和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する
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第二部 北斗杯編(奈瀬明日美ENDルート)
第53話 選択する未来
H14年初夏 side-Asumi
北斗杯が終わった後の若獅子戦は1回戦でフクと2回戦で院生1位の小宮と対局した。
3回戦で芦原さんを破った後は準決勝で塔矢君との対局があった。
プロ初対決は私の力が及ばず、若獅子戦は塔矢君が優勝した。
北斗杯、北斗杯の後に行われた和-Ai-との特別対局を経て進藤も塔矢君も随分強くなった。
あの戦いを通じて新たに胸に秘めた想いと決意を二人から感じる。
私も負けてはいられない。
誰かを想って、何かを信じることで、強くなれる。私だってそうだから!
私は三段に、進藤は二段、塔矢君は四段に昇段した。倉田さんも七段から八段に昇段した。
倉田八段は碁聖戦本戦トーナメント決勝では畑中名人に惜しくも敗れたが、気落ちせず他の棋戦を勝ち進んでいる。
碁聖戦五番勝負は緒方碁聖と畑中名人の次世代を担う同世代棋士の対決として注目を浴びている。
複数のタイトル戦を掛け持ちする緒方先生だが本因坊戦七番勝負は桑原本因坊が3勝2敗と厳しい戦いが続く。
私は女流本因坊戦の本戦トーナメント2回戦で以前敗れた香川いろは初段と再び戦うことが決まっている。
6月には春蘭杯世界囲碁選手権戦の1回戦,第2回戦が中国深センで3日間に渡り行われた。
アマチュアの東堂シオン、塔矢行洋と畑中新の新旧名人の参戦、倉田厚vs安太善の因縁対決が日本では注目された。
中国8、日本5+1、韓国6、台湾2、欧米1、アマ1の、24名の中から8強が決まった。
まず日本から中韓の棋士を破って東堂シオンが国際棋戦でも通用すると改めて実力を示し、過密日程の中で参加した緒方精次、その師である塔矢行洋の三人。
中国からはNo1の王星、雲南チームに移籍し今や王星に迫る勢いのあるNo2の華松力の二人。
韓国からは国手の徐彰元、北斗杯MVPの高夏永、そして倉田との北斗杯団長対決を制した安太善の三人。
計8名が、8月に中国山西省にある棋子山周辺のリゾート地で3日間に渡り行われる8強戦および準決勝を戦うことになった。
棋子山は商の時代に箕子が囲棋(石と盤)を用い天文を推算し占ったとされ囲碁発祥の地として伝承が伝わっている。
春蘭杯は10月に北京で決勝三番勝負が行われることが決まっている。
その優勝者が年末12月に東洋のヴェネツィアと呼ばれる中国浙江省烏鎮で行われる。
中国囲棋協会が主催する「Future of Go Summit(囲碁の未来サミット)」というイベントで
世紀の三番勝負を行うことが既に発表されている。
そこが和-Ai-の“最後”の対局の舞台になるだろう。
彼は元の世界に帰ってしまうかもしれない――その覚悟はできている。
私はもう大丈夫だ。
別れるときには最後の涙くらい流させて欲しいけど、私は彼がいなくても囲碁の棋士として道を歩むと決めた。
だから残りの時間を後悔しないようにする。
彼は元の世界に戻れなくても、もう今年を最後に和-Ai-を手放して私に譲ると言ったけど断った。
私が和-Ai-先生から指導を受けるのは今年が最後だ。
彼が和-Ai-を手放して生きるなら、私も和-Ai-に頼らず生きていこうと決めた。
二人だけの秘密を手放して互いに一人の人間としての未来を生きる。
私は自分に才能があるなんて思ってないし、努力だってプロなら誰だってしてる。
私がプロになれて女流タイトルが取れたのは才能でも努力でもなく、貴方と出会えたという「幸運」だ。
たぶん成功してる人って才能や努力だけじゃなくって最後は運を必要としてる。
生まれや育ちや環境や交友関係って個人の才能や努力だけでコントロールできるものじゃない。
彼が言っていた才能があって努力すれば、その道で食べていけるプロにはなれる。
プロのなかで一流と二流を分けるのは想いの強さで、そして一流と超一流の差は幸運だと。
プロになったのに、ずっと先生に指導碁を打ってもらってるような人はいない。
私はどこかで和-Ai-先生の強さに頼ってて、自分の想いを信じることができなかった。
超一流になれるかなんてわからない。けど今の幸運に縋るだけじゃあ私はきっと一流にはなれない。
だから私は「幸運」に感謝して、「幸運」に頼り切るのを止める。
けど彼がいる間に天元のタイトルを贈るために後少しだけ先生に力を借りる。
和-Ai-のノートパソコンを起動し互先で指導碁を打ってもらう。
事前に決められた時間にKGS囲碁サーバーにAiの名でログインして雲南チーム所属の棋士たちと対局する。
今は殆ど彼が和-Ai-のノートパソコンを使うことはない。信頼して任せて貰っている。
だから私は画面の右下の小さなアイコンが静かに点滅していることに――
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