ハルケギニアの電気工事
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第10話:領内改革!(その1)
前書き
さて、張り切って改革に取り掛かりましょう。
と言っても準備段階なのであまり進展はありませんが・・・。
おはようございます。アルバートです。
前話でお話しましたように、7歳になりいよいよ領内の内政に係わる事になりました。
まず、考えた改革案を羊皮紙に書き出して、父上の書斎に持って行きました。書斎のドアをノックします。コンコンコンと(ノックは2回だとトイレになってしまうんですよね。一度やってメイド長さんに怒られました。)3回ノックして扉越しに呼びかけます。
「父上、アルバートです。」
「アルバートか。入りなさい。」
お許しが出ましたから中に入ります。
父上の執務室は僕の部屋より少し小さめですが、中央の窓よりに大きな机があり、その前にはソファーとテーブルがセットされています。周りの壁には書棚が設けられて仕事関係の本や書類が並んでいます。その内こちらの書棚も見せて貰わないとなりませんね。きっと皇城の書庫にある書物よりも鉄鋼業関係や発明品関係について詳しい資料が見つかるはずです。
執務室らしく壁や天井は落ち着いた色で、窓のカーテンもグリーン系のしっとりとした感じです。どうやら母上の侵略から逃れているようですね。奇跡です。
母上の手で整えられた居間や食堂などはパステルカラーに花模様で、いつでも春真っ盛りです。自分の部屋を貰ってから入った事がないのですが、寝室などどうなっているか解りません。
(閑話休題)
「父上、昨日から領内を一通り廻って視察して来ました。これから行っていきたい事を幾つか書き出しましたから見て頂けますか?」
「ずいぶん早いな。もう出来たのか?見せてみなさい。」
持って来た書類を渡します。少し枚数が多いのに驚いていたようですが、ちゃんと読んでくれていますね。羊皮紙6枚にびっしりと書きましたが、羊皮紙はペンが引っかかって書き難いので、早く紙の製造も考えた方が良いですね。きれいな紙を量産できれば、それだけでも特産品となりそうです。
「ふむ、早い割には良く領内を見てきたようだな。提案についても案件毎に提案理由と効果が纏められて良くできている。これをおまえ一人でやったのか?」
「はい、少し時間が掛かりましたが、第1段階としてはこれ位だと思います。それで、提案についてどう思いますか?」
そう言うと、父上は頭を抱えてしまいました。どうしたのでしょうね?大きく一つため息をつくと、
「今更言っても始まらないが、おまえの頭はどうなっているのだ?私の部下でもこのような事を考えつく者は居ないぞ。それなのにこれで第1段階?つまりまだ後があるという事だろう?これだけの事を7歳の子供が出来るのなら、考えつきもしない部下の評価を見直さなければならないではないか。」
それは、中世ヨーロッパ並みの知識を基にした考えと、21世紀の知識を基にした考えでは大きな違いが出て当然でしょう。そもそも貴族至上主義の世界では、僕の考えた改革案など出てくる訳がありません。発想の基礎が違うのですからそれで評価されては部下の方達も迷惑です。大体、僕の最終目標はハルケギニア全体の電化ですよ。そんな事を考えられる人が居るとしたら、同じ転生者位のものでしょう。
「父上の部下の方達の評価につきましては、私の案とは別にお願いします。」
「解っている。言ってみただけだ。おまえが規格外なのは今更だからな。」
えらい言われようですね。自覚はしていますが親からはっきりと言われると流石にへこみます。此処は気を取り直して、
「それで、どうでしょうか?」
「おまえが考えた事は理解した。それで、この案を一度に行うつもりか?」
「いいえ、一度に行うには少し無理があると思いますので、順番に始めていきます。まず、町や村の衛生改革から取り掛かって、その進行状況を見て次の案件に掛かるようにします。それに各案件毎に専門の部署を作りますが、まず衛生関係の部署を立ち上げて、土メイジと水メイジを最低一人ずつ入れて、ほかに領民から10人ほど雇い入れるつもりです。」
「結構金が掛かりそうだな。収支が黒字になるのにどれくらい掛かるか、」
「そうですね、大体5年見てください。農作物の増収は2年目位から効果が出ると思いますが、安定するのにはそれ位掛かると思います。」
「解った。ではこの件はおまえに任せるとしよう。おまえの思うようにやってみなさい。途中の報告は逐次入れるように。」
「ありがとうございます。精一杯頑張ります。早速ですが、父上の部下から土メイジと水メイジを一人ずつ貸してください。出来ればトライアングルクラスのメイジがいてくれると助かります。領民の方は私の方で探しますので。それから専用の部屋が必要になりますから、屋敷の南西の端にある離れを頂けますか?」
「解った。人選しておまえの所に行かせよう。離れについては特に使っていなかったはずだから自由にして良いぞ。」
父上からの許可が出ました。これで領内改革のスタートが切れます。
まず、実施部署の立ち上げです。名称は『保健衛生局』にします。屋敷の南西端にある離れは2階建てで、適当な大きさの部屋が5つありましたから、そのうちの一つを『保健衛生局』に使います。
他の部屋は別の部署を立ち上げたときに使って、離れ全体を『改革推進部』とすれば横のつながりも強化できますから丁度良いと思います。
さっそく扉にハルケギニア語で『保健衛生局』と書いたプレートを付けました。
次にメイドさん達にお願いして全部の部屋の大掃除です。時々は掃除をしているようなので大した時間は掛からないでしょう。
掃除が終わったら、机や椅子、その他事務所として必要な什器類を執事の方達に手伝って貰って運び込んで、配置も決めて準備完了です。こういった時は魔法が使える事に感謝です。レビテーションは引っ越し業の救世主ですね。
次は局員の募集です。領民に対しての募集要項は次のように決めました。
1.仕事内容:公衆トイレの設置、屎尿のくみ取り、収集・発酵管理、農家への肥料の配布(汚れ作業を嫌がらない人)
2.募集人数:10名
3.性別:区別なし
4.年齢:12歳~40歳までの心身共に健康な人、独身・家族持ちでも可
5.雇用条件
(1)給料は日給月給制(日給50スー)・月24日就業で1200スー(12エキュー)・定期昇給あり
(2)制服、作業服、靴、作業用具等貸与
(3)休日は虚無の日+ダエグの日
(4)単身寮・家族寮あり:家具付き、無料貸与
(5)食堂あり:朝、昼、夕各5スーにて提供(家族の使用も可)
(6)有給休暇:年12日
(7)共同浴場あり、毎日使用可(家族の使用可)
(8)水メイジ常駐により仕事中の病気・怪我は無料で治療します。(家族も治療可)
6.雇用希望者は1週間以内に村長に申し出ること。村長は1週間後に希望者の氏名、性別、年齢を領主屋敷アルバート・クリス・フォン・ボンバードまで文書にして報告する事。
これ位の条件なら来る人もいるでしょう。これをビラにして領内の村に提示します。村長さんとか字の読める人に読み上げて貰えば、字の読めない人も大丈夫でしょうから、これで募集も何とかなるはずです。
各村に配布するように執事さんに頼んでいる時に、男の人が2人来ました。どうやら、父上の選抜してくれたメイジのようです。
「アルバート様。伯爵様よりあなた様のお仕事を手伝うようにと命じられて参りました、ウイリアム・カスバートと申します。土のトライアングルです。よろしくお願い致します。」
「同じく、キスリング・ハワードと申します。水のトライアングルです。よろしくお願い致します。」
「良く来てくれました。お二人ともトライアングルとは助かります。これから大変な事業を行う事になりますので力を貸して下さい。よろしくお願いします。」
二人とも24~26歳位でしょうか。父上の選んでくれた人ですから上手くやっていけるでしょう。
「この部屋が今度立ち上げる事になった『改革推進部』の一つになる『保健衛生局』の執務室です。どんな仕事を行っていくかについて説明しますので前の方の席に座って下さい。」
おそらく『改革推進部』も『保健衛生局』も聞いた事もない名前でしょう。今まで無かった概念でしょうからね。言葉の意味から説明しました。
この二人は『保健衛生局』の幹部になって貰う予定ですから、改革の細かい内容まで把握して貰わなければなりません。
それから2時間にわたって改革内容の説明を行い、二人の質問にも答えて互いの理解を深めました。
その後、昼食を挟んで午後からは領内の衛生推進の要となる公衆トイレについて、僕の作った設計図から材質、製作方法、製作数など話し合いました。
この二人の担当ですが、ウイリアムさんには公衆トイレの製作、設置関係と補修全般、キスリングさんには各村の衛生改善、消毒及びその維持関係です。
まず、ウイリアムさんと公衆トイレの図面を見ながら制作方法を検討していきます。僕も土メイジですから練金でトイレを作る事がイメージできますので相互理解がしやすいのが助かります。
「この図面で行きますと、床の1辺が各1メールの正方形で、高さが2メールになりますね。床の中央に穴を空けて、ここに内側が空洞になった椅子のような物を設置して、これに座って用を足すというわけですか。」
「そうです。椅子状の物が便器と言います。これに図面にあるように開閉式の便座というものを取付け、この便座に座るようになります。便器の強度は陶器程度にしますが、便座の強度は木製程度で結構です。トイレの壁と屋根は木製で大丈夫ですが、床は重い人が乗っても壊れない位の強度をとって下さい。」
「直接周りに有る木から板を練金しても良いですね。便器などは土から練金できますから大丈夫でしょう。」
「はい。それから壁には上部と下部に鎧戸式の窓を着けます。これは外から中を覗けないような形で、風通しが良くなるように考えて下さい。暑い時に密閉状態ではトイレの度に汗だくになってしまいますからね。寒い時は閉める事が出来るようにしておけばある程度我満できるでしょう。」
こんな感じで、図面上の問題も特になかったので、このまま決定図とすることになりました。実際の制作は設置場所の近くまでいってから行います。わざわざ遠くで作って運搬するより、設置場所で作った方が楽ですからね。何しろ材料はいくらでも周りにあるのですから。
設置手順としては、肥だめの穴を掘って、穴の表面を練金で陶器状に加工し、屎尿が土壌にしみ込まないようにします。その上にトイレを設置しますが、細かい位置合わせや、倒れたりしないように地面に固定するのは雇用した局員の内の4名でやって貰います。この調子で大体一箇所に3~4基を設置します。村内に3ヶ所位トイレ場を設けてあげれば、村全体で9~12基のトイレが有る事になります。
「肥だめの大きさはトイレの床の大きさから直径1メール以下ですか?」
「そうですね。一応80サントの円形で作りましょう。深さは1メールで良いでしょう。トイレの後方になる部分を外に向かって穴を広げておき、この部分にはトイレの外から蓋をします。この蓋を開放して屎尿をくみ出すようにするんです。」
次に、屎尿の運搬方法を確認します。高さ1メールの瓶を作り、しっかり密閉できる蓋を取り付けます。次に荷車を2台用意して、各荷車に4個の瓶を載せ固定します。その荷車で村を回って屎尿を回収し、村の近くに別に作っておく集積場所まで運びます。荷車は車軸にバネを装備した新型を作ります。まだゴムの練金が出来ないのでタイヤは後回しにしますが、バネを装備するだけでも大分振動が違うと思います。
瓶は土から練金で作りますが、陶器状にして割れないように厳重に固定化を掛けます。運搬中に割れるようなことがあったら悲惨なことになりますからね。この瓶の口は出来るだけ滑らかに整形し、その口に合わせて蓋を作ります。その上で蓋を瓶に固定できるように金具を取り付け、密閉して中身が零れたり臭いが漏れることの無いようにします。
瓶は荷車に載せて動かないようにベルトなどで固定します。荷車の周りには折りたたみ式の踏み板を取り付け、屎尿の出し入れの時の足場にします。この踏み台に上がって、長い柄の柄杓を使って屎尿を肥だめからくみ取り、瓶の中に入れていきます。この荷車は馬か牛にひかせ移動するようにしました。
この荷車を使っての屎尿回収、運搬を雇用した局員の内の4名でやって貰います。
「瓶だけでも重そうですが、中身が入ればもっと重くなります。運搬作業に速さは必要ないのですから運搬力重視で考えて、1台に牛を2頭使いましょう。」
「道路の舗装が出来ていないので引っ張るのも大変でしょうから、その方が良いのでしょうね。それでは牛の2頭引きの荷車を2台作って、1台に局員2名で2班作りましょう。この分ではすぐに増員が必要になりますね。」
これだけの準備が出来て、公衆トイレの設置も済んだら、父上に公衆トイレ以外の場所での用足しを禁止するお触れを出して貰います。このお触れに違反した場合は罰則も設けて貰い、厳しく対処することでトイレを使用することを習慣付けるようにします。
次にキスリングさんとの打ち合わせですが、公衆トイレの設置が済み、父上からのお触れが出された後に、残った局員2名を使って村内の道路上に散乱している汚物の回収、及び、秘薬による消毒を行って貰います。最初の頃は消臭も同時に行って、村内の不快な臭気の除去も行って貰い、嫌な臭いのしない綺麗な村を作り出します。
一度、村内を綺麗にしてしまえば、わざわざ汚くしようとする人は居ないと思いますし、そのような人がいれば周りの人が黙っていないでしょう。その後の清掃は村民だけでもできるでしょうから、消毒作業を定期的に行って清潔な状態に保てれば、疫病などの発生も抑えられ、領民の発病率も低くなるでしょう。
「汚物の回収に結構手間が掛かりそうですね。」
「そうですね。地道な作業になると思います。汚物は回収次第、村の外に集めて焼却処分にして下さい。こちらはドットクラスで良いので父上に火メイジを一人回して貰うようにお願いしておきます。」
次の問題は、作業を行う局員の装備です。くみ取り要員と汚物回収要員は、はっきり言って臭い、汚い、きついの3K作業となるので装備はしっかりとしたものを使わせたいと思います。作業服は汚れたらすぐに洗濯できるように3着くらい支給し、長靴、手袋、前掛け等も必要ですから支給となります。それに防毒マスクも作らなければなりません。長靴等の装備品は、内側は布製で問題ないと思いますが、外側のコーティングは絶対必要なのでゴムの練金も早急に実現しなければなりません。防毒マスクは吸収缶に活性炭を入れたいのでどこかで椰子が手に入るか調べないといけませんね。多分南の方を探せば見つかるのではないかと思います。椰子の殻を炭に加工して活性炭を作れば有効な消臭剤になりますからね。
実際に作業に入る前に準備するものが多くて、かなり手間取りそうですが、これらが無いと仕事になりませんから頑張って材料を探し出して、作りましょう。
それから、局員が集まらないことには作業が出来ませんので、募集の状況も見ながら開発も進めていくことになりますね。
最後にどの村から作業を開始するかを二人と検討して、領内の地図の印を付けて確認し、初日は此処までで解散としました。
お疲れ様でした。
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