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真田十勇士

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巻ノ百二十 手切れその三

「させませんね」
「何があろうとも」
 こうお江に言うのだった。
「ですから」
「切支丹のことは何とか」
「思い止まって頂き」
 そしてというのだ。
「難を避けましょう」
「必ずや、ですが」
「はい、お姉様は元来強情なお方で」
「こうした時は時に」
 お江は暗い顔で次姉に話した。
「追い詰められると」
「その強情さが出られ」
「一歩も退かれませぬ」
「そうした方ですね」
「ですから」
「私達が申し上げても」
 二人で幼い日々のことを思い出した、三人で共に仲睦まじく暮らしていたあの頃のことを。だが。
 だからこそだ、二人は言うのだった。
「適いませんね」
「強情さはあの時から」
「お父上がまだおられた時から」
「小谷の城において」
 まだお江が三歳の時のことだが覚えているのだ。
「それではです」
「私達の文も言葉も」
「お聞きになられず」
「あのまま」
 茶々、彼女はというのだ。
「今度こそ」
「落城と共に日の中に消えられる」
「そうなってしまいますね」
「遂に」
 このことを予感し姉妹で嘆くのだった、だがそれでも一抹の望みを胸にそのうえでだった。
 常高院は江戸から大坂に急いで向かいそうして茶々と会った。そのうえでお江の文を渡してだった。
 自身もだ、姉に必死の顔で頼んだ。
「姉上、切支丹は認めてはなりません」
「そなたもそう言うのか」
「お江もそう書いています」
「確かにのう」
 茶々はここで文を見て答えた。
「書いてあるのう」
「はい、ですから」
「ならん」
 だが茶々は二人が予想した通りの返事で応えた。
「そのことはな」
「それは何故ですか」
「豊臣が決めたことだからじゃ」
 それ故にというのだ。
「天下を治めるな」
「だからというのですか」
「そうじゃ、天下人が定めたことを変えることはじゃ」
 それはというのだ。
「あってはならぬ」
「それが法だからですか」
「決してな」
「ですが切支丹達は」
「天下を乗っ取るというのか」
「そうした者が多くいます」
 このことも話すのだった、やはり必死に。
「しかも民達を外の国に売り飛ばし」
「奴婢にしておるか」
「そこまでご存知でしたら」
「その様なことは豊臣がさせぬ」
 茶々は上の妹に毅然として返した、例えその毅然さの裏には一切根拠がなくともそれでもだった。
「だからじゃ」
「鎌らぬと」
「切支丹のもたらすものを受け入れるだけじゃ」
「しかしその受け入れる中で」
「天下が乗っ取られてはか」
「どうしようもありませぬ」 
 こう姉に言うのだった。
「太閤様もそう思われた筈です」
「だからあの時切支丹を禁じたか」
「ですから」
「あれは杞憂じゃ」
 つまり秀吉が心配し過ぎたというのだ。 
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