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十六夜咲夜は猫を拾う。

作者:ねこた
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第8話

『せ、千年前…!?』
『そうよ。その村は千年以上も前に違う名前になって、神の伝承は続いてるものの…その名前を知る人はもう、その時代に生きていた人しかしらないはずよ。

パチュリーの書室に置いてある本に、その村のことが書いてあるのを覚えているの。青い目をした幸福をもたらす猫叉が統べる異彩の村、青幸村…詳細も様々書いてあったわ。』

白夜は青い目を見開いてひどく驚いている様子だった。無理もないだろう。自分の住んでいた村の名前が千年以上も前のもので、しかもそれを知る人が今はもうほとんどいないという事だ。

『で、でも…そしたら私は…』

『……そうよ、私の予測が正しければ、貴方は…

千年以上、生き続けていることになるわ。』

レミリアは、きっぱりとそう言い切った。
白夜を見据え、すべてを理解したかのような口ぶりで。

『で、でもお嬢様…白夜の身はまだ良くて12歳と言ったところです。お嬢様のような吸血鬼でもない限り、それは無理なのではないでしょうか…。』
『…いえ、白夜の能力を持ってすれば、可能よ。』

『…え…?』

レミリアは、淡々と説明を続けた。

『白夜はさっき、人の命までも危うくした…と言ったわね。そこまで強力な能力を持っているならば、生まれて10数年で自分の身体の成長を止め、老いることをしないようにするなんて、容易いものじゃないかしら?しかも、白夜は自分の能力は無意識下でも発動している、とも言ったわ。それなら自分の身体が無意識に成長をやめ、老いることをしなくなったのにも気付かずに数千年生きている事なんて、むしろ当たり前なんじゃない…?』

筋の通った説明にぐうの音も出ない白夜と咲夜。
そんな二人に、さらに説明を重ねた。

『それに、今この時代なら人里でも白夜のように白い髪を持つ人なんて忌み嫌われるほど珍しいなんてことないはずよ。両親のせいという事もあるかもしれないけれど、元々閉じ込められた理由はそれでもあるんでしょう?白夜が無意識下で村の時間そのものを早く進めていた、ということも有り得なくはないけれど、今言ったことが一番辻褄が合うと思うわ。そこまで長く生きる人間が存在するなんて、人里ではありえないわ。』

『で、でもお嬢様…数千年も生きていたら、自分が人より長い間生きていることに流石に気づくのでは…』

恐る恐るレミリアに疑問を問いかける。
無意識下で自分の身体の成長を止めているとしても、そんな長い間生きていたら流石におかしいということに気づいてもいいと思う。

『よく考えて、咲夜。白夜は幼くして人から忌み嫌われ地下牢獄に閉じ込められていたのよ。閉じ込められているのに、年月がどれくらい過ぎているかなんてわかるはずないんじゃない?そもそも、白夜は数千年もの間時の流れを把握せずに生きていた、と考えた方が普通なんじゃないかしら。』

白夜の話を聞いただけでここまで推測できてしまうレミリアに驚き、圧倒され、思わず生唾を飲み込んでしまう。
つくづく、自分の主には驚かされることが多いと改めて思う。

『でも白夜。貴方ほどの身体能力があれば閉じ込めてきた人間なんて力で潰せたと思うのだけれど…』

そう言われ、白夜は肩をびくりと大きく震わせる。
目を泳がせ、間を置いてから重たい口をゆっくりと開いた。

『そうできる、というのは自分でもわかっていました。
でも…したくなかった。自分が存在するだけで、村に不幸が降り注ぐ。村の人に迷惑しかかけられない。

…だったら、いっそこのままずっと閉じ込められていた方が、迷惑をかけないで済むんじゃないかと思ったんです。…どうせ、閉じ込められていてもいなくても不幸は結局訪れてしまう。

だから、私は殺されそうになっても、逃げなかった。』

『な…』

『そもそも、生かしてもらえるだけで幸せだったんです。生きているだけで人に迷惑をかけるような人が生きていていいはずがない。私が両親の子供じゃなければ、即座に殺されていたと思います。
…だから、そんな長い年月殺されていなかった、と知って今、ちょっとだけ嬉しいんです。』

『……………………』

話があまりにも切なくて、遠くて、かける言葉が見つからなかった。
レミリアは白夜を見つめるのをやめ、ティーカップに目線を注いでいた。

白夜は出された紅茶を飲みきり、少しして席を立った。

『…暗い話をしてしまい、ごめんなさい。
それと…名前をくれて、ありがとうございました。

…ちょっとだけ、気が休まった気がします。
私、帰りますね。咲夜さん、私を拾っていただきありがとうございました。レミリア…さんも。』

『…え?』
白夜が淡々と話している時、異変に気づいたのは咲夜だけじゃなく、レミリアもだった。

『この御恩は、いつか必ずお返しいたします。
それでは……』

『あなた、人間?』

『……え?』

白夜の言葉を遮り、無邪気にそう聞いてきたのは

『あ、けものの耳生えてるー。人間じゃないのかぁ…
それでもいいや!ねぇ、わたしといっしょに遊ばない??』


つい先程まで部屋にいたはずの、フランだった。 
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