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ハイスクールD×D 聖なる槍と霊滅の刃

作者:紅夜空
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第一部 出会い
  始まりの日

四織を連れ出した曹操は、とりあえず宿に戻ることにした。
暗い夜道を、背中に刀を背負いボロボロのワンピースを着た四織とともに歩く。
幸いにも途中で誰にも出会うことなく、部屋まで戻ることができた。

「とりあえず、君がベッドで休むといい。俺のことは気にしなくていい」

指示するとコクリと一つ頷いて恐る恐るベッドに横になる四織。
少しすると、小さな寝息が聞こえ始めた。その姿にほっとする曹操。
彼自身は、扉の近くに椅子を持ってきて座り外の気配を探る。
鈴科家のものはほとんど打ち倒したはずだが、残党がいたらここを探し当てている可能性もある。
そう考えて、今日ぐらいは眠らずに警戒を続けることにした曹操だった。



窓から太陽の光が差し込んでくる。
椅子に座ったままうつらうつらとしていた曹操はその光で目を覚ました。
ベッドを見ると、小さな寝息を立てながらまだ四織は眠っていた。
その寝顔はあどけなく、年相応の物で。あの路地で見たような、凍てついた殺気はかけらも感じられない。
ベッドのそばへと歩み寄ると、ピクッと体が震え瞼が開かれる。
すばやく身を起こした少女。寝起きとは思えない頸烈な光をたたえた闇色の瞳が、まっすぐにこちらを見つめてくる。

「起きていたのか」

「……今、起きた。気配がして」

さらっと言っているが、気配だけで一瞬で意識を覚醒させるなど普通ではない。
そこまで気配に敏感にならなければいけない生活をおくってきたのだろう。
そんなことを考えながら、ベッドから降りる四織を見る。

「………それで。私は何を、すればいいの」

じっと見つめてくるその瞳は、虚ろで。自分の意志というものをほとんど感じさせない。
目の前の少女は間違いなく人間というよりは機械に、操り人形に近いだろう。
その糸を今まで握っていたのがあの家、そして今日からは曹操がその役割をすることになる。
と言っても、どうなるかはさっぱりわからないが。

「昨夜の残党がいれば君が逃げ出したことはすぐに伝わるだろうから痕跡を消そう」

かなりの人数を倒したはずだが、それでもあの家にいたのがすべてとは限らない。
残っているとすれば、この近辺をしらみつぶしに捜しているはずだ。ぐずぐずして何の対策も講じなければ捕捉されるのは時間の問題だろう。

「とりあえずはシャワーでも浴びてくるといい」

素直に頷いた四織を送り出し、曹操自身は新しい服(女物)を用意する。
追跡を避けるために。一番手っ取り早いのは装いを変えること。いかんせん、逃げ出した時と同じ格好では追跡部隊がいた場合、目に留まる確率は高い。
ならば服装と、あとは髪型くらいを変えてしまえば危険性は減る。
しばらくすると、長い黒髪をしっとりと濡らした四織が姿を現す。
どうやら髪を乾かすという思考はないようで、鬱陶しそうに黒髪を揺らすだけ。

「そのままでは風邪をひく」

曹操がドライヤーを四織に渡すが、首を傾げられる。

「…何、これ?」

「髪を乾かすものだが……もしかして、使ったことがないのか?」

無言でコクリと頷く四織。そう言えば、四織の部屋には風呂があったがほとんど使われた形跡がなかったなと曹操は思い返す。

「……髪って自然に乾かすものじゃないのかな?」

「男ならそういう風に考えるだろうが君は男じゃないんだ。少しは気を使う事を覚えてくれ」

使い方を教えてやると、要領を得ない顔をしながらも不器用に髪を乾かし始める。
その様子を見守っている曹操としては、どうやらまだまだ教えなければならないことが多そうだとため息をつきたい気分だった。

「…こんな感じ?」

「ああ、違う違う。そのやり方ではここが乾いていない。貸してくれ」

ドライヤーを取りあげ、乾いていない部分に熱風を当ててやる。
あらかた乾いたところではっと曹操は自分の行動の奇妙な点に気が付く。
なぜ自分は、出会ったばかりの少女に対してこんな保護者のようなことをしているのだろう。

「そ、それはともかく。そこに君の新しい服を用意しておいたから、着替えるといい」

ベッドの上に置いておいた着替えを指差す。そこには黒を基調にした女物の衣服が一式おいてあった。曹操が昨日、買ってきておいたものだ。
それを見た四織は自分のワンピースに手をかけ……躊躇なく脱ぎ捨てた。
曹操の目の前に10歳前後の見た目にしては発育のいい曲線、華奢な体の線が露わに―――

「……待て!?何をしている!?」

「? 着替えるだけ」

「羞恥心というものがないのか君は!?」

まさか自分の目の前で躊躇なく着替え始めるなど予想外だった。
だが次に発しようとした言葉は音にならず消える。
曹操の視線の先にある四織の肌は――――無事な箇所を探すのが難しいぐらいの傷跡や痣に覆われていた。
彼女はそれを隠すでもなく、ただそこにあるものとして扱っている。
四織としては、家で定期的に執り行われていた「調整」のために服を脱ぐことなど珍しくもなかったうえに、誰も四織の体になど興味を示さなかった。
たとえ傷だらけであろうとも、できたばかりの痣が散乱していようとも。生命活動さえしていれば誰も興味を示さなかった。
そのため羞恥心などというものは皆無に等しいのだが……残念ながらそこまでは曹操も知る由はなかった。

「と、とにかく早く着替えてくれ」

言われるがままに上着を着込み、ズボンに足を通す。曹操はその間後ろを向いていた。
動きやすい黒の上衣とハーフパンツ。まあ、無難なところだろう。
特におしゃれではない四織は文句を言う気もなかった。しいて言うなら、いざというときの動きやすさくらいしか服に求めていない。

「…さて、じゃあ君の話を聞こうかな」

「…あなたの目的も、話してもらう」





朝食を食べながらお互いに質問したいことを聞いていく。

「…つまり。あなたも私の力を求めて連れ出したってこと?」

「まあ、そうだな。と言っても、使いたいというのは二の次で一番の目的は『調べてみたい』だが」

「そう」

「それには君をあの家から連れ出す必要があった。だから潜入したということだ」

朝食を食べながら、まずは曹操が四織を連れ出した理由についての質問をしていた。
もうすでに終わったことではあるが、目的を知っておくのは悪いことではないと四織から質問を始めた。

「さて、次はこちらからの質問だ。君の力は神器(セイクリッド・ギア)によるものか?」

「違う。あの人たちもそう考えていたけれど、私の体にも魂にも、そんなものはない」

神器(セイクリッド・ギア)。「聖書の神」が作った不思議な能力を所持者へ与えるシステム。先天的に人間、もしくは人間の血を引く者に宿る。歴史上の偉人の多くが神器所有者とされている。
だが、『今の』四織の力はそれに該当しない。全く異質な「異能」なのだ。

「君自身は、自分の力がどういうものか把握はしているのか?」

「…感覚としてはわかる。口で説明しろと言われると困る」

実際、四織自身は自分の力に特に興味もない。ただ、生き残るために必要だからつかってきただけだ。

「君の力は何ができるんだ?」

「異能や悪魔の力を無にする。纏って攻撃すれば悪魔の肉体を滅ぼすこともできる」

魔法使いの使う魔法であろうとも、神器所有者の神器の力であろうと、悪魔の魔力であろうと。
その全ての輝きを奪い、無へと還す。それが四織の持つ力―――“万霊殺し”である。

「…魔力も悪魔の肉体も諸共に滅ぼすことができるということは、魔力などの“力”というよりはむしろ“悪魔”の力の無力化か……?肉体も滅ぼすことができるというのは異質だが…」

ブツブツと呟きながら興味深そうな視線を向ける曹操。

「…やはり、君の力は面白い。俺としてはぜひ解明したいものだが…一緒に来る気はないかい?」

「? そういう目的で連れ出したんでしょ?いまさら聞く意味が分からないけど…」

四織としては曹操の手を取った時点でついていくのは「決定事項」だ。
いまさらどうこう言う気はないし、ここで放り出されると逆に困る。それに、自分をあの地獄のような環境から連れ出してくれた曹操に恩返しをしたい気持ちもある。

「…そうか。ああ、そうだ」

「?」

「君の家はかなりいろいろなところに繋がりを持っていたのだろう?ならば、いつ関係のある者に出会うかわからない……その時に、君が『鈴科』だと名乗るとまずいことになるんじゃないかと思ってね」

「……まずないとは思うけど、可能性は0じゃないかも」

基本的に家の中に軟禁されていた四織のことを外部の人間が知っていることはないだろうが…鈴科家は様々なところにパイプを持っていたため、ひょんなところで噂を聞いている人はいるかもしれない。

「だから、君の名字を変えるのはどうだろう?君の名前の響き自体はよくあるものだし」

「別にいいよ……こだわりはないから、そっちで決めてほしい」

曹操の提案に素直に頷く。自分の事情で迷惑をかけるのは、さすがに申し訳ない。

「…季風(ときかぜ)、などどうだろうか?名前との響きがあっていていいと思うが…」

四織の微かな困惑にかまわず、しばし思案していた曹操が一つの案を出す。

「季風…ときかぜ…………うん、いいよ」

何度も噛みしめるように呟く。新しい自分の名前を。彼が自分にくれた名前を。

「…じゃあ、今日から私は…季風四織………だね」

「ああ、そうだな。とりあえず、これを食べ終わったらこの町から出るとしよう」

「うん」

その後、町から出ていく人の群れの中に少年と少女の姿があった。



「……そういえば、君の年はいくつだ?」

「? 13だけど?」

「……………もっと年下かと思っていた」
 
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