孔雀王D×D
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4・別世界にて
一人の若き僧侶が、寺の庭を掃いている。時は、すでに新緑の季節となり、若き僧侶は眠たそうに大きな欠伸を一つした。
「こら!!孔雀!!さぼってるんじゃない!!」
孔雀と呼ばれた若き僧侶は、その言葉に一瞬びっくりとしたが、素早く後ろを振り返った。
「何しに来たんだよ、阿修羅。さぼってなんかいないぞ」
孔雀の後ろに立っていたのは、セーラー服を着た女子高生だった。
「なによぉー。孔雀がいつもさぼってから注意してあげたんじゃない。また、おじいちゃんに怒られてもしらないんだから」
阿修羅と呼ばれた少女は右の頬を膨らまして、ふて腐れたように孔雀に後ろを向いた。
「わ、悪かったよ」
孔雀はぼさぼさの頭を掻きながら、阿修羅に近づいていった。
「で、どうしたんだ?今日は」
実は、阿修羅は名門校に入学してから寮生活を送っていたのだった。前は、孔雀が今現在住んでいる寺社に保護観察として、住職の慈空が預かってはいたのだが、慈空は彼女に学問を学ばせ友達を作らせたいと願い、今現在に至っている。
阿修羅は始めこそ嫌がってはいたものの、今は楽しくやっているようだった。
「ちょうど、お寺の近くまで来たから寄ってみたんだ。どう、孔雀、修行の方は?
うまく行ってる?」
阿修羅は孔雀の顔を覗き込むように見つめた。
「あ、あぁ、ぼちぼちかな?ははは」
孔雀は阿修羅から顔をそらし苦笑した。
「ふぅー」
阿修羅は孔雀の言葉を疑うかのように目を細めた。
「まぁいいわ。孔雀、頑張っているみたいだし、私が今日はおごってあげる」
阿修羅はにっこりと微笑んだ。
「本当か?じゃあさ、パチ行こうぜ、パチ。いい台みつけたんだよ」
孔雀はパチンコのハンドルを握るようなそぶりをして笑った。
「あんたね」
阿修羅は呆れてため息をついた。
「毎回、勝てば分け前はあげてるだろう?少しだけだから、なぁ、なぁ」
孔雀は阿修羅に拝むように両手を合わせ、何度もお辞儀を繰り返した。
「わかったわよ。でも、負けたらおじいちゃんに報告だからね。っていうか、私、制服じゃん」
「大丈夫、大丈夫、お前の服、まだ寺にあるから。ちゃきちゃき着替えていこうぜ」
孔雀は久しぶりの遊びに浮かれていた。
「えぇーー、私、前の服やだよぉ。子供っぽいし、あんなんじゃすぐに追い出されちゃうよ」
阿修羅は頬を膨らませた。
「何言ってんだ。お前、まだ子供だろう?胸なんか他の子に比べたら全然ないしさ。それに」
孔雀が言い終わる前に阿修羅の拳が頬を捉え吹っ飛んだ。
「な、なにするんだよ。本当のことだろう?」
孔雀は頬をなでながら阿修羅に詰め寄った。
「あんたねぇー、もう一発食らいたいの?」
阿修羅は拳に息をかけ、身構えた。
「やぁいやぁい、ぺちゃぱい阿修羅!!」
孔雀は阿修羅をからかうようにベロベロバをして逃げ出した。
「もう、許さないんだから!!待てぇー、孔雀!!」
二人は鬼ごっこを始めた。そして、お互い笑いあった。その時、車の止まる音が聞こえた。
「おぃおぃ、相変わらず仲のいいことだな」
車から降りてきた全身黒ずくめの大男がにやりと笑って言った。
「あっ、鬼丸。おひさぁー」
阿修羅はその大男に向かってにっこりと微笑んで手を振った。
「お、おう。ちょっと見ないうちに垢抜けたじゃないか、阿修羅」
鬼丸と呼ばれた大男は頬を軽く掻いた。
「そうかなぁ」
阿修羅は体をくねらせながら言った。
「おい、おい、天下の鬼丸さんは眼がおかしくなったんじゃないか」
孔雀は鬼丸の表情をみて、横腹を軽く肘でついた。
「馬鹿野郎。だから、お前は女の扱いがなってないんだよ」
「そうだ、そうだ。孔雀は馬鹿なんだよ」
鬼丸の言葉に呼応するように阿修羅は孔雀にかみついた。
「へいへい、俺は女の扱いは下手ですよ。でも、阿修羅が垢抜けたなんて微塵にも思ってないからな」
孔雀は阿修羅に向かって下をだした。
「あんたねぇー、また阿修羅ちゃんパンチをくらいたいの?」
阿修羅は拳を振り上げた。
「おぉー、怖い怖い」
孔雀は笑いながら体を抱え震えるような素振りをした。
「いい加減にせんか、二人とも」
鬼丸が運転してきた車から小柄な老人が降りてきて二人のじゃれあいを止めた。
「あっ、おじいちゃん、お帰りなさい」
阿修羅はその老人に手を振った。
「おかえりなさいませ、お師匠様」
孔雀は胸の前で合掌しながら一礼した。
「阿修羅、学校はどうだ?」
老人は眼を細めて阿修羅をみた。
「楽しいよ。今日は丁度、そばまで来たから、ここに寄ってみたんだ」
阿修羅はにっこり微笑んで老人に言った。
「そうか、それはよかったな。ところで、孔雀、ちゃんと修行しておったか?」
老人は鋭い目つきに変わり、孔雀に言った。
「も、もちろんですとも。ですが、修行の最中に邪魔が入りまして」
孔雀は老人の視線から目を離し、苦笑いを浮かべた。
「な、なんですってぇーーーー!!おじいちゃん、孔雀ったらね、修行をさぼって私のお金でパチンコ行こうとしてたんだよ!!」
「あ、こ、こら、阿修羅」
阿修羅の思わぬ告げ口に孔雀はあわてふためいた。そんな孔雀を尻目に阿修羅は腕を組んで孔雀から目をそむけた。
「まったく・・・・」
老人は深くため息をついた。
「阿修羅や、そのことについては後でしっかり孔雀にお灸を添えてやる。が、孔雀よ、少し話がある。本堂へ来い。それと、鬼丸、お前もな」
老人はそういうとゆっくり歩きだした。
「ちょ、ちょっとまて。俺はこいつらの喧嘩には関係ないぞ」
鬼丸は強い口調で老人にいった。
「わかっておるよ。お前に頼みたいことがあるでな。それで、お前を呼んだんじゃ。ただ単にタクシー代わりによんだのではない」
老人はにこりと微笑んで再び歩き出した。
孔雀と鬼丸は見つめあった後に老人の後を追った。
「おじいちゃん、私もいっていい?」
「まぁいいが、話を聞くだけじゃぞ」
老人は阿修羅を見つめて答えた。そして、阿修羅も老人と孔雀そして鬼丸の後を追うように歩き出した。
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