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和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

作者:笠福京世
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第二部 北斗杯編(奈瀬明日美ENDルート)
  第49話 キミに呼びかける 前編(vs 塔矢アキラ)

H14年 北斗杯終了後 side-Asumi

 北斗杯、日韓戦での進藤大将のオーダーは非難の声もあったけど、倉田さんの「団長のオレが“断固たる決意”で決めたの。文句ないよね」という言葉と、高永夏を追い詰めた進藤の大将戦の熱戦と日本チームの団体優勝という結果により、勝てば官軍じゃないけど今や神采配と呼ばれるようになった。

 大会のMVPは大将として二勝を挙げた韓国の高永夏が選ばれ。
 日本チームからは塔矢君が和-Ai-とネット碁の公開対局で戦うことになった。

 二回の公開対局は北斗杯のスペシャルマッチとして「日本の囲碁文化を世界に発信する」というテーマで囲碁に所縁のある場所で開催されることになった。

 私はアパートの彼の部屋でパソコンに向かいKGS囲碁サーバにアクセスする。

 登録されたログインIDの名は、もちろんAi――。塔矢君のログインを待つ。

 彼は大会の関係者として埼玉県の熊谷市妻沼にあるお寺にいる。
 和-Ai-がネット碁で打った手を彼が現地で確認し代理として碁盤に打つことになっている。

 二人の共同作業。

 現地には私も彼と一緒に下見を兼ねた旅行として春休みの間に訪ねた。

 縁結びの神様として知られている聖天山歓喜院の本殿には、布袋、恵比寿、大黒天の三福神による囲碁遊びを題材にした囲碁彫刻が飾られている。

 本因坊戦の挑戦手合などタイトル戦の対局場として使われることはあるが、公開対局、しかも正体不明の棋士によるネット碁の対局で国宝の建物が使われるというのは異例のことだ。

 テレビカメラも入っていて、現地でも畑中新名人による大盤解説が行われる。
 もはや公式戦さながらの扱いだ。また和-Ai-に注目する海外のメディアも取材に来ているらしい。

 当初はネット碁の公開対局なんて見る人はいるのかという声もあったが、北斗杯終了後には公式ホームページに多くのアクセスが集まり問い合わせが殺到。

 急遽、都内でも大盤解説が行われることになったという。

 これは彼が創り出した舞台で、私は責任のある役割を任された。

 和-Ai-の手と共に私の想いが彼に届く様にと祈る。

 黒石がAkiraで、白石がAi。黒の一手目は右上隅の小目。

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同日 現地関係者検討室

「このアキラ君の手は和-Ai-のお株を奪うようなカタツキだね」 一柳が指摘する。

「私は未だにこの手の良さを理解できていませんよ」 桐嶋研に通う若手棋士が声をあげる。

「和-Ai-は手抜くのか」

「手順は替えてあるが、黒二間ガカリに白ケイマ受けは大昔からよくある手だ。そう考えると不思議ではない」

「緒方クン、奈瀬女流は今日は東京なの?」 一柳が緒方に声をかける。

「ええ。カレの近くにいると逆に落ち着かないらしいので」 緒方が答える。

「初々しい発言だねー。ホントに彼氏なの?」

「さあ? そこまでは知りませんが、桐嶋堂のカレとはプロになる前からの付き合いですよ」

「フーン。ま、あんまり詮索するのも野暮ってことか」

「あ、塔矢君が大ゲイマに受けました」

「大ゲイマ? それだと和-Ai-は……」「間違いなく三々に飛び込んでくるね」

「広く受ければ三々に入りやすいことは塔矢君だって分かってたはず」

「となると、これは誘ったものだろう」「黒の工夫ですか」

「アキラ君も桐嶋研に来てるだけあってよく研究しているねェ」

「ここまでは定石通りですが、一見これで黒も好形に見える」

「この白のハネは塔矢先生が推奨していた手法だ」

「素早く利かして黒を凝り形にしている」

「和-Ai-が塔矢さんの手を息子に? いやぁ、おもしろいねー」

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同日 聖天山歓喜院 対局場 side-Akira

 先ほどの右辺のハネ、ここからの右上の決め方も父の打ち方、塔矢行洋流だ。
 和-Ai-は形を決めてしまう打ち方を好む。
 必要なく可能性を狭める様な利かしを打ってしまう傾向がある。

 かつて「決め打ち」と言えば父である塔矢行洋名誉名人の代名詞だった。
 まだ決める必要が無いと思える利かしでも、どんどん決めてしまう。そして勝つ。

 ボクは幼いころから父の碁から多くのこと学んできた。

 “いま”ボクが碁を打つのは――――

 この碁はタイトル戦と同じような多くの人に見られる碁だ。

 和-Ai-との対局を望む彼女も、この碁をきっと何処かで見ている。

 だからこそ無様な姿を見せるわけにはいかない!!

 10代で名人になって、いつかは父を超える。

 そしてキミを振り向かせてみせる!

 今度こそ「ボクと打とう!」の言葉に「打たぬ!」ではない返事をさせてみせる。

 選択を狭め想定しやす手順で進めることを好むなら――それを利用する。

 この手順は地を堅めてしまう割に白の形はあまりよくない。
 ボクは個人的に早い時期には打ちにくいと感じる。

 白は惜しまず利してからヒラキ。右辺の模様化を防いだ。
 黒は白が手抜きしていた左上に手を入れる。これは大ナダレ定石になりやすい。

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同日 現地関係者検討室

「いま和-Ai-が採用している新手法のうち、塔矢先生が推奨していたものは多い」

「そこには塔矢先生の碁の強さ、凡人には見えないものが見えていたのだろうが……。
 この“形を決める”という考えも関係あるのでは無いだろうか」

 検討室で碁石を並べながら塔矢行洋門下の緒方が修業時代に思いをはせる。

「囲碁において、ボクらは部分の最善を探して手を選ぶ事が多いからねー」

「いまこの部分を打つと決めたなら、その部分でどの手が一番得になるかに拘って考えてしまうわけだ」

「まあ盤上全体を検討することより、ずっと易しいですからね」

「つまり部分の最善として考えれば、可能性を広く残しておく手が得になると考える」

「後の状況に合わせて、右からも左からも道を選べるようにしておくってなわけだ。
 いやー、プロの棋士っていうのは八方美人だねェ」

「いま決める必要が無い利かし、意味もなく選択を狭める手は“損になる手”だと考えるのが普通です」

「だが理屈として明確な損だと言い切れたとしても、実際には損が実現しない可能性も高い」

「碁盤の広さ、1局の長い道のりからすれば、部分の最善など、盤上全体を見れば些細な話とも考えられる」

「そこを大きめに割り切って“決めて”しまえば?」

「可能性を残す進行より必要なヨミの範囲が狭くなり、自分の想定通り進め易くなる」

「その方が碁は勝ち易いと、和-Ai-や塔矢先生は見抜いている感じを受けるな」 
 

 
後書き
「決め打ち」を塔矢行洋流と言っていますが、モデルは名誉棋聖、名誉名人、名誉碁聖の三つの名誉称号を持つ小林光一先生の小林流布石です。たぶん原作でも塔矢行洋のモデルになった棋士の一人だと思います。 
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