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とある3年4組の卑怯者

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108 栄光(みかえし)

 
前書き
 連絡が繋がらなかった事をクラスメイトから責められる藤木。笹山は藤木の真相を知り、次は見捨てずに彼の味方になると決める。そして、藤木がスケートの大会に出ていた事が先生の口から明らかになるが、男子達は逆に藤木を非難する。そして、笹山が藤木を庇う為に動いた!! 

 
 病院で永沢はあおむけに寝ていた。隣のベッドにいる城ヶ崎が目を覚ましているかどうか確認するために彼女を呼んでみる。
「城ヶ崎・・・」
「永沢?何よ・・・?」
「太郎を守ってくれてありがとう・・・。それから君まで僕の問題に巻き込んで本当にごめんよ・・・」
「べ、別にいいわよ。太郎君も大変だったんだし・・・」
「う、うん・・・」

 藤木は文句を言われながら過ごした。笹山は藤木が気の毒で、そして自分の上履きの落書きが恥ずかしく、彼女もまた落ち着く事ができなかった。兎に角、上履きの事は先生に相談した。リリィは文句を言われる藤木の事を哀れに思うべきか、連絡網が繋がらなかった事で怒るべきか、分からなかった。やがて、帰りの会が訪れた。
「えー、先ほど連絡がありましたが、藤木君が昨日、御殿場で行われたアマチュアのスケート大会で金賞を受賞しました。明日朝礼で表彰されます」
 戸川先生の言葉で皆がざわついた。
「皆さん、静かにしてください。それから学級委員の方、話がありますので丸尾君とみぎわさん、どちらか残っていただけますか?」
「先生、ズバリ、ワタクシが参りますでしょう!!」
「丸尾君、ありがとうございます」
 こうして皆礼をして解散となった。丸尾は先生と共に会議室に入った。少しして各クラスの担任と学級委員がそれぞれ1名ずつ集まった。1組からは本郷、2組からは横須、3組からは鹿沼、5組からは橿田が参加していた。3組の担任が喋り出す。
「最近無差別ないじめが起きているそうですね。ウチのクラスは机やロッカーに土を入れられたり、ある女子体操着がプールに落とされていました」
「そうでしたか。私のクラスでも不幸の手紙が送られた子がいましたし、今日は上履きに落書きされた子がいました」
 戸川先生も説明する。
「な、なんですと!?」
 丸尾が驚いた。自分に送られた不幸の手紙以外でも嫌がらせが起きている事に。
「そうです。他にも俺が入っているサッカー部でもボールが全部パンクされていて練習ができなかったんです!」
 本郷も発した。
「特に2組は酷かったですね。図工の授業中に皆の教材が誰もいない窓から投げ捨てられていて、犯人は堀内君かと思ったんですが、本人は違うと言ってました」
 横須も説明した。
「5組にも教室中が墨で汚されていました。そのせいで1時間目の授業を中止して掃除する羽目になりましたね。あと4組と同じように不幸の手紙を受け取った人もいました」
 橿田も出来事を説明した。
(な、何と!この学年に一体何が!?)
 丸尾は恐ろしくなってしまった。

 藤木の前に朝に喧嘩した内藤やナベちゃん、若林や中島、三沢ら男子が取り囲んだ。
「おい、藤木!嘘つきやがって!何が結婚式だ!」
「そ、そうだよ!皆を驚かそうと思ったんだ!金賞だぞ!凄いだろ!!」
 藤木はビクビクしながらも自慢げに言った。
「何調子に乗ってんだよ!お祝いでも期待してんのか!?」
「やっちまおうぜ、こんな卑怯者!!」
 男子達が藤木に襲い掛かろうとした。笹山は我慢ができず、「やめてーーー!!!」と大声を出してしまった。
「藤木君の事そんなに責めて何になるの!?藤木君は大会に出てて気付かなかったんだからもう仕方ないじゃない!!」
「何言ってんだよ!そんなに藤木を庇うんなら笹山は藤木の事が好きなのか!?」
 笹山は三沢の言葉に動揺した。しかし、怯んではならないと言葉を続けた。
「そんな事今関係ないわよ!藤木は不幸の手紙の事で責められた見返しのために大会に出たのよ!!少しは凄いって見直せないの!?」
 そして笹山は怒りの矛先を皆に拡げた。
「皆もそうよ!藤木君が不幸の手紙出したからっていつまでも藤木君を独りぼっちにさせるなんて酷いわ!!大体藤木君をそうさせたのは藤木君に手紙を出した人がいるからでしょ!!どうして誰もその人を突き止めようとしないの!?藤木君を責めただけでまだ解決してないじゃない!!」
 皆が黙り込んだ。みぎわと冬田は以前藤木と遭遇した時に共にいて藤木を庇っていた女子の言葉を思い出した。
「それに藤木君だってもう反省しているし、今日だって藤木君を皆で責めれば永沢君や城ヶ崎さんの退院が早くなるの!?違うでしょ!!」
(笹山さん・・・)
 藤木は笹山が必死で庇ってくれている事に涙が溢れた。
「ちっ、ああ、悪かったな!」
 男子達は藤木から離れた。リリィは笹山の言葉が身に染みていた。
(そうだったわ!!藤木君の所に不幸の手紙が送られたから藤木君は手紙を出したんだわ・・・!)
 リリィは己の藤木への態度に罪悪感を感じた。

 大野と杉山は共に帰っていた。
「笹山が藤木を庇うのも珍しいな」
「ああ、あいつもしかしたら藤木の事が相当気になってるかもな。藤木が堀内と喧嘩している時もあいつの味方してたし」
「杉山、お前よくそこまで考えるな」
「いや、まあ・・・」
「お前は山田に好かれてるくらいだから女心が分かるのかもな。まっ、俺はんな事興味ねえけどよ」
「おい、大野、からかうなよ!お前だって冬田に好かれてんじゃねえかよ!!」
 杉山は照れくさく言った。
「や、やめろ!!」
 大野は冬田の名を出されて顔が青ざめた。

 丸尾は学年内でのクラスを問わない無差別ないじめが起きている事に驚きを隠せなかった。この問題を解決する事こそ学級委員の努めだと感じた。丸尾は立ち上がった。
「皆さま方、この問題について是非我々学級委員が解決したいと思います!」
 他の学級委員達は少し驚いたが、自分らが動かなければこの問題は解決しないだろうと考えた。
「そうだね。丸尾君、僕も君に協力するよ」
 鹿沼も協力の姿勢を見せる態度を示した。
「確かに俺も黙っていられないよ!」
 本郷も協力する事にした。
「うん、私も!」
「僕も協力するよ!」
 橿田も横須も手を貸すことに決めた。
「あ、ありがとうございます!手を組みましょう!」
「それでは先生達も協力します。ではこれまでにしましょう」
 こうして会議は終了となった。

 藤木は家に帰っていた。そして今日の揉め事を回顧していた。そしてそれでも認められないなら世界一になってやると考えた。その時、チャイムが鳴り、誰だろうと玄関のドアを開けた。
「やあ、藤木君」
「長山君、ケン太君・・・?」
 長山とケン太だった。
「俺達、藤木君の事が気になって来たんだ。不幸の手紙まだ残っているかい?」
「あ、うん・・・」
「誰から来たのかは分からないのかい?」
「うん、差出人の名前がなかったんだ」
「そうか、なら手紙の字を見て誰が送ったのか検証してみよう!」
 長山が提案した。藤木は二人を中に入れ、手紙を見せた。
「年賀状はあるかい?」
「うん」
 藤木は自分宛ての年賀状を持ってきて、それぞれの差出人の字と手紙の字を照合していった。

 リリィは母親に藤木の事を話した。
「昨日ね、藤木君、氷滑(スケート)の大会に出てたんだって。それで、金賞獲ったの」
「え、藤木君が?凄いじゃない」
「うん、私も驚いたわ。それにやっぱり私、藤木君が好きで不幸の手紙出すなんてやっぱり思えないわ・・・」
「そう・・・。リリィ、明日でも藤木君に会いに行って謝ったらどう?」
「そうね、そうするわ」
 リリィは藤木がスケートの大会に出ていた事を見直した。どうしても藤木は好きで卑怯な事をするようには見えなかった。もし本当に悪い人ならばなぜ彼を自分の別荘や高山への旅行に誘ったのか。なぜ彼は学級文庫に置く本を探す事を手伝ってくれたのか。なぜ自分が上級生の女子や隣町の親分から襲われている所を必死で助けてくれたのか。リリィは藤木を責めた事を反省した。

 丸尾は会議の後、各クラスの学級委員達と共にどうするべきか考えていた。
「どうすればこの問題は解決できるのでしょうか?」
「そうだね、そうだ、4組にも不幸の手紙が来たんだよね?」
 橿田が聞いた。
「はい、藤木君の所に」
「実は僕のクラスの草野君の所にも来たんだよ。差出人無しでね」
 鹿沼も答えた。
「ええ!?3組にもですか!」
「1組にも平住さんの所に来たんだ。となると、手紙にあるように四人に出されたみたいだね」
 本郷も告白した。
「成る程、手紙に書いてあるように四人に出されましたか。横須君、2組には来ましたか?」
 丸尾は横須に聞いた。
「いいや、ウチのクラスには来てないよ」
「そうですか。なら出された人に手紙を持ってこさせましょう!」
「でも私のクラスの子は阿部野君が受け取ったけど捨てちゃったって」
 橿田が思い出しながら言った。
「そうですか、でもやらなければなりません!鹿沼君、本郷君、それぞれ手紙を受け取った人に不幸の手紙を残しているか確認をお願いします!」
「わかった!」
 学級委員長達は解散した。 
 

 
後書き
次回:「目標(せかいいち)
 不幸の手紙の差出人は誰なのか、長山やケン太と共に照合を試みる藤木だったが、手掛かりは掴めず、手紙を丸尾に引き渡し委託する。そして翌日、藤木の家に冷たくしたお詫びとして大会の祝いとしてリリィと笹山が訪れる・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
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