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名前を変えただけで

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第一章

                名前を変えただけで
 北川咲はたまたま興味があってしかも両親が受かる筈がないがそれでも受かれば儲けものという軽い感じで声優事務所のオーディションを受けた、オーディションが終わってから彼女は家で両親に笑って言った。
「受かってたらね」
「ははは、運がいいってことだな」
「そうよね」
「そういうことよ」
 夕食を食べながら笑って言うのだった。
「本当にね」
「まあ落ちたらな」
「それまででね」
「また何処かの事務所受ける」
「それだけね」
 黒いショートヘアであどけなさが残る顔で言う。目は大きめで目鼻立ちは整い美少女といった感じだ。背は一五三程で全体的に可愛らしい。
「やっぱり」
「そうか、じゃあな」
「今回のオーディションに落ちても頑張ってね」
「他の事務所だ」
「そこに行きなさいね」
「養成の学校の学費は私がバイトで稼ぐし」
 最初からそのつもりだ、咲はそうしてでも声優になるつもりなのだ。
「お父さんとお母さんは安心してね」
「御前が声優になるのを見ろ」
「そう言うのね」
「高校生声優よ」
 目指すのはというのだ。
「そして売れっ子になってなるわ」
「その意気だ、頑張れよ」
「一つや二つ落ちても気にしないことよ」
 両親も娘に前向きに言う、とかく前向きな家族だった。咲は今回のオーディションが落ちても次だと考えていた。
 しかしだ、彼女にとって幸いなことにそのオーディションは合格していて事務所の養成学校にも入ることになった。
 養成所での評価は高くすぐに名前のない所謂モブ役でアニメの声優としてデビューすることになったが。
 その時事務所でマネージャーの大沢多香美にだ、咲は笑ってこう言われた。
「じゃあ北野咲ちゃんのスタートってことでね」
「北野?」
 その苗字を聞いてだ、咲はすぐに怪訝な顔になって多香美の自分とは違う大人の雰囲気を漂わせた整った顔と赤がかったロングヘアの髪型を見つつ言った。
「あの、私は」
「あっ、芸名よ」
「芸名ですか」
「よくあることでしょ」
「聞いてました」
 咲は多香美に応えて言った。
「芸名は声優業界でもよくあるって」
「そうよ、うちの事務所でもよくあるの」
「そうだったんですか」
「本名の人もいるけれど」
「芸名の人もですか」
「いてね」
 それでというのだ。
「咲ちゃんもよ」
「芸名使うことになったんですか」
「何か北川咲だと時数的によくないって話が出て」
「それで、ですか」
「北野咲になったの」
「そうだったんですね」
「だから貴女は声優さんとしてはね」
 つまりこの仕事の時はというのだ。
「別の名前になるの」
「北野咲ですか」
「そうなるわ」
「そうですか」
「私が名前間違えたと思ったでしょ」
「はい」
 実際にとだ、咲は多香美に答えた。見れば見る程大人の女性で膝までのタイトスカートのスーツもよく似合っている。
「実際に」
「けれど違うから」
「芸名ですね」
「時数的にこっちの方がいいから」
「そんなに違うんですか、字を変えると」
「そうなの、まあ験担ぎというとそれまでだけれど」
 科学的な根拠、今は第一とされているそれはないというのだ。 
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