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真田十勇士

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巻ノ百七 授かった術その九

「周りの女御衆にも言わせぬ」
「それこそ何も」
「そう出来る」
 まさにというのだ。
「それもな」
「左様ですか」
「その時はな」
「では」
「うむ、大坂に入ればじゃ」
 その時はというのだ。
「わしはお拾様の傍らで縦横に采配を振るう」
「政も戦も」
「両方な、茶々様にも言わせずにな」
「しかしそれがしならば」
「おそらく出来ぬ」
 幸村はというのだ。
「先程話した通りにな」
「名が知られていないので」
「茶々様や女御衆にな」
「ですか」
「そういうことじゃ、それと前から思っておったが」
 ここで昌幸はこうも言った。
「茶々様はお母上によく似ていると言われる」
「あのお市の方ですか」
「元右府殿の妹君のな」 
 信長の妹のお市の方だ、既に北ノ庄で夫となっていた柴田勝家と共に自害して果てている。
「お顔立ちや背丈が似ているというが」
「お市の方は非常にもの静かだったとか」
「兄君と違いな」
 信長の激しやすい性格はつとに知られている、その彼とは兄妹でもというのだ。
「そうした方だったというが」
「そして政もですな」
「何も言われぬがわかっておられたという」
「だから金ヶ崎でも小豆を贈られた」
「両方を縛った袋に入れたな」
 信長にそうしたことも話した。
「危機を知らせる為に」
「わかっておられたからこそこそ」
「そうじゃ、しかしな」
「それがですな」
「茶々様は非常に激しやすい」
 むしろ信長以上にだ、その気性の激しさは天下に知られている。
「しかも何もわかっておられず」
「お市の方とは違い」
「中身は全く似ておられぬな」
「そう思われますか」
「どうもな」
 こう言うのだった。
「むしろ初様、江様の方がな」
「お市の方に似ておられますか」
「姉妹の仲は睦ましいという」
 三姉妹のそれはというのだ。
「おそらくお二方は気が気でないであろう」
「茶々様のことが」
「これからどうなるかな」
「左様ですか」
 ここまで聞いてだ、幸村は一旦目を閉じてそのうえでえ言った。
「茶々様はそうしたこともですな」
「官位や妹君の方々のお気持ちもな」
「お気付きではないですか」
「その様じゃ」
「まるで盲目ですな」
「何しろずっと大阪城の本丸から一歩も出られぬ」
 そこにいてというにだ。
「それならばな」
「何もご存知ないのも道理ですか」
「そしてそれはお拾様も同じ」
「これまで大坂城を出られたことがないとか」
「それではご見識が危うくなる」
「書の学問だけではないですからな」
「だから元服したばかりのお主に天下を巡らせたのじゃ」 
 昌幸は幸村が十勇士達と巡り合ったその旅のことを話した。
「わしもな」
「左様ですな」
「旅を巡ってあらゆることを観て回るのもな」
「学問ですな」
「そうじゃ」
 その通りだというのだ。
「だからじゃ」
「旅、天下を観て回ることも学問であり」
「すべきなのじゃ」
「その通りですな」
「だからお主や十勇士達とは違ってな」
「外のことをご存知ない」
「それでは学問が出来ておってもじゃ」
 それでもというのだ。 
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