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真田十勇士

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巻ノ百二十 手切れその一

               巻ノ百二十  手切れ
 片桐達が大坂を出たことはすぐに幕府にも伝わった、秀忠は江戸城でその話を聞いてすぐにこう言った。
「愚かな」
「ですな、これは」
「これでは幕府も戦しかありませぬ」
「切支丹のことを認めるということですから」
「それを取り消さぬのであれば」
「攻めるしかありませぬ」
「本来なら取り消しても攻めておった」 
 秀忠は幕臣達に沈痛な顔で述べた。
「しかし豊臣家は仮にも右大臣であるしな」
「千姫様のご夫君」
「上様にとっても娘婿です」
「しかも前の天下人の家でありましたし」
「別格でしたが」
「まだわかっておらぬな」
 こうも言ったのだった。
「もう豊臣家は天下人でないことに」
「茶々様がですな」
「どうしてもです」
「わかっておられず」
「その様なことをされていますな」
「その通りじゃ、他の家ならばじゃ」
 それこそという口調での言葉だった。
「認めただけでな」
「お取り潰しですな」
「そうしていましたな」
「問答無用で」
「それだけで」
「切支丹がどれだけ恐ろしいか」
 秀忠は苦い顔で述べた。
「茶々殿だけはわかっておらぬ」
「全くです」
「政のことは何もです」
「わかっておられませぬ」
「それこそ」
「何一つとして」
「そうした方だからな」
 それ故にとだ、秀忠は苦い顔のままで話した。
「切支丹を認めてしまい」
「幕府への反発から」
「ただそれだけで」
「そうされてですな」
「しかもこの度のことです」
「まるで自ら滅びたい様じゃ」
 秀忠の目にはこう見えていた、茶々そして豊臣家の動きは。
「あのままではな」
「実際にですな」
「滅びますな」
「そうなってしまいますな」
「間違いなくな」
 それは避けられないというのだ。
「どう見てもな」
「ですな、ではです」
「幕府としてもですな」
「戦の用意ですな」
「それに入りますか」
「何れ大御所様からお話があるが」
 しかしというのだ。
「各大名達に命じるぞ」
「出陣を」
「それを」
「前にも前田家に何か言っておったしのう」
 幕府はこのことも知っていた。
「このことは終わったが」
「幕府も忠告しただけで」
「それで大目に見ましたが」
「このことにつきましても」
「本来ならばお取り潰し」
「そこをよしとしたのですが」
 注意だけでというのだ。
「切支丹のことは」
「これは天下の大事ですから」
「どうしても認められませんが」
「そのことがわかっておられぬとは」
「最後にじゃ」
 秀忠は苦い顔のままだった、しかしそれでもあえてだった。戦を避ける為にと思い幕臣達に述べた。
「奥の文を送るか」
「そうされまますか」
「奥方様からの文をですな」
「大坂にお送りし」
「そしてですな」
「切支丹のことを思い止まって頂き」
「戦を避けられますか」
「そうするとしよう、幸いじゃ」
 こうも言った秀忠だった。 
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