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とある3年4組の卑怯者

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114 前進(つぎなるみち)

 
前書き
 小学生アマチュアスケート中部大会が始まった。藤木は和島の演技を見物する。和島は得意技の筈の四回転アクセルを失敗する。そして、藤木はリリィと笹山が見ている中で己の演技が失敗をしない事を祈っていた!!
 

 
 多くの出場者が演技を見せていき、途中で休憩があり、藤木の出番が訪れた。
『18番、藤木茂君、入江小学校』
(よし、僕の番だ・・・!!)
 藤木はリンクに入った。両親も、リリィも、笹山も、花輪も、ヒデじいも、片山も注目した。
(藤木君、頑張って・・・!!)
 リリィも笹山も無言で応援した。藤木は周囲をブラケットターンした。そしてトリプルフリップを決めた。そしてトリプルトウループ、そしてトリプルアクセルを決めた。アクセルの後、着地でこけそうになったが、堪えた。
(藤木君、やっぱり凄い・・・。あの時も凄かったけど、今はもっと決まってる・・・)
 リリィはそれでも藤木に魅了された。飛騨高山のスケート場で見せた時よりも格好よく見えた。次に藤木はムーヴズインザフィールドを行い、シットスピンを行い、キャメルスピンに換えるコンビネーションスピンを行った。そしてスリーターンをして次にダブルトウループ、トリプルルッツを行った。上手く決まった。歓声も上がった。そしてステップシークエンスを行い、次にフライングキャメルスピンを行った。そしてアラベスクスパイラルをしながら、ターンをして反対の足で再びアラベスクスパイラルをする。そして足を下した。
(行くぞ、これが僕の最大の技だ。リリィ、笹山さん、見てくれよ!!)
 藤木はアクセルジャンプの準備をした。そして跳ぶ。三回転した。その際、右足と右手を後ろに伸ばす。あの技を見せた。
(問題は着地だ、しっかり着地してくれよ!)
 藤木は着地が最も心配だった。着地した瞬間、一瞬左方に傾きそうになった。藤木は転倒しそうになったため早めに手を足から放してしまった。上げていた右足を氷上に付け、演技を終了させた。最後をやや失敗してしまった。しかし、藤木への歓声はそれでも大きく、嵐のような拍手を受けた。結果オーライかなと藤木は思った。リリィも笹山も、花輪もヒデじいも藤木の演技に拍手をしないわけにはいかなかった。
「藤木君、凄かったわね」
「うん、私も藤木君はスケートなら誰にも負けないって思ってるの。きっと賞とれるよ」
「そうね・・・」
「流石藤木クン、君のskillにはいつも驚いてしまうよ・・・」

 藤木は控室に戻って行った。それにしても最後のトリプルアクセルの着地失敗がどうしても気になった。審査員は歓声が高かったとはいえ、その細かいミスも見落とすわけにはいかないだろう。
「はあ~」
 藤木は椅子に腰掛け、不安の渦に身を寄せた。
(どうか、銅でもいい。とにかく僕の目標をここで絶たせないでくれ・・・!)
 
 藤木の自己評価とは対照的に片山は藤木の演技を素晴らしく思っていた。
(うむ、さっきの着地失敗の時の体勢の立て直しはまさに見事・・・。あれで転倒していれば紛れもなく減点となっていただろう・・・)
 片山は藤木の銅賞以上は確定だろうと考えていた。

 全員の演技が終了した。結果発表まで少し時間があったので藤木は水飲み場に行って水を飲んだ。まだ不安が残っていた。
(どうか俺を・・・、絶対に世界一になりたいんだ。ここで終わらないでくれ・・・!!)
 そして控室に戻り、結果発表の時間となった。誘導係に呼ばれて出場者全員がリンクへと向かって行った。
『お待たせいたしました。結果発表です。出場者の皆さんの入場です』
 アナウンス係の声と共に出場者がリンクに入った。そして会長が設置された表彰台に立った。
『続きまして、山里会長から結果を発表させていただきます』
「皆さん、今日はお疲れ様でした。上手く演技ができた人もそうでない人も結果が待ち遠しいでしょう。それでは結果を発表したいと思います」
 藤木はドキドキした。
「まずは銅賞です・・・」
 一瞬の沈黙が流れた。
「銅賞は・・・、新潟県の吉岡肇(よしおかはじめ)君です!」
 呼ばれた吉岡という少年が前に出て表彰台にて銅賞を示す楯を会長から受け取った。
「続いて銀賞に入ります。銀賞は・・・」
 藤木は自分は銅の可能性が無くなった事で銀か金の可能性を祈った。
「富山県の佐野武政(さのたけまさ)君です!」
 佐野という少年が前に出て銀賞の楯を受け取った。
(う・・・、こうなりゃあとは奇跡を待つだけか・・・)
 藤木は最後の金賞の可能性に賭けた。

 観客席ではリリィと笹山も藤木の受賞を祈っていた。
「藤木君、銅でも銀でもなかったけど、金の可能性あるかしら・・・」
 笹山が呟いた。それに対して花輪が答えた。
「ん?そうかもしれないさ。僕は藤木クンが金だと思っているよ。彼を最後まで信じようじゃないか」
「花輪クン・・・、うん、そうね・・・」
 山里会長が金賞の発表に入る。
「それでは金賞の発表に入りたい思います。金賞は・・・」
 自分の呼吸が速くなっていく事に気付く藤木。イエス・キリストにお祈りするように目を瞑り、両手を合わせてお祈りするリリィと笹山。ただリンクを見る花輪とヒデじい。身動きもせずに発表を待つ片山。そして一体誰だと気になっている参加者全員。ついに山里会長の口が開いた。
「・・・静岡県の藤木茂君です!」
(・・・え、僕!?)
 歓声が沸き上がった。
(って事は全国に行けるんだ。次に進めるんだ!!)
 藤木はその場でガッツポーズをし、表彰台へと向かい、会長から金賞の楯を受け取った。
 リリィも笹山も喜びによる興奮でハイタッチし合った。
「やった~!!」
「やったね、藤木クン」
 別の客席では藤木の両親が驚いていた。
「おめでとう、茂!!」
「茂、お前は凄いぞ・・・。俺達が思っている以上に・・・」
 片山は藤木の表彰は必然だと思っていた。
(私は君の実力ならこういう結果になると信じていた。全国でも君のその実力は通用すると信じている。だがそれにはさらなる演出が必要だな・・・!!)
『それでは閉会式に入ります。山里会長お願い致します』
「はい、出場者の皆さん、演技お疲れ様です!そして、会場の皆さん、ご来場頂き、改めてお礼を申し上げます。東海・北陸・信越の各地区大会にて金・銀・銅賞の皆さんがここに集い、競い合ったこの大会も終わりが訪れました。しかし、金・銀・銅を獲った皆さんにとってはまた全国大会という次なる道が待っています。そして、惜しくも敗れてしまった皆さん、ここで演技ができた事は何れは誇りになるでしょう。その思いを秘めて皆さんお帰りなさって下さい。本日は本当にありがとうございました!!」
『ありがとうございました。これにてアマチュアスケート中部大会小学生男子の部を終了いたします。お忘れ物ないよう、お手回り品に十分ご注意してお帰り下さい』
 こうして中部大会は閉幕した。藤木は他の出場者と共に控室へと引き上げた。その際、藤木は和島に声を掛けられた。
「藤木君」
「和島君。何だい?」
「まさか折角考えたボクの技が失敗するなんて悔しいばかりだよ」
「和島君、でも僕も最後の着地、失敗したんだ。あの時、スパイラルの姿勢のままでいる事に拘ってたら賞は獲れなかったよ」
「そうか。キミはまた先があるけどボクはこれで終わりだ。今度こういう機会があった時は必ずリベンジするからな!」
「ああ、いつでも対決を楽しみにしているよ」
 藤木は和島と離れ、着替えた。そこには既に待ち伏せしていたかのように片山の姿があった。
「片山さん」
「藤木君、ご苦労だった。また素晴らしい演技を見せてくれた」
「しかし、僕はあの最後のジャンプで着地を失敗してしまい、思うようには行きませんでした」
「いや、それがまた凄いのだよ。よく着地失敗すると気づいた瞬間、とっさに転倒を防いだことが見事だったのだよ。だから君の評価を落とさずに済んだのだ」
「は、はい、ありがとうございました」
「次は全国大会だな。さらにスケールが大きくなる舞台に立つ。さらなる演出が必要になるという事だ。では、また会おう・・・」
 片山はそう言って去った。
「さようなら・・・」
 藤木は自分も出入口へと向かった。そこには自分の両親と花輪、笹山、リリィ、そしてヒデじいがいた。
「Hey、藤木クン」
「やあ、皆。来てくれて本当にありがとう」
「藤木君、本当にかっこよかったわ」
 笹山が褒めた。
「笹山さん・・・。ありがとう」
「藤木君、私あの時の藤木君思い出したの。やっぱり氷滑り(スケート)なら誰にも負けない気がするわ」
「あの時って?」
「一緒に旅行した時よ」
「ああ、そうだったね。ありがとう」
 藤木はリリィと高山へ旅行した時、彼女に自分のスケート姿を見せた事を思い出した。
「それじゃあ、明日はまた学校だ。父さん、母さん、そろそろ帰ろうか」
「ああ、そうだね」
 藤木は両親と共に清水へ帰ることになった。リリィ達もまた、ヒデじいの車で清水に帰る事にした。

 藤木は清水に帰ってきた。そして手紙を書き始めた。

 堀さん

 中部大会に出場しに松本まで行ってきました。そしたらまた金賞を獲ったんだ。これで今度は全国大会に進むことになったよ。僕の目標の世界一にまた一歩近づいてきたような気がするよ。今度またいつか一緒にスケートしに行けたらいいね。それではさようなら。

 藤木

 藤木の功績は後に学校にも連絡が来た。藤木は再び朝礼の際に表彰を受ける事になるのであった。 
 

 
後書き
次回:「笛吹」
 藤木が中部大会に臨んでいる頃、みどりは堀が転校前にいたという笛吹へと連れて行かれていた。そこで堀が転校前にいたという家に泊る事になる・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
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