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真田十勇士

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巻ノ百十四 島津忠恒その十二

「そうする、しかしこのこともな」
「若しもです」
 春日局は自ら家康に言った。
「茶々様が」
「わしの正室であればな」
「苦労しませんでした」
「全くじゃ、わしは側室は多いが」 
 この辺りは秀吉と似ている。
「しかしな」
「肝心のご正室は」
「長くおらぬ、だから丁度いいと思ったが」
「茶々殿が断られ」
 これは今もだ、しかもこのことにも頑なだ。
「それで」
「流れてな」
「そうですね」
「全く、わしとしては悪意はない」
 このことについてもというのだ。
「豊臣家にとってもよい話であるのに」
「それがですな」
「流れておるわ」
「残念なことに」
「全く以てな」
「だからですね」
「このことも上手く話せておらぬ」
 困ったことにというのだ。
「わしなら茶々殿も止められるが」
「はい、幕府でしたら」
「わし以外にも止められる者がおるな」
「僭越ながら妾も」
 春日局は強い声で家康に言った。
「出来まする」
「うむ、お主ならな」
 家康もそうだと返す。
「出来るな」
「必ず」
「そうじゃ、だから幕府ならな」
「出来ますが」
「今の大坂にはおらぬからな」
「切支丹のことも」
「どうしたものか」
 家康は難しい顔で述べた。
「困ったものじゃ」
「若し切支丹を許されますと」
 大坂、つまり茶々がだ。
「その時は」
「再び乱れる」
 天下がというのだ。
「下手をすればな」
「戦になる」
「そうじゃ」
 まさにというのだ。
「だから何としてもな」
「それは止めて頂き」
「そしてじゃ」
「大坂を出て頂き」
「後は静かにしてもらう」
 こう言うのだった。
「多くの者に言っているがな」
「そしてその為には」
「切支丹はな」
「認めてもらっては困る」
「これは天下の大事じゃ」
 それになるというのだ。
「公のな」
「天下万民を守る為のことなので」
「わしも看過出来ぬ」
「そうなるので」
「何かと手を打っておくか」
「茶々殿も流石に」
 ここで春日局は知恵を出した、そしてその知恵を家康に述べた。
「妹殿達のお言葉は聞かれますので」
「それじゃな」
「奥方様と」
 お江、彼女とというのだ。
「そしてです」
「姉妹のもう一人の」
「常高院様にです」
 三姉妹の次女だ、茶々の上の妹であり秀忠の妻であるお江の二番目の姉である。幼い頃から仲のよい姉妹である。
「出て頂きますか」
「それがよいか」
「大坂ではどうも」
「茶々殿を止められぬからな」
「そうとしか思えないので」
 だからだというのだ。
「ここはです」
「それがよいか、しかし姉妹の絆が頼みか」
「そうかと。先程大御所様が言われましたが」
「血じゃな」
「それの絆こそがこの度は」
「最後の頼みか」
「そうなるかと」
 こう家康に言うのだった。
「ですから」
「わかった、ではその様にしておこう」
「いざという時は」
「戦にならずにことが穏便に済む様にな」
 こう言ってだ、家康は春日局の言葉を受けた。そのうえで小笠原家だけでなく大坂のことについても手を打っていくのだった。


巻ノ百十四   完


                2017・7・9 
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