真田十勇士
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巻ノ百二十六 軍議その五
「そう言われてじゃ」
「しかし若し茶々殿が大御所様のご正室となれば」
「右大臣殿はわしの義理の息子になる」
「千様のご夫君であられると共に」
「竹千代の弟にもなる」
秀忠、彼のだ。
「ならば悪いことはな」
「幕府としても」
「出来る筈がない」
それは到底というのだ、幕府としても。
「だから何度も申し出たが」
「それをですな」
「茶々殿は断った、しかし平の入道殿を見よ」
平清盛、彼をというのだ。
「あの御仁も九郎判官殿を助けたな」
「ご母堂を側室とされて」
「そうした、平家物語では悪逆非道の御仁となっているが」
「その入道殿でもですな」
「そうした、ならばわしがその様なことをするか」
義理の息子となった秀頼を粗末に扱う、最悪殺すかというのだ。
「言わずともわかろう」
「大御所様は天下の律儀者です」
「そう言われるのがわしの誇りじゃ」
「ならばですな」
「無体にはせぬわ」
「必ずや」
「それを約束することでもあったというのにのう」
今もこう思い苦い顔になるのだった。
「まことにな」
「それを茶々殿がおわかりになられず」
「こうもなった、とかく茶々殿は政がわかっておらぬ」
「そして何もですな」
「知らぬ」
このことも思うのだった。
「そしてそれがじゃ」
「今にも至りますな」
「切支丹も許したしな」
このことがこの度の戦の大きな理由であることは天下の誰もが知っていると言えるが茶々は知らない。
「こうなっておる」
「切支丹のことさえなければ」
「わしもな」
「戦とはしませんでしたな」
「切支丹だけはならん」
家康にしてもなのだ。
「あの者達は天下を乱すからな」
「その通りです、乱しそして」
「乗っ取ろうとする」
「そう考えますと」
「認められぬ、しかもそれがな」
茶々、彼女はなのだ。
「わかっておらぬ、難儀なことじゃ」
「全くですな」
「しかしそう言っても最早はじまらぬ」
「ことここに至っては」
「大坂城を無理にでも手に入れ」
「豊臣家には大坂から出て頂く」
「そうしてもらおう、では城を囲みな」
大坂城、この城をというのだ。
「そのうえでじゃ」
「茶々殿のお心を攻めましょう」
「そうしていく」
こう言ってだ、家康は軍勢を大坂に向かわせていた。それは秀忠も同じであったが彼は幕臣達に微妙な顔でこう言っていた。
「真田がまたか」
「はい、動いていまして」
「大坂城の南東に出城を築いたとか」
「その出城の名を真田丸と名付けたそうです」
「大野修理殿がそう薦められたとか」
「そうか、またあの者達と戦うのか」
今度は難しい顔で言った秀忠だった。
「難儀じゃな」
「はい、真田左衛門佐殿がまたです」
「また動かれています」
「それも活発に」
「十勇士もいます」
「そしてご子息の大助殿も傑物だとか」
「難儀じゃな、油断するとな」
幕府が優勢であることは間違いないがというのだ。
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