十六夜咲夜は猫を拾う。
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第7話
やはりそうだったか、とでも言いたげな顔をして一息つくレミリア。
『…自分でも、少しおかしいと思ったんです。
目はきっちりと包帯で隠しているし、左眼は誰の目にも触れないはずでした。
この目を見て狂った人はいなくなったのに、何故か見てない人までもが狂い始め、街の秩序がさらに乱れるのが浮き彫りになってしまったんです。』
小さく華奢な肩を震わせ、不安定な口調で話を続けた。
『…そうして、人々は気づいたんです。
私が、目の他にも何か違うものを元から持っているということを…。それを明確に理解している人は誰もいませんでした。…私も、あのことを言われるまでは明確に理解出来ておらず、ぼんやりとしか分かっていなかったんです』
『あのこと、というのは…?』
あまり口を開かなかった咲夜が聞き返した。
話を聞いているだけなのに顳かみから冷や汗が伝い、滴り落ちていく。
『「こいつは、幸福を齎さなければいけない存在でありながら、目を隠しているのにも関わらず人を不幸にし、事実やそのことがらをすべて狂わせ、歪曲させてしまう」…と言われて、私はこの事を明確に理解したんです。』
『だから、事実、又は結果をねじ曲げる程度の能力…と気づいたのね。』
『事実、又は結果 と言ってはいるものの、実際無意識になんでもかんでもねじ曲げ、歪曲させてしまうんです…
だから、私は殺されそうになった。』
声のトーンが低くなり、声量も極端に小さくなった。
声が震え、紡ぐ言葉が途切れ途切れになっている。
『幸運を齎さなきゃ…いけないはずなのに…っ、不幸しか齎さなくて…、それで…存在するだけで…不幸を齎してしまうような、両親とは正反対の人になっちゃって…、だから、だから私は……』
俯き、長い前髪で隠された顔は涙で濡れていた。
時折手で涙を拭うものの、涙は溢れて止まらなかった。
『でも、今ここに居て、生きているじゃない。』
『それは…、殺されそうになった瞬間、なにかに吸い込まれて…っ、それで、全く別の森の中にいて…、』
泣きじゃくり、顔が涙でぐちゃぐちゃになっているだろう白夜に何も言わずハンカチを渡す咲夜。
それを躊躇いながらも受け取り、顔をぐりぐりと拭った。
『…それで、ちょっと走ったら森を抜けられて、でも長く走る力なんて無くて、とりあえずずっと走り続けてたら、人の姿を保てなくなって……多分、気を失ったと思うんです。それで、気づいたら咲夜さんが目の前にいて』
『……人の姿?』
『私、猫叉で猫の姿とヒトの姿を持っているんです。いつもはヒトの姿でいるのですが、それには妖力と体力が必要で…どちらも無くなると、強制的に猫の姿になってしまうんです。元々は両親も幸福を齎す青い目を持つ猫叉だったので…』
だから最初見た時は猫の姿で倒れていたのだな、と納得する咲夜。多分、なにかに吸い込まれて というのは
八雲紫のスキマに吸い込まれたのだろう。
それ以外にここに来る方法と言ったら森に迷い、抜け出すしかないが、そもそも白夜は迷わず走って出てきたから多分そうだろう。でもあの森は少なくとも半日以上かかってやっと抜け出せる、というくらいに入り組んでいて暗くてジメジメしている森なのに、よく抜け出せたな。と感心する。
……否、でもさっき白夜は『ちょっと走ったら』と言っていた。
『…ねえ白夜。ちょっと走ったら抜け出せたのは本当なの?あの森はとても入り組んでいて抜け出すにはとても時間がかかるはずなのだけれど。』
『…? いえ、本当に少し走っただけで抜け出せました。………多分、5秒もかかっていなかったと…。』
これにはレミリアもとても驚いている様子だった。
飛ぶならまだしも、走っただけなのに5秒もせずあの森を普通抜け出せるだうか。
身体能力の優れた吸血鬼でもそれは不可能に近い。射命丸文ほどの速さを持ってしてでもそれは可能なのか定かではない。
『…猫叉といえば、悟り妖怪の所のあの猫もそうじゃないかしら?』
『あぁ、あの火焔猫燐ですね。確かにお燐も猫叉だったような気がしますが…確証はないですが、お燐にはそんな速さ持っていなかったかと…。』
『その身体能力は、白夜のご両親も同じなのかしら?』
咲夜とレミリアが話しているあいだ、咲夜が用意した紅茶を一口飲んでいた。ずっと喋っていたから口が乾いたのだろう。話しかけられたことに気づいた白夜は、食べていたスコーンを急いで飲み込んだ。
『いえ…両親のことは、あまり記憶になくて…。
物心ついた時にはもう両親と一緒にいなかったので』
『…ねぇ白夜?あなたがいた村って…どこなの?』
『青幸村です…青に幸せと書いて、そうこうむら…』
『青幸村…?聞いたことない村ね…』
レミリアが何かを悟ったような顔をした。
『咲夜が知らなくても無理はないわね…だって、その村、千年以上前に無くなって、今では他の名前に変わっているはずだもの…。』
『………え?』
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