」
「真田丸は越えさせぬ」
「一兵たりとも」
「そうする、その為の真田丸じゃ」
この出城だというのだ。
「多くの敵が攻めてきてもな」
「それでもですな」
「この真田丸は攻め落とせませぬな」
「到底」
「幕府の全軍が来ても」
「そうじゃ」
こういう幸村だった。
「それだけの縄張りはして工夫もしておる」
「しかも鉄砲も多くあります」
「右大臣様が授けて下さったそれが」
「弾も多いですし」
「弓矢も槍もあります」
「これ以上はないですな」
「そうじゃ、武具にも不足しておらぬ」
それならばというのだ。
「これ以上はないまでに戦える」
「ですな、しかも我等の武具ですが」
「実によいですな」
「まさかあれが認めてもらえるとは」
「これ以上はないまでに嬉しいことです」
「赤備えにしてもらった」
具足も兜も槍もだ、刀の柄から馬具まで全て赤く塗ったのだ。真田家の赤備えを許してもらったのだ。
「武田家からの伝統の赤備えを許してもらった」
「素晴らしきことです」
「やはり我等は赤備えです」
「赤備えが最もよいです」
「最高ですな」
「その赤備えでじゃ」
火を連想しつつ言う幸村だった、彼にとって赤備えは彼が勝頼に仕えていた頃からの自分のひいては真田家の色なのだ。
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