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ハルケギニアの電気工事

作者:東風
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第11話:材料探しはリゾート探し!?(その1)

 
前書き
必要な資材を探してはるか南の海へ・・・!
空の旅は良いものですね。ヴァルファーレの独壇場です。
*今後の話の展開上必要な伏線がありましたので一部修正を行いました。2018.11.25 

 
 おはようございます。アルバートです。

 メイジ二人との打ち合わせから一夜明けて、今日も良い天気です。
 目が覚めてから、昨日の内に各村に送ってもらった局員募集のビラに効果があることを期待しつつ、今日の段取りを考えています。

 まず、一番はじめにやらなければならない事は、手に入りにくい資材の調査でしょう。ゴムと椰子の殻ですね。
 どちらの木も、地球であれば熱帯から亜熱帯あたりに生えているので、こちらの世界でも南の方の調査を行う事で見つけられるのではないかと期待しています。
 こちらは機動力のある『ヴァルファーレ』を使って、僕が見に行きましょう。空から行った方が危険も少ないし、捜索範囲も移動速度からかなり広く取れると思います。

 そして、僕が資材の調査に行っている間に、ウイリアムさんにはトイレの試作品を作って貰います。屋敷の人たちに実際に使用して貰い、不具合がないかの確認をしておくようにお願いします。
 キスリングさんには消毒と消臭の秘薬を作って貰い、効果の確認をして貰います。どの位の広さにどれくらい散布すれば良いか、基準を作っておいた方が良いと思いますから。

 募集期間の1週間でそれぞれの目処を付けたいと考えているので、積極的に掛かっていきましょう。

 そこまで考えを纏めてから日課のランニングをして、身体の手入れをしている内にアニーが来ましたので身支度を調えて朝食に行きます。
 朝食の後で、父上に昨日やった内容を報告し、火メイジの応援をお願いしてから『保健衛生局』へ向かいました。

「おはようございます。」

 もう、ウイリアムさんもキスリングさんも来ていました。二人と挨拶して、すぐに起きがけに考えた事を話します。

「昨日の話の中で出た懸案事項についてですが、まず、手に入りにくそうな資材の調査を行いたいと思います。こちらは、おそらく南の暑い地方に生えているものと考えられますので、僕が『ヴァルファーレ』に乗って、空から調査を行います。一応、募集期間の1週間を期限として考えていますので、その間、お二人には別の仕事をお願いします。」

 するとウイリアムさんが片手を上げて僕の話を止めました。

「ちょっと良いですか?アルバート様が『ヴァルファーレ』で調査に出るという事ですが、それは他の人ではいけませんか?万が一という事もあります。途中で事故など有りましたらとんでもない事になりますから、危険を冒すような事は控えて頂きたいのですが。」

 キスリングさんも同様の意見のようです。でも他の人が行くのはちょっと無理があると思います。

「お二人が心配してくれるのはありがたいのですが、この調査は僕しかできないと思います。探さなければならないゴムの木も椰子の木も、おそらくゲルマニアの人は見た事がないはずです。見た事のないものを探すのは不可能とは言いませんが、極めて難しいと思いますよ。それに、限られた時間内に見つけるためには『ヴァルファーレ』より安全で早い生物は、このハルケギニアには居ないでしょう。スピードと一日の飛行可能時間から見ても『ヴァルファーレ』以上に捜索範囲を持つ幻獣や使い魔が居ない限り、一番効率が良いのが僕と『ヴァルファーレ』のコンビだと思います。」

 完全に推測で話しをしていますが、おそらく一番早い幻獣が風竜だと考えられるので、間違った事を言っているつもりはありません。

「もちろん、父上や母上の許可を受けて出かける事にしますので、そのくらいで認めて頂けませんか?」

 どうやら、ウイリアムさんもキスリングさんも、効果的な代案を考えつかないようです。しばらく考え込んだ後、ようやくうなずいてくれました。

「有り難うございます。それでは、調査中にお二人にやって置いて欲しい事なのですが、まずウイリアムさん。1個で良いので公衆トイレの試作品を作って下さい。場所はこの建物の西側で、適当に建物との距離を離して設置して下さい。出来上がったら屋敷のメイドさんや執事さん達に実際に使って貰い、使い勝手を聞き取って欲しいのです。その意見を、より使いやすいトイレを作るための資料とします。」

「判りました。外観とか細かいところは私の主観で作っても良いですか?」

「ええ、構いません。見た目の形や色など、ウイリアムさんの感覚で作って貰って良いですよ。次にキスリングさんの方ですが、公衆トイレの試作品が出来て、ある程度屎尿がたまったら、その臭いを消すための消臭剤を作って下さい。それと同時に消毒薬も作って効果の確認をして下さい。それから作った消臭剤と消毒薬の効果から考えて、どの位の広さにどの位の薬を使えば良いかの基準を作って下さい。」

「今ある消臭剤や消毒薬を基にして作る事になると思いますので、そんなに難しい事もないでしょう。」

「そうですね。ただ、より強力なものにして下さい。量もそれなりに必要になると思いますから、大量に作る方法も必要になりますし、材料を仕入れる用意も必要になります。そこら辺も充分考えて、『保健衛生局』の局員が集まり次第、仕事が始められるような段取りをお願いします。」

「薬を使う基準は実際に薬が出来てから確認する事になりますね。薬を使い感覚なども確かめておきます。」

「それでお願いします。それでは、此処までの事を父上に報告がてら、調査の許可を貰ってきますね。後の事はよろしくお願いします。」

 二人に後の事を任せて、僕は父上の部屋に行きました。ノックをして声を掛けます。

「父上、アルバートです。」

「アルバートか。入って良いぞ。」

 中に入って机の前に立ちます。

「父上、今の状況の報告と、お願いに来ました。」

「そうか、では、まず報告から聞こうか。」

 先ほど二人と話した事を父上に報告します。一通り報告すると父上が溜息をつきました。

「アルバート。あの二人が言っている事に間違いはない。おまえがそんな危険な調査に行く事はないだろう。かといって、おまえの言う事ももっともだ。しかし、何だってこんな面倒な話になるんだ?一応聞くが、その資材はどうしても必要なものなんだな?」

「はい。この作業の性格上、これが無いと局員の負担が大きくなりすぎますから、絶対に必要なものです。」

「判った。必要ならば仕方ない。調査に行く事を許すが、充分注意するんだぞ。絶対に無理はするな。それから、調査期間はどれくらいになるんだ?」

「有り難うございます。出来るだけ安全に配慮する事をお約束致します。絶対に無理はしません。調査期間は往復で5日を考えています。『ヴァルファーレ』のスピードで調査しますから、5日有ればかなりの範囲を調査できると思います。それではさっそく準備して出発します。許してくれて有り難うございました。」

 何とか許可を貰えました。これで調査に出かけられます。すぐに準備に掛からなければなりません。
 その後、厨房に廻って食料を貰ったり、メイドさんにお願いして野宿用の毛布や敷布などを貰いました。それらを出来るだけ小さく纏めて鞄に詰め込みます。そういった準備が終わってから母上とメアリーに話しに行きました。
 ちょうど、母上がメアリーで(?)遊んでいるところでしたので、二人にこれから少し出かける事を話しました。

「母上、メアリー、私はこれから必要な資材を探すために調査に出かけます。5日ほど帰りませんので心配しないで下さい。」

「調査って、どこまで行くのかしら?5日も帰らないという事はかなり遠くまで行くようね?」

「はい。南の方、多分ロマリアを越えて海の方にまで行く事になると思います。『ヴァルファーレ』で空を飛んでガリアとの国境に沿って南下し、ロマリアあたりで海に出て海岸線の調査をします。そこに目的のものがなければさらに南に行こうと思っています。」

「ロマリアの向こう?凄く遠くね。南の海なんて私も見た事がないわ。危険はないの?」

「『ヴァルファーレ』で空の高いところを飛んでいきますから、ほとんど危険はないと思います。天候には注意が必要でしょうが、無理はしませんから心配いりませんよ。」

「兄様、今度は海まで行くのですか?私も見てみたいです。いつか連れて行って下さいね。」

「判ったよ、メアリー。今度見せてあげるね。それでは母上、行ってきます。」

「本当に気をつけるのよ。無事に帰ってきなさいね。」

 そう言って見送られて屋敷を出ました。一度『保健衛生局』によります。ウイリアムさんとキスリングさんに父上から許可を貰ったので、これから調査に出発する事を話し、後の事をお願いしました。
 そのまま、訓練場に移動して『ヴァルファーレ』を呼びます。

「『ヴァルファーレ』おいで!」

 空の裂け目から飛び出してきた『ヴァルファーレ』に、説明します。

「これから、南の海の方に資材調査に出かけなければなりません。調査期間は5日を考えています。少し長い旅になりますがよろしくお願いしますね。」

[そちらの方には行った事がなかったの。初めて見る地は楽しみじゃ。]

 すぐに座席を載せて固定します。荷物を座席の後側に括り付けて、自分も座席に座りベルトで身体を固定しました。これで準備完了です。

「それじゃ、出発しましょう。」




 『ヴァルファーレ』に合図すると、一気に上昇していきます。

「『ヴァルファーレ』、今回は隣のガリアとの国境添いに南下していきますから、変なちょっかいを掛けられないように、いつもより高いところを飛んでいきましょう。5000メールまで上がって下さい。」

[了解じゃ。]

 『ヴァルファーレ』はそのまま上昇を続け、やがて地上5000メールまで上がりました。少しも息苦しさを感じないという事は周りに障壁を展開し、地上と同じ気圧を維持してくれているようです。いったいどんな方法でそんな事が出来るのでしょうか?

 さすがにこの高度では幻獣も出てこないでしょう。『ヴァルファーレ』が一旦静止状態になったので飛んでいく方向を指示します。

「南南東の方向に飛んで下さい。大体あっちの方向です。海に出るまでは思いっきり飛ばして良いですよ。」

 それを合図に『ヴァルファーレ』が水平飛行に移り、加速します。周りの障壁のおかげで、風の影響も全く受けません。ほとんど加速による「G」も感じないのですが、障壁ってそんなことも可能なんですね。
現在の速度は測った訳ではありませんが、体感でおそらく時速800リーグ以上出ているのでしょう。持ってきた地図を取り出して飛行時間と地上の地形を頼りに現在位置を推測します。

「大体50分位飛んできましたから、今、右下に見えるのがガリアとの国境でしょうね。この辺から南に進路を変えた方が良いかな?『ヴァルファーレ』そろそろ進路を南に変えて下さい。少し右の方です。」

 『ヴァルファーレ』は軽くうなずくと、進路を南に変えました。
 下は茶色と緑色が見えるだけで、この高さからでは集落を判別する事が出来ませんが、小さな村程度ならこの辺にもあるでしょう。時々川らしい青い筋が混じります。

 進路を南に変えてから10分程たったでしょうか。
 ガリアの国境からも南側に少し外れたと思われる頃、下に見える森の中に一部木のない空間があるのが見えました。

「『ヴァルファーレ』この下あたりに人はいますか?」

[いいや。人の気配は感じられんが、どうかしたかえ?]

「はい。今、下に木の見えない空地が見えたので、ちょっと調べてみたいのです。この高度から見えるのですからかなりの大きさだと思うのですが、何かあった時の中継点にも使えるし、『ヴァルファーレ』も降りられそうでいい感じなので、降りてもらえますか?」

[解ったのじゃ。それでは降りるとするかえ。]

 そう言うと、『ヴァルファーレ』はゆっくりと垂直降下を始めました。
 5000メールからの垂直降下ですから、普通の降りて行ったらかなりの怖さだと思いますが、エレベータに乗っているよりも安心できる乗り心地です。
 凡そ5分程度で地面に着くことができたので1秒間に16メール位の降下速度だったようです。

 上空から見えた空地の中央部に着地したみたいですが、着地してから見た感じは直径200メール位ありそうな草原でした。
 なぜ、此処だけ木が生えていないのか解りませんから、詳細な調査が必要ですが、地面には特に湿気もないし、幻獣等の問題がなければ中継点として最適に感じます。
 機会を見つけて拠点作りをしないといけませんね。

「『ヴァルファーレ』、この場所を覚えておいてくださいね。できるだけ早い機会にここに拠点作りに来ることになるでしょうから。」

[安心せよ。しっかり覚えたから問題ないのじゃ。]

「ありがとうございます。それでは先を急ぎましょうか。」

 空地から今度は垂直上昇して、また5000メールまで上がり、進路を真南に変えてから、さらに1時間ほど飛んできました。どうやらガリアの国境からも外れたようです。今度はすこし西向きに進路を変えましょう。

「『ヴァルファーレ』、そろそろ進路を少し西向きに変えてください。そのまま行けば海に出るはずです。」

 『ヴァルファーレ』はゆっくりと西南西の方向に進路を変え、飛び続けます。その内前方に蒼い海が見えてきました。

 もう2時間半近く飛んでいます。この高さから見ると波に太陽の光が反射して、キラキラ輝いて見えます。綺麗な海なのでしょうね。何しろ臨海工場地帯のような大気汚染や水質汚染がないので、海岸はどこに行ってもリゾート地でしょう。資材調査も大事ですが、その内みんなで海水浴にも来たいものです。

「『ヴァルファーレ』、海に出たら少し高度を下げて、周囲に人が居ないか確認して下さい。見られる範囲に人が居なければ一度海岸に降りてみましょう。」

[判った。それでは高度を下げるぞえ。]

 直進しながらゆっくりと高度を下げていきます。段々地上の細かいところが見えるようになってきました。

[今のところは人の気配は感じられないようじゃな。このまま高度を下げ続けるがよいな?]

「いいですよ。『ヴァルファーレ』の感覚に任せます。」

 下に見える海は、どこまでも綺麗なエメラルドグリーンに煌めいて、所々に海鳥らしい白い姿が見えるようになりました。たしかハルケギニアの地形は地球のヨーロッパに似ているという事でしたから、このあたりは地中海になるのでしょうね。気候は温暖で風光明媚なリゾート地としても有名なところでしたから、こちらもきっと似たような所だと考えて良いようです。

[どうやら、この周囲には人は居ないようじゃ。このまま海岸に着陸するぞえ。]

「はい、お願いします。」

 こうして、僕は初めて南の海までやって来ました。降り立った地はまるでハワイかワイキキかといった感じで、綺麗な砂浜に南国の樹木が立ち並んでいます。思わず別荘が欲しいと思ってしまいました。 
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