とある3年4組の卑怯者
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104 必殺技
前書き
永沢は各務田から両親の居場所を言う事を要求されるも口を開かず拷問を受け続ける。一方、スケート大会では和島の四回転アクセルが大歓声を受け、藤木は更なるプレッシャーと緊張に包まれていた!!
リリィは笹山の家に到着し、チャイムを鳴らした。
『もしもし』
応答したのは笹山の母親の声のようだった。
「笹山さんの友達のリリィです!笹山さんいますか!?」
『分かりました。ちょっと待っててね』
少しして、笹山が現れた。
「リリィさん、どうしたの!?」
「大変よ、さっき城ヶ崎さんに会ったんだけど、永沢君の弟の太郎君を抱えて走っていたわ!きっと永沢君の事件に巻き込まれているんだわ!!」
「そうなの!?私の家にも変な人達が来て永沢君がいないか確かめてたの!!」
「え!?じゃあ、あちこち探し回っているの!?」
「でも、城ヶ崎さんが太郎君を抱えて逃げていたって言ったわよね?もしかしたら永沢君を追っている人はもう行方がわかったから今は永沢君達を追う段階に進んでいると思うわ!」
「うん、あ、でも城ヶ崎さんは永沢君は捕まったって言ってたわ」
「え!?じゃあ、もう手遅れなのかしら!?城ヶ崎さんと太郎君を助けないと!」
「そうね!」
リリィと笹山は救出に取り掛かった。
藤木は緊張をほぐそうと深呼吸した。出場者が12番までの演技が終了した後で15分の休憩に入った。
(僕の力、ここで見せてやるぞ!落ち着け!あの技は絶対に成功できると思ってやるんだ!父さん、母さん、片山さん、みどりちゃん、そして堀さんだって来ているんだ!みっともない所は見せられない!!)
藤木は難しくともあの技を成功する事しなければ評価をあげられない、かつ和島に勝つ事はできないと考えた。
花輪家の別荘では、永沢の両親が息子達の安否を心配していた。
「坊っちゃま、清水の街は不安ですが明日は学校ですからお帰りになりませんと」
「ああ、そうだね、ヒデじい」
花輪とヒデじいは帰る準備をした。
「あ、あの、私達も帰らなければならないのでしょうか?」
永沢の母が二人に聞いた。
「いえ、とんでもない。貴殿方は事件が解決するまで、ここにお泊まりくださって結構です。ご安心ください」
「ありがとうございます」
永沢の両親は泣きながら礼をした。
「それじゃあ、メアリー、二人を宜しく頼むよ」
「カシコマリマシタ、坊っちゃま!」
花輪とヒデじいは別荘を後にした。
「君男、太郎、無事でいてくれよ・・・!!」
城ヶ崎と太郎は各務田の部下に見つからないよう神社の縁の下に隠れていた。また、寒さで体が震えていた。
「うわ~ん、うわ~ん!!」
「よし、よし、寒いね・・・」
城ヶ崎は太郎の体が冷たくなっているので手を擦っていたが、それでも耐えきれなかった。コートがあれば太郎を包んで寒さを凌いでやれるのだが、コートを着る余裕もなく逃げたため、それはできない。
(このままだと、太郎君が凍え死んじゃう・・・。そうだ・・・)
城ヶ崎は太郎を自分の服の中に入れた。太郎が泣き止んだ。これで少しは太郎の体が暖まればと願った。
「太郎君、あったかい?」
城ヶ崎は太郎に聞いた。
「たー、たー」
太郎は気持ちが良さそうにしていた。
(どうか逃げ切れますように・・・)
城ヶ崎は自分が太郎を守り抜ける事を祈った。
城ヶ崎の両親から娘を助けて欲しいと依頼された三人組の警察官は丁度静岡県警の指令を受けて各務田の捜索をしていた。また、各務田は元町内会長の息子でその元町内会長も暴力団と関わりを持って何度か逮捕された事があったので息子も要注意人物とされていた。さらに、赤子を抱えて逃走している少女を追っているのは各務田の部下だと勘づいた。しかし、彼女の行方が掴めぬままだった。
「ふう、見つかんねえな」
「もしかしたら、その子も各務田の部下から逃げようとどこかに隠れているかもしれねえ」
「そうなると保護ができないぞ!どうすれば・・・」
「とにかく奴らよりも先にその子を見つける事だ!」
警察官達も城ヶ崎を探すのに苦労をしていた。
大会は後半に入った。
「そろそろ茂の番が近づいて来たわね」
「ああ、あいつの演技が楽しみだな」
藤木の両親は息子の登場を楽しみにすると共に失敗しないか心配になっていた。
現在13番の出場者が演技中だった。
(いよいよ僕の番が来る・・・)
藤木は心臓の鼓動がこれまでにない程強くなっていた。
「14番、藤木茂君、準備をお願いします」
「はい」
誘導係に呼ばれて藤木は控え室を出て、リンクに向かった。
リリィと笹山は交番に来たが、現在警察官は一人のみでその場を空けられなかったので断られてしまった。しかし、県警の人間を多く出動させていると聞いたので、出回っている警官を探す事にした。
「お願い、城ヶ崎さん、死なないで・・・」
笹山は泣きそうになっていた。
「でも永沢君が捕まったって事は永沢君はもしかして・・・」
リリィは最悪の予想をしてしまった。
「やめて、永沢君が殺されたなんて!永沢君は嫌な事ばかり言うけど、それでも大事なクラスメイトよ!」
「ご、ごめん、そうよね、永沢君はきっと生きてるわよね・・・!!」
「貴方達、永沢君ってもしかして、永沢君男君の友達なの?」
誰かに声をかけられた。リリィと笹山はまさかあの城ヶ崎と太郎を追っている人間かと思った。一人の女性が立っていた。
永沢が口を割らずに各務田から殴られ、蹴られ続ける。
「てめえ、いつまで無駄な抵抗を続けてやがる!てめえだって俺と同じように思った事あんだろ!」
「ど・・・、どういう意味だ・・・?」
「てめえは藤木茂とかいうガキから勝手に友達扱いされてんだっけなあ!?あんな卑怯な奴とは手を切りたくても向こうからしつこくくっついてきやがる。目障りでとっとと消えちまえって思ってんだろ!?それから今てめえの弟を連れて逃げてる城ヶ崎姫子だっけ?そいつも生意気だから嫌いなんだろ!?だからもう関わりたくねえって思ってんだろ!?」
「う、うるさい!!ぼ・・・僕はそんな事思ってない!」
「じゃあ、てめえにとって藤木や城ヶ崎って何なんだあ!?友達じゃねえだろ!?ただのお邪魔虫だろ!?俺がてめえの家族を嫌ってんのと同じじゃねえかよ!!」
「う・・・」
永沢は確かに藤木には邪険に扱い、城ヶ崎とは喧嘩をしてばかりいたので、何も言い返せなくなった。
「うるさい!!」
「『うるさい!!』ぎゃははは!!」
各務田は永沢の口を真似して笑った。
『14番、藤木茂君、入江小学校』
藤木の演技が始まった。
(僕の全てを見せてやるぞ・・・。見ていてくれよ、父さん、母さん、片山さん、みどりちゃん、そして、堀さん・・・!!)
「藤木さん、頑張って下さい・・・!!」
みどりが切実に応援する。
(藤木君、頑張って、私、本当は藤木君が好きなの・・・スケートしてる藤木君が・・・、どうか失敗しないで・・・)
堀は無言で応援した。
「茂、お前の実力を見せてみろ・・・」
「茂・・・」
藤木の両親も心配しながら息子を応援した。
(藤木君、いよいよ君の番が来たな・・・。さあ、誰にも負けないような演技、見せたまえ・・・。私は君が一番になれると信じている・・・)
片山は藤木のプレイへの期待を高めていた。
藤木はカーブして滑り出した。
(まずはトリプルを三種類決めるんだ!!)
最初にトリプルルッツ、そしてすぐさまトリプルトウループ、そしてトリプルループを決めた。いずれも転倒する事なく成功した。
(上手い!ジャンプの中で二番目に難しいルッツを最初に出すとは!!)
片山は称賛した。そして藤木は軽快にステップを踏み続ける。そしてコンビネーションスピンを見せた。13回転はした。
(よし、基準をクリアだ!)
藤木はさらにダブルアクセルを行い、そして上半身を前に倒して左足を上げたスパイラルを行い、緩やかに三回転した所で足を下ろし、トリプルサルコウを行い、そして、フライングキャメルスピンに入った。スピンは8回転と、基準の6回転を越えた。
(どうか、最後の最後も失敗なしで行ってくれ!)
藤木は己に頼んだ。そして、ダブルルッツ、ダブルアクセルを立て続けに成功させた。そして、足換えシットスピンを行った。
「藤木さん、素敵です・・・!」
「藤木君、いい調子ね・・・。最後まで失敗しないで・・・」
みどりと堀も藤木を見守っていた。
ここまで七つのジャンプを行った。規定では八種類までなのでジャンプはあと一つ。それは藤木にとって最後まで残した最も見せたい技であり、難しいと思う技だった。
(どうか、折角の締めを失敗しないでくれ!いや、何がなんでも成功させるんだ!!)
藤木はステップを踏み、リンクの中央へ向かい、アクセルジャンプの準備に入った。そして、アクセルジャンプをする。その途中、藤木は右足を伸ばした。
(あ、あれは何と・・・!!)
片山は驚いた。アクセルジャンプの途中でスパイラルの準備をしたのだ。片山自身も始めて見るパフォーマンスだった。空中でスパイラルの姿勢になった藤木のアクセルは三回転に成功した。そして、着地する。このスパイラルの姿勢で着地するにはバランスを取るのは難しい。そして・・・、着地した。スパイラルの姿勢を保っていた。転倒する事はなかった。成功したのだ。これまでないほどの歓声と拍手の音が響いた。これで終わった。
(何だと!アクセルしながらスパイラルなんて、あん難しい技を成功させるなんて!!)
控え室のモニターから見ていた和島も非常に驚いた。藤木はホッとして、リンクを出た。
「藤木さん、素晴らしかったです!!」
みどりは思わず叫んでしまった。
(凄いわ、藤木君・・・。きっと金賞獲れるわ・・・)
堀は絶対藤木が一番だと信じていた。
後書き
次回:「靴下」
残りの出場者の演技を見ながら藤木は結果を待つ。一方、城ヶ崎と太郎も各務田の所へ連行される中、リリィと笹山が、そして警察達がその場所を突き止めようとする・・・。
一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!!
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