とあるの世界で何をするのか
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第四十八話 一山越えたら水着回とか安くない?
レベルアッパー事件も使用者が意識を取り戻してから一段落付き、ようやく平穏な日常が戻ってきていた。
容態が心配だった麦野さんも、他の人たちより遅かったようだが回復したと言うことだ。絹旗さんの話では目が覚めた当初、かなりボーっとした様子で心配したようなのだが、麦野さん自身は自分の体をかなり細かく検証していたらしく、他のことに気を使えなかったと言うことらしい。なお、残念ながらデュアルスキルになれてはいなかったそうだ。
柵川中学では俺と佐天さん達四人以外のレベルアッパー使用者が居なかったようで、休みの日にもかかわらず呼び出されて先生方から色々とお説教やらお小言やらをいただいた。俺がレベルアッパーを聞いたのは行った施設でたまたま流れてたからというのを先生に説明すると、先に言えと更に怒られたのだが、そもそもこちらの言い分も聞かずに説教を始めたのは学年主任とか言う先生の方なのだし、大圄先生もこちらの言い分を聞くこと無くお小言を始めたので俺に非は無いだろう。
そんなこともあったので学校側には……というか、校長先生には俺がレベルアッパーを聞かされてから取った行動を、レベルアッパーに関して危惧した部分とその為に脳科学関係や大脳生理学の論文を調べた事、それから絹旗さん達とつじつま合わせをした部分まで含めて説明し、恐らく有効だったのであろう対応を取ったことを認めて貰った。また、レベルアッパーの使用で能力を使えた人は、演算能力さえ上げれば同じだけの能力が使えるようになるはずだと言うことも伝えたのである。少なくとも演算能力さえ上げれば能力が使えるようになるということを他の学校に伝えれば、柵川中学の評価が多少なりとも上がるかも知れないと思ってのことである。
一応俺も佐天さん達四人も、レベルアッパーの後遺症が無いかの検査をしていた日は学校を休んでいたので、その日の学習部分だけをお小言の後に大圄先生から教えて貰い、学校から出ようとすると初春さんが待っていた。
「佐天さん、神代君、やっと終わったんですね」
「初春、迎えに来てくれたん……だっ!」
初春さんの言葉に佐天さんが応える……と同時に佐天さんは初春さんのスカートを捲る。
「……きゃーっ!! 何てことするんですかっ! 佐天さん!」
「いやー、やっぱり初春がちゃんとパンツ穿いてるか確認しなくちゃね」
「確認しなくてもちゃんと穿いてます! っていうかわざわざ確認しないでくださいっ!」
「じゃー涙子、私達は先に帰るねー」
初春さんと佐天さんがいつものコントをやっている間にアケミさん達は帰って行った。
「それじゃー、私達も帰ろっか」
「そうだね」
「話を逸らさないでくださいよ、もう」
校門前で立ち止まってても仕方ないので、俺達も帰ることにする。初春さんだけはちょっと不満そうだ。
「これからどうする? どこか遊びに行く?」
佐天さんがこの後の予定を尋ねる。学校で説教されたりお小言貰ったり昨日の学習範囲を教えて貰ったりはしていたものの、まだお昼までにはそこそこ時間があるのである。
「あ、それなんですが、今朝白井さんから電話がありまして……」
初春さんの話では水着のモデルを頼まれたそうで、初春さんと佐天さんは当然ながら、俺までもが姫羅で来て欲しいと言うことだった。
「まー、それなら」
レベルアッパーの事件も終わったことだし、アニメでは直後にその話が有ったのでいつかは来るだろうと覚悟を決めていたので了承する。
「おぉー、これで神代さんの水着姿が拝めるんだねー」
「まー、そうだね。うん、それならウチが着用したやつは全部、佐天さんに買い取りして貰おう」
「ちょっ!?」
なんかちょっとオヤジくさい台詞を吐く佐天さんを少し牽制しておく。こうでも言っておかないと何時ぞやみたいに着せ替え人形にされかねない。
白井さんから指定されたという場所に到着すると、そこには既に白井さん達が待っていた。
「皆様が白井さんに紹介していただいた方々ですね。初めまして、泡浮万彬と申します。今日は皆様にもお手伝いいただけると言うことで、本当にありがとうございます」
「湾内絹保と申します。今日はよろしくお願いいたします」
最初にモデルの仕事を受けた水泳部員からの自己紹介が始まった。さすが常盤台、挨拶も丁寧である。
「初春飾利です。白井さんとはジャッジメントで一緒に仕事をしてます。よろしくお願いします」
「佐天涙子です。初春の親友やってます」
「神代姫羅と申します。初春さんとは学級委員をご一緒させていただいております。あと、常盤台の方はご存じかと思われますが、何故か雌雄同体とか言われておりまして本来は男性で神代騎龍と申します。元が男ということもありまして、何分モデルというのも初めての経験で御座いますので、何かと至らない部分もあるかと思いますが、その際にはご指導いただければと思っております。よろしくお願いいたします」
初春さんと佐天さんが簡潔に自己紹介をする中、俺は少し凝った自己紹介をしてみた。マリア様に見られていた世界でお嬢様学校に通っていたのは伊達じゃ無い。
「あら、これはご丁寧な挨拶をありがとうございます。ですが、私達も水泳部の先輩方に頼まれたものでして、モデルというのは初めてなんですよ」
「そうでしたか。モデルと言われるとどうしても特別な感じがしてしまいまして、どうにも緊張してしまいます」
「そうですわね」
「……なんだか、神代さんのキャラが変わってる気がいたしますの」
「そうね。なんか、妙なお嬢様感が……」
俺が泡浮さんと話をしていると、白井さんと御坂さんは何故か目を丸くしてこちらを見ていた。
「うわぁー、なんか大きな企業って感じー」
「ええ、ちょっとドキドキしちゃいますよねー」
水着メーカーのビルに入ると、佐天さんと初春さんのテンションが上がってくる。
「でも、水着のモデルなんですよね? 本当に私達なんかで大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫ですわよ、初春。どんな幼児体型でも、この学園都市の技術で編集すればちょちょいのちょいで修正できますの」
少し不安になってきたのか、初春さんが尋ねると白井さんが何故か自信満々で答える。けど、あんまり修正してたら水着のデザインが変わってしまうので駄目だと思う。
「いやいや、修正したら意味ないでしょ。まー、初春さんに似た体型の人とかでも可愛く着こなせる水着のモデルって事で良いんじゃ無い?」
「白井さんは勿論ですけど……何気に神代さんも酷いですぅ」
俺がフォローすると初春さんが涙目になっていた。どうやらフォローは失敗だったらしい。
「お待たせしましたー」
奥の方から会社の人が声を掛けてきて向かってくる。恐らくこちらに声を掛けてきたはずなので、広告撮影の責任者か何かだろう。
「あの人は?」
「メーカーの担当さんですわ」
佐天さんが聞いて湾内さんが答える。俺の予想とは表現が異なっては居るが、言葉が違うだけでやることは多分一緒だと思う。
「今日はよろしくお願いしますね。……えーと、後の二人は?」
「二人?」
担当さんの言葉には白井さんが怪訝そうに返す。どうやら俺達の他にあと二人水着モデルが居るようだ。まあ、アニメ通りならその二人は固法さんと婚后さんなのだが……。
「あら、そこに居るのは白井さんではなくて?」
「こっ……この声は……」
誰かが白井さんに声を掛け、白井さんは嫌そうに振り返る。声で何となく分かったが、噂をすれば影……というか、頭の中で考えただけで噂をしていたわけじゃないけど、思った通りの二人がタイミング良くやってきた。
「あらまあ、大勢でぞろぞろと、社会見学か何かなのかしら?」
「婚后光子……」
「固法先輩も」
婚后さんが下手をすると喧嘩を売っているとも取られかねないような発言をし、白井さんがフルネームで呼び捨てる。そして、初春さんが一緒に来たもう一人の名前を出す。
「貴女こそ、休みの日も制服で外出するという校則、お忘れですの?」
白井さんが婚后さんに注意をしている。確かに白井さんや御坂さんが制服以外で居るのを見かけたことは無いし、今現在は御坂さんや白井さんをはじめ湾内さんも泡浮さんも制服だ。それに対して、婚后さんは和装の着物姿である。
「今日は常盤台の生徒として来たのではありませんのよ。一人のモデルとして参上しましたの」
白井さんの注意にも全く動じること無く婚后さんが答える。これだけ堂々と主張されると、校則違反は間違いないはずなのに婚后さんの言っていることが正論に聞こえてくるから不思議だ。
「モデルって……貴女も?」
「えっ? ということは、まさか……」
白井さんの言葉にやっと状況が飲み込めたらしい婚后さん。
「固法先輩も水着のモデルを?」
「ええ、いつも通ってるジムで、ジャッジメントの先輩に頼まれちゃって。貴方たちは?」
初春さんが尋ねると、固法さんがモデルを引き受けた経緯を教えてくれた。固法さんは今までの話の流れから俺達が水着のモデルだと言うことは把握しているようで、モデルになった経緯の方を聞き返してきた。
「私達は水泳部の子達に頼まれて……」
固法さんの疑問に御坂さんが答え、常盤台の水泳部の二人を紹介する。水泳部の二人は揃って固法さんに頭を下げていた。
「見た所、皆さん初めてのようですから、色々と教えて差し上げますわ。わたくし、子供の頃からモデルをやってましたのよ」
最初の方は純粋に厚意から来る言葉なのだろうが、後に続いた自慢話で見事にそれを帳消しにしている。というか、婚后さんが続けた話は、自分の家で使用人相手にファッションショーまがいのことをやっていただけのようにしか聞こえなかった。
「オーディエンスって、ご自宅の方でしょうに……」
「さ、早く参りましょう。試着室に案内してくださる?」
「あ、はい。こちらです」
白井さんの呆れたようなツッコミも意に介さないのか完全に無視なのか、婚后さんは担当さんを連れて先に行ってしまった。
「お知り合いなんですか?」
「知り合いたくはありませんでしたけど……」
初春さんが尋ねると白井さんは嫌そうに答えていた。
「それじゃー、どれでも好きな水着を選んで下さいね」
『はーい』
担当さんに言われて全員が返事をする。一応、カーテンで仕切られた試着室があると言うことで、俺も皆と一緒に水着を選ぶことになった。
「ねえねえ、神代さんはどんなのを選ぶの?」
「そうねぇ、ウチはどんなのにするかなぁ」
佐天さんには買い取りさせると言っておいたのでやって来ることは無かったのだが、何故か御坂さんがやってきて俺の選ぶ水着に興味津々と言った感じである。
「これなんてどう?」
「ん? あー、本格的に泳ぐんだったらそういうタイプが良いかもねー」
御坂さんが持ってきたのは競泳用水着っぽいワンピースタイプのやつだ。さすがに学園都市製の競泳用水着とかになると、水の抵抗が極限まで抑えられたり体が動かしやすくなってたりするのだろう。
「じゃー、こういうのは?」
「あー、うん。そういう方が良いかなぁ」
次に持ってきたのはふりふりのフリルがついた水玉模様のツーピース水着である。というか、もしかしたらこれはアニメで御坂さんが着ようとしていたやつでは無いだろうか。確か最後には実際に着て巨大スクリーンに映し出されてたはずである。
「でも、それって御坂さんの方が似合いそうじゃ無い?」
近くでこっちの様子を窺っていた佐天さんと初春さんに目で合図をしてから付け加える。
「お、そうですね。絶対御坂さんに似合いますよ」
「そうですよ。御坂さんなら絶対可愛いですよ」
俺の意図を察してくれたようで、佐天さんと初春さんが御坂さんの後押しをする。
「いや、に……似合うかな?」
「うん、そりゃ似合うでしょ」
御坂さんが確認してくるので俺は素直に答えておいた。これで、アニメと違う展開になるなら御坂さんはこの水着を着てくれるはずだ……と思ったのだが、何故かこのタイミングで一人の気配が後ろから近づいてきた。
「あら、御坂さん。結構子供っぽいのが好きなのね」
「い……いや、これは……私じゃ無くてですね、神代さんに似合うかなと思って持ってきただけでして……、わ……私はこれにしますねっ!」
これが世界の修正効果というやつなのか、固法さんの一言で御坂さんは別の水着を持って試着室へと飛び込んでいった。どうやら持って行ったのは俺に最初持ってきたワンピースタイプの水着だったと思う。
『はぁー』
「な……何? 私、何かした?」
俺達三人が同時にため息をつくと、状況を全く分かってない固法さんが聞いてきたが、誰も答えることは出来なかった。
「な……なんか、ちょっと、恥ずかしいですね」
「女同士なんだし、照れること無いって」
水着に着替え終わって試着室から出てみると、丁度初春さんと佐天さんが会話をしていた。その場には既に御坂さんと泡浮さんと湾内さんも居る。
「いやいや、ウチはどうなるのよ?」
「あ……ま、まあ、神代さんも今は女なんだし、い……良いんじゃ無いかな……あはははっ」
俺が佐天さんに向かって言うと、佐天さんはすっかり忘れていたようで気まずそうに視線を逸らした。
「あの、えーと、と……とにかく、良くお似合いですよ」
微妙になった空気を察して泡浮さんが初春さんにフォローを入れてくれる。
「そうですか?」
「ビキニは目線が上下に分かれますけど、ワンピースは体のラインが出ますから、細い方しか似合わないんですよ」
聞き返す初春さんに対しては湾内さんが答えてくれた。湾内さんが言ったように、初春さんはワンピースタイプの水着を着ている。黄色地にオレンジの花柄が付いたフレアスカートタイプのものである。
「おぉー、さすが水泳部!」
「他に水着選びのポイントって有るんですか?」
御坂さんが褒めると佐天さんが更に情報を求める。
「そうですねぇ。例えばパレオは、おしゃれなのは勿論ですけど下半身をカバーするのにも役立ちます」
「ん? あ、わ……私は別に隠すつもりとかは無いですよ!」
湾内さんの蘊蓄を聞いて、佐天さんは自分がパレオを纏っていることを思い出したようで、慌てて自分が下半身のカバーをしているわけじゃ無いと否定した。佐天さんは白をベースに青緑色を使ったビキニで、ビキニと同色の青緑色のパレオを巻いている。
「お待たせしました」
『うぇっ!』
試着室のカーテンが開き、白井さんの声がしたのでそちらに振り向くと、布面積が極端に少ない水着を着た白井さんがそこに居た。この場に居た全員が驚いて目が点状態になっている。
「んー、おとなしめのデザインしか無くて今ひとつなんですが。ま、既製品の水着ですとこんな物でしょうか」
「何というか」
「さすが白井さん」
「こ……個性は大切ですわね」
「ええ」
白井さんは一体何を求めているのだろう。初春さんも佐天さんも湾内さんも泡浮さんもどう言う言葉を掛けたら良いのかが分からずに、何とか言葉を絞り出しているといった感じである。少なくともここに居る全員が「全然おとなしくないだろ!」と思っているに違いない。
「お姉様ぁ、この程度では物足りないでしょうけど、我慢して下さいですの」
「いや、全然全くこれっぽっちも我慢してないし……」
なんか白井さんが妙にクネクネした動きをしながら御坂さんに話しかける。それに対して御坂さんはほぼ唖然とした状態で、ツッコミにも全然キレが無かった。
「あぁら皆さん、その程度ですの?」
今度の声は婚后さんである。
『ひっ!』
皆が婚后さんを見ると、俺と初春さんを除いて他全員が壁際まで後退る。何故なら婚后さんがかなり大きなヘビを体に巻き付かせていたからである。
「ご覧になって。セクシー・アンド・エキゾチック、これぞオーディエンスの求める究極の水着モデルですわ」
「うわぁー、かわいいですねー。お名前は何て言うんですかー?」
『ひぃー! ヘビ!』
婚后さんが説明している間に初春さんだけはヘビに近づいて話しかけている。逆に壁際まで逃げた人たちは怖がって悲鳴を上げていた。
「エカテリーナちゃんですー」
婚后さんがヘビの名前を教えてくれる。恐らく初春さんの言葉に応えたのだろう。よく見ると蛇の首辺りには赤いリボンが付けられていた。
「す……素敵なニシキヘビですね」
「湾内さん、それ褒める所じゃないです」
湾内さんがテンパって何とか褒め言葉をひねり出し、それに対して泡浮さんがツッコミを入れているが、褒める所と言う意味では間違ってない気がする。
「はっ……早くどこかに仕舞って下さい!」
佐天さんはかなり怖いようで叫んでいるが、佐天さんの言葉を聞いて俺はふと思った。
「ってか、そもそもどうやって持ってきてたの?」
仕舞うためには持ってきたケージか何かに入れなければならないはずなのだが、婚后さんがそんな物を持ってきていた記憶は無いのである。
「エカテリーナちゃん専用のキャリーバッグに入れて連れてきましたの。可愛いでしょう?」
『ぎゃぁー!!』
「あぁー、なるほど」
婚后さんが答えると同時にヘビが体を伸ばして御坂さん達の方へ顔を向けたので、大きな悲鳴が上がる。そう言えば確かに婚后さんはキャリーバッグを持ってきていた。今回は水着モデルということで、必要な物は全部用意してくれているので特に何も持ってくる必要は無かったのである。それなのに婚后さんだけキャリーバッグを持ってきていたのは少々違和感があったことを思い出す。
「いかがです? 白井さん」
「ふんっ、センスの悪い小道具ですの」
白井さんにヘビを向けて挑発的とも取れる発言をする婚后さんに、精一杯の虚勢を張って白井さんが応えていた。
「んー」
ここで最後の一人、固法さんの着替えが終わったようだ。
「ちょっとキツいけど、これ以上サイズないし仕方ないか」
『……』
固法さんの姿を見て全員が固まる。それもその筈、固法さんは何だか乳牛を思わせるような白と黒のカラーリングのビキニには収まりきれてないぐらいのナイスバディだったからである。
「いいな」
『えっ!?』
静寂の中、何故かボソッと呟いた湾内さんに全員の視線が集まっていた。
全員が水着に着替え終わったので、担当さんに連れられてスタジオに移動する。到着するとそこはただの何も無い部屋だった。
「何も無いけど……」
「ここで撮影するんですか?」
御坂さんが呟き、初春さんが尋ねると、担当さんはリモコンのような物を操作し始めた。その瞬間、何も無いただの部屋だったものが南国のビーチ風の場所になっていた。
『うわぁー!』
「このスタジオは色々なシチュエーションを作り出せるんですよ」
全員が驚き、担当さんは得意げに説明してくれた。
「あっ、凄い。触れるんだ」
「はい、学園都市の最新技術です」
佐天さんが近くにあった椰子の木に触ると、実際に触れた感触があったようで、それなら担当さんの得意げな表情にも納得という物である。
「あ……あのっ! カメラマンってやっぱり男の人ですか?」
皆が技術に感心していた所で、初春さんが意を決したように担当さんに尋ねた。やはり、カメラマンと言えども男の人にじっくりと見られるのは恥ずかしいのだろう。
「ああー、そう言えばそうですわね」
「分かってるとは言え、ちょっと……ね」
湾内さんと固法さんも初春さんと同じくカメラマンが男の人だと恥ずかしいようだ。
「これだから素人は、モデルは見られることでより美しく輝くんですのよ」
逆に婚后さんは見られることを前提としている辺り、一応モデルとしての素質はあるのだろう。ただ、勘違い要素が多すぎて本物のモデルとしてやっていけるかどうかは微妙な所だと思う。
「全て自動撮影です」
『へっ?』
初春さんの質問に対する担当さんの答えに皆が変な声を上げる。恐らく、男性だと言われれば「やっぱり」となり、女性だったとすれば「良かった」となったのだろうが、答えがあまりにも想定外過ぎて理解が追いつかなかったのだろう。
「カメラが視界に入ることはまずありませんので、自然体でお願いしますね」
『えぇ?』
更に続いた担当さんの言葉に全員が困惑していた。恐らく全員が、考えていたモデルの仕事とは違うと思ったに違いない。
後書き
お読みいただいた皆様、ありがとう御座います。
1話で終わらせようと思ったのに半分しか進まなかった……
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