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ハイスクールD×D 聖なる槍と霊滅の刃

作者:紅夜空
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第一部 出会い
  月下夢想花



―――その姿を見た時に。もう既に、魅入られていたのかもしれない。


蒼い光が弧を描きながら夜闇を切り裂く。
それを振るっているのは、たった一人の幼い少女。齢10前後の、脆弱な人間。
そんな彼女が手に持った一振りの日本刀……青い光はそこから放出されていた。
その前にたちはだかるのは異形の存在―――――悪魔。
人間よりもはるかに強力な力「魔力」を持つ、人外の生物。主人を失った「はぐれ」であり、下級とはいっても、普通の人間なら瞬殺されて終わりだろう。
「小娘がぁぁぁぁ!!」
悪魔の巨大な足が、少女を踏みつぶさんと振り下ろされる。ただの人であれば、なすすべもなく打ち砕かれて終わるだろう。
……だが。残念ながら、目の前に立つ少女は常人ではなかった。
トンっと綺麗なステップで跳躍して避け、素早く間合いを詰め、手に持った刀を素早く振るう。
「ぎゃああああぁぁぁぁぁ!?」
蒼いオーラを纏った刀は一切の抵抗なく悪魔の足へと吸い込まれ……断ち切る。
傷口から血が噴き出すかと思いきや、断面は妙に黒ずんで魔力が漏れ出していく。
苦悶する悪魔の腕が切り落とされ、今度は切り落とされた腕が消滅する。
「(……どういうことだ?)」
隠れて見ている少年―――名前は曹操という―――は疑問を隠せないでいた。
目の前にいるのは確かに「はぐれ悪魔」だ。間違っても、普通の人間が相手できる……ましてや、一方的に攻撃できる存在ではない。
使い魔を見つけて、どうせ見つけたのだから始末してみるかという気持ちで来たが…その予定は、目の前に現れた少女のおかげで崩れた。
悪魔の前に立ちふさがった一見何の力も持っていそうにない、自分と同じくらいの少女。そのはずなのに、曹操が感じたプレッシャーは、絶対にただの人間の物ではなかった。
曹操自身も「黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)」と名付けられた神器(セイクリッド・ギア)を持つ人間ではある。下級どころかその気になれば上級悪魔でも倒せるだろう。
だが、目の前の少女は『何か』が違った。その思いははぐれ悪魔と戦い始めた時の、蒼いオーラを見た時に確信に変わった。
あれは……自分の持つ神器とも、悪魔の扱う魔力とも、全く異質な「ナニカ」だ。

「クソ、くそくそくそぉぉぉぉ!」

破れかぶれで悪魔が魔力を解き放つ。下級悪魔のものとはいえ、直撃すれば人間ではただでは済まない。
少女は下段に刀を構えなおす。そして、当たり前のように振りぬく。
解き放たれた魔力に対して、ただそれだけのことしかしなかった。普通ならば、そこで吹き飛ぶのは少女のはずだ。
だが……目の前で信じられない光景が展開されていた。


パキィン!と澄んだ音と共に、刀身と衝突した魔力が硝子のように砕け散ったのだ。

「ば、ばかなっ!?神器も無しにま、魔力を消すなど…!」

自身の魔力攻撃を何らかの手段で無力化された悪魔が悲鳴を上げる。
その懐に、蒼いオーラを追従させながら少女が滑り込む。

「―――終わり」

無情な宣告とともに、オーラを纏った刀を横に一閃させる。
深々と一文字に斬り付けられた悪魔は、絶叫を上げる暇もなく真っ二つとなる。
悪魔を切り倒した少女は、一つ息をすると刀を鞘に収める。
そうして少女が立ち去るまで、曹操は静かに物陰からそれを見ていた。
少女が戻ってこないことを確認し、倒されたはぐれ悪魔の体を調べる。
刀で斬られたであろう傷口は全て断面が汚染されたかのようにドス黒く染まっており、明らかに普通の傷跡とは違うとわかる。

「―――――興味深いな」

口元が歪むのを抑えきれない。まさか、はぐれ悪魔を追ってこんな興味をひかれるようなものを発見するとは。

「まずは、情報を集めるとしよう」

先ほど見た少女の顔を脳裏に思い浮かべる。
整った顔立ち、長い黒髪、手にした日本刀。そして……ぞっとするような鋭さと暗さを宿した闇色の瞳。
とりあえずは情報を集めるために、曹操もその場を離れることにした。


そして3日後。

「……ふむ」

曹操の前にはいくつかの書類の束が置いてあった。

「意外に早く情報が集まったな」

と言っても、それは曹操だからこそではあるだろうが。
まずは件の少女の去った方角を捜索し、周辺の調査を行い少女の姿を探して、尾行。
周辺の調査と情報を照合して、入っていった屋敷の所有者とその地位について。徹底的に調べる。
そうすると、意外に様々なものが見えてきた。

「鈴科……このあたりに古くから根付く『異能者』の家系か…基本的に技術を秘匿する傾向がある家の様だな」

過去には神器持ちもいて、今も何人かいるらしい。そんな秘匿された情報を掴んでいる曹操も怖いが。
今現在、屋敷の見取り図と屋敷の住人のリストをめくりながら目当ての人物を探す。

「だが、彼女の写真はないな……」

そもそも、そんな閉鎖環境にも等しい家のメンバーの顔写真が手に入ること自体がおかしいのだが、きっとツッコんではいけない。
だが、彼女の分が見つからないということは……

「…少なくとも、異端の一族の中でもさらに隠さなければならないほどの“力”というわけだ」

さて、ここまでわかってしまえば次にとる行動は簡単だ。
今夜、それを実行に移すことを決めた曹操は一人立ち上がって姿を消した。



その少女は全ての望みを奪われた。
親を殺され、望まれたわけでもない家に入り。そして迫害される。
生きることさえ、もしかしたら望んでいなかったかもしれない。
異端の家の中に会ったなお、“異質”と評される人外の力。それも“出所不明”。
神に与えられた力も、悪魔の力も、それとは関係ない異能の力も。少女の前ではすべてが無に帰した。
―――強すぎる力は、畏敬を超えて恐怖の対象にしかならなかった。
だが、家の者たちはその力を使って更なる権力を得ようとした。
少女は幼いころから地下室に閉じ込められ、来る日も来る日も人を、生物を殺す術を学んだ。
そして一通りの技術を覚えた頃………悪魔の前に放り出された。
―――必死だった。初めて、生に執着して、あがいた。
ボロボロになりながらも、自分の力で悪魔は滅びた。
そこからは、ひたすらに異形の者と戦う日々。
いつしか血に塗れることも苦にならなくなっていき、夢に起こされることも少なくなった。
血の温度を感じなくなってもうどれくらいの時間が経っただろう。
それはもう、確かに感覚も麻痺して。一部だけれど確かに狂っている。けれども―――

「……誰か、誰か。…………助けて」

……たった一片、たった少しだけれども残っていた「心」
それが発した小さな囁き。毎度毎度繰り返される、小さな慟哭。
それはいつもの通り、泡となって消える。
―――――はずだった。


派手な侵入となった。襲い掛かってくる男たちを槍で弾き飛ばし、時には殺して動けなくする。
頭の中に昼間見た見取り図を思い浮かべる。地下スペースまでもう少しのはずだ。
だが、その入り口が見当たらない。抵抗を排除しながら探していく。何個目かの扉に手をかけた時

『―――けて』

小さな声が、届いた気がした。
そのまま、力強くドアを引く。
その先には、漆のような闇が広がっていた。


―――遥か上の入り口で、扉の開いた音がする。

「―――――?」

今日はもう何もないと言われ追い払われたのが一時間前。
なにか緊急に処理しなければいけない案件でもあったのだろうか?
基本的に、この地下隔離部屋にたどり着くためには階段を上ってはるか上にある入口の扉を開けなければならない。
階段自体も長いうえに暗いので危ないと言えば危なく、基本的に扉を開くのは少女に依頼を持ってくる人だけだ。
階段を下りてくる音を諦めの境地で待つ。一応、形だけの寝床から身を起こす。
ついに階段を下りる足音が止み、部屋のすぐ外にいるはずの世話係達の声が聞こえる、
一呼吸おいて、扉が外側に開かれる。
―――そこに立っていたのは、いつもの中年の男ではなく。
漢服らしきものを羽織り、槍を肩に担いだ黒髪の少年だった。
驚きに身を固める少女の姿を、その瞳が捉える。

「………ああ、ようやく見つけた」

そう言った少年は、少女のほうへと近づく。
驚きに固まっている少女の目の前まで近づき、止まる。
身を固くする少女に、目の前にいる槍を構えた少年がすっと右手を差し出す。

「―――俺と一緒に来ないか」




―――私の世界に突然に表れたあなたは、私に手を差し出した。
きっとその手を取った時―――私の世界は、大きく動き出した。

「―――俺は曹操。君の…名前は?」

「―――四織(しおり)

少女――四織を取り巻く運命は、静かに動き出した。
 
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