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真田十勇士

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巻ノ百二十五 真田丸その八

 茶々は城の兵達を督励していた、だがその茶々を見てだった。
 浪人達は眉を顰めさせてだ、こう話し合った。
「噂は真であったな」
「うむ、ここはおなごの城じゃ」
「戦もおなごが仕切っておる」
「茶々様がな」
「まさに主ではないか」
 この城のというのだ。
「右大臣様を差し置いて」
「茶々様は大坂城から長きに渡って出ておらぬという」
「大坂のこと以外は何もご存知ないというぞ」
「まして戦のことなぞ」
「それで何が出来る」
「その様な方が主で」
 こう話をするのだった。
「それでは先が見えたな」
「この戦負けじゃ」
「戦のことを何も知らぬ方が采配なぞ執れるか」
「執れば負けじゃ」
「確実にそうなるわ」
「そうならぬ筈がないわ」
 戦を知る彼等はこうしたこともわかっていた、それでだ。
 口々にだ、こうひそひそと話をした。
「ではな」
「うむ、折角入ったがのう」
「命あってじゃ」
「命あっての物種じゃ」
「ここは大坂を出るか」
「幕府に移ろうぞ」
「これでは戦う前から決まっておるわ」
 その勝敗がというのだ。
「では迷うことはない」
「早く城を出ようぞ」
「幸いまだ戦になっておらぬ」
「今幕府に降れば命は取られんわ」
「むしろ幕府の兵として戦おうぞ」
 こうしてだった、城を出て幕府につく浪人達が出だしていた。しかもその数は多く大野もそれを聞いて項垂れた。
「逃げる兵もおり他の兵の士気もじゃな」
「はい、どうにもです」
「上がっておりませぬ」
「茶々様が主と見てです」
「その様になっております」
 治房と治胤が兄に言う。
「兄上、やはりです」
「茶々様には静かにしてもらうべきです」
「ここは何とか」
「そうしてもらいましょうぞ」
「わかってはおる」 
 実に苦しい返事だった、大野の今のそれは。
「しかしな」
「それは出来ぬ」
「どうしてもですか」
「わしにはな、そしてお主達もであろう」
「それは」
「そう言われますと」
 二人も返事が出来なかった、まさにその通りだからだ。
「茶々様をお止めすることは」
「やはり」
「治部殿や刑部殿ならともかくな」
 彼等ならというのだ。
「しかしじゃ」
「我等では」
「到底」
「そうじゃ、どうしてもな」
 言えぬというのだ。
「特にわしはな」
「どうにもなりませぬか」
「このことは」
「そうじゃ、だから軍議についてもな」
 それもというのだ。
「母上にお話して何とかしようか」
「いえ、母上はです」
 治房がすぐに兄に言った。
「むしろです」
「そうじゃな」
「はい、茶々様を励まされます」
「母上は昔からそうであったわ」 
 大蔵局、彼女はというのだ。 
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