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名前を変えただけで

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第二章

「けれどね」
「それでもですか」
「そう、こうした業界は験担ぎも大事だから」
「私は北野咲としてですか」
「やってもらうわよ」
「わかりました」 
 咲は多香美のその言葉に頷いた、そうしてデビューしてそのうえで徐々に名前のある役を演じていきレギュラーの役も取っていった。キャラクターソングも歌う様になり高校生声優として声優雑誌のグラビアに制服姿でも登場し。
 売れっ子と言っていい立場になった、そしてさらにだった。
 ある日事務所で多香美に笑顔で言われてだ、仰天して聞き返した。
「あのオーディション受かってたんですか」
「そう、それでね」
「メインヒロインですか」
「決まったわよ」
「嘘みたいです」
 こうも言ったのだった。
「あの本当に」
「かなり驚いてるわね」
「はい、実際に」 
 顔も仰天したものでそこに感情が出ていた。顔でも言っている状態だった。
「まさか私が」
「事務所としても嬉しいわ」
「メインヒロインだからですか」
「どの事務所もメインヒロインやれる娘が出ると嬉しいわよ」
「一人でも多くですね」
「そう、だからね」
 多香美は笑顔だ、自分が担当している声優がメインヒロインを演じるまでになってそれで嬉しいのである。
「宜しく頼むわね」
「頑張ります、けれど本当に」
「まだ信じられないわよね」
「声優さんになれただけでも嬉しいのに」
「どんどん売れていってね」
「名前がある役にレギュラーにキャラソンに」
 そこまでで充分過ぎる程だと思っていたがだ。
「メインヒロインなんて」
「だって咲ちゃん実力あるから」
 声優として、というのだ。
「声は可愛くてそれぞれの役をそつなく演じて歌だって上手だし可愛いし」
「声優さんは顔も必要ですか」
「だってイベントとか動画でも出るから」
 そうしたことも仕事だからというのだ。
「舞台に出ることもあるし」
「だからですか」
「普通の俳優さんと同じでお顔もね」
 声の仕事と言われているがというのだ。
「求められるのよ」
「そう聞いてましたけれど」
「実際によ」
 このことはというのだ。
「お顔も求められるものよ」
「それで私もですか」
「お顔も見られてうちの事務所に採用されたの」
「声と縁起だけじゃなくて」
「そうよ、確かに第一はその声だけれどね」 
 可愛いと評判の声だ、このことが彼女の人気の第一の理由であるのは紛れもない事実である。
「お顔もよ」
「可愛くて」
「だからね」
「メインヒロインもですか」
「選ばれたのよ」
「そうですか」
「ええ、ただね」
 ここでだ、多香美は咲にこうも言った。
「ここまでなれたのは咲ちゃんの実力だけじゃないわ」
「大沢さんも事務所の人達も。先輩の人達も支えてくれて」
「やっぱり一人じゃね」
 笑って咲に話す。
「出来ることは限度があるわ、それに人の力もね」
「人自体がですか」
「そう、その力には限度があるのよ」
「といいますと」
「だから験を担いだのよ」
「私の芸名ですね」
 咲は多香美が何を言いたいのかを察してはっとなって言った。
「そうですね」
「そう、売れようと思ったら」
「名前もですか」
「変えてね」
 そうしてというのだ。
「そこからも力を得るものよ」
「じゃあ若しもです」 
 咲は自分の芸名についてここであらためて思って多香美に尋ねた。
「私が本名でお仕事をしていたら」
「あくまでひょっとしてだけれどね」
「ここまで売れることもですか」 
 メインヒロインになれるまでだ。 
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