和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する
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第二部 北斗杯編(奈瀬明日美ENDルート)
第47話 奈瀬明日美 vs 趙石
北斗杯大盤解説会場 side-Kumiko
「早くも塔矢君は大勢が決まりそうですが、この辺で奈瀬女流の様子もお願いします」
「そうですね。今は趙石君の手が止まってますので、せっかくですから最初から並べて見ましょう」
「奈瀬女流はお目当てのお客さんも多いかもしれません」
「はい。新入段ながら昨年の若獅子戦で優勝。天元戦の本戦トーナメントでも活躍し一躍有名になりました」
「今年には女流棋聖の初タイトルを得て、若年ながら女流を代表する棋士の一人として知られています」
ようやく奈瀬女流の解説が始まった!副将の進藤君を飛ばし先に紹介されたのはやっぱり注目度の違いかな?
「この黒の構えは先日行われた一柳棋聖のネット碁の公開対局と同じですね」
「はい。二人は親子ほど年が離れていますが研究会の同士だと聞いています」
「この黒の手は右辺に続けて打たれることが多いのですが奈瀬女流は感覚が違いますね」
「たしかに春木女流の言う通り黒石の多い右辺でポイントを取りに行くのが自然な手に思えます」
「ここで右上を手抜きするのが黒の積極策です」
「奈瀬女流は下辺に囲わず、中央を意識した立体的な構えを好みますね」「はい。ここで白は封鎖を避けました」
「次に黒はいったんヒラいて、次に左下隅からの攻めをみせます」「なるほど」
「ここで白は黒の手抜きを咎めて挟んだ」「黒の奈瀬女流はまさに力技といった感じの打ち方ですね」
「このアタリによって形が崩れましたが――。・
戦力が不利な状況で強く押す作戦は、奈瀬女流も先をかなり具体的に読んで判断していると思われます」
「先生の判断は?」「……そうですね。この状況はプロであれば黒が悪いと即断します」
え?奈瀬女流が悪いの?たしかに解説の先生が14歳ながら趙石三段は中国で活躍を始めた棋士だって言ってたけど。
「ここはセオリー通りの形の急所です」
「そして先ほどの石を助けるために黒石は2線を這うことが確定しています」
「序盤に2線を這うのは悪いというのは囲碁の基本的な常識ですが?」
「春木女流の言う通りなのですが、最近はこの常識が一部の棋士に破られつつあって――」
「黒は低い位置に石を連ねて相手に外勢を作らせていますね」
「悪いお手本そのままの打ち方で、この見た目で黒が悪くないとしたら本当に驚きです」
「今、白が右上隅に手を入れましたが――。
極端に言えば、この隅が取れても得かどうか?と考えるくらい、我々プロの囲碁棋士は2線ハイを避ける感覚を持っています」
「けど奈瀬女流は顔色一つ変えませんね」「彼女にとってはコレが当たり前なのでしょう」
「2線のハイは成立するんですか?」
「劇薬です。いつでも2線をハイを打って構わないというわけではないかと相当な研究が必要です」
「では我々プロ棋士は今後どうやって指導していけば?」
「それは――高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処することになろうかと思います」
「ようするに行き当たりばったりってことですか?」
「私もまだ全く理解出来ていません。
ただ我々プロを驚愕させた和-Ai-の星に対する早期三々入りも、恐らくこの2線ハイからの壁攻めと関連して打たれだしたものだと思われます」
「なるほど。手を進めましょうか。趙石君の白石は気持ちの良い利かしです」
「え? この黒の手は?」「右辺の四目を囲いましたね」
「序盤でこんな手を打たれたら、苦痛で顔が歪んでしまいそうです」
「気持ちは分かります。春木女流も奈瀬女流とは棋戦で当たることもあるでしょうから注意しておいてください」
何だかおかしい。奈瀬女流の手はさっきからあまり褒められてない。形勢も良いのか悪いのかハッキリしない。
「黒の手はゆったりしてますね」「いえ、これは守りに見えますが右辺の白の壁を狙っています」
「白石が足早に中央に進出しましたが?」
「はい。ただ、ここからの壁攻めが奈瀬女流の碁――。
いや話題となっている和-Ai-の碁を理解する重要なポイントの一つとなっている様です」
奈瀬女流が憧れるという正体不明のネット棋士。未だに無敗を誇る無双の棋士。これからどんな碁を魅せてくれるのだろう。
「対して白は2つの石を連絡した自然な手に見えます」「そこで黒は二間のトビの隙を狙う」
「この手は受けるわけにはいかないんですか?」「さきほど中央に進んだ手の効率が悪くなります」
「奈瀬女流はその隙を確実について、左右を割ることに成功しました」
「ただ、下辺の黒も弱くなったように見せますね」
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対局場 side-Asumi
彼が私の対局を見守ってくれている。そう思うと自然と力が湧いてくる。
北斗杯には和-Ai-が関わっているから、私の為だけに会場に来てくれた訳じゃないというのは分かっている。
けど、この舞台は恩返しでもあるんだ。ずっと支えてきてくれた彼に対する――本来の意味での。
いなくなっちゃうのなら、せめて私の姿を目に焼き付けて忘れないでいて欲しい。
私がこの舞台まで来れたのは、才能でも努力でもなくて、貴方と出会えたという幸運。
趙石は黒を抑え込むのは無理と見た様だ。ここがキレイに止まると白はツライ。
私の黒を切りに来る。俗筋の利かし。白からは細心の注意を払い安全を確認している感じが伝わる。
白が手順を尽くして切った。この辺り、対局者の読み筋を汲み取ることは難しい。
ただ楊海さんが団長を務めるだけあって趙石も私の碁、いや和-Ai-の碁をしっかりと意識して対応してる。
相手のアタリに普通にツギ打てそうに見えるところだけど、臨機応変に柔軟な対応をする。
白石に下辺黒を封鎖されてしまう。もはやタネ石を助けるつもりはない。
中央を白が制し私は左辺の黒地化に成功する。
白が上辺に守りの手を打つ。かなり白地が見込めそうに思えるけど……私は白石にツケる。
和-Ai-は私が守ったらツケてくる。だから相手が守ったらツケは私の中では常識の一手だ。
さきほどの上辺の仕掛けは右辺と関係してる。
ここでようやく2線ハイによってできた白石の壁を攻めることができる。
自分が封鎖されないよう、相手を閉じ込める。
白は薄みを衝いてくるけど――こうなって見ると、右辺の壁攻めが思いのほか厳しいことに気付くだろう。
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北斗杯大盤解説会場 side-Kumiko
「奈瀬女流の本気の攻めだ」 いろはちゃんが呆れたように声をあげる。
奈瀬女流が力技ともいえる手法で白をねじ伏せていく。非常に厳しくて正確に――。
私に優しく指導碁をしてくれたときや普段の可愛い様子と全く違うギャップに萌えてしまう。
勝負の世界の厳しさと美しさを私に教えてくれる。
「いろは先生!! わたし囲碁がしたいです……奈瀬女流のように強くなりたいです!」
思わず熱い想いが口に出る。いろはちゃんは コクリと頷いてくれた。
奈瀬女流の碁は、私の憧れの碁、いつか私も同じ舞台に立ちたいと思った。
白石も苦心の手順でコウに粘ろうとしている。
右辺のシノギは隅のコウ味を頼りにして、上辺へと手抜く。
白は手筋のツケコシでかろうじて活きてるけど……
こうなってみると黒は上辺2子抜かせても地は損していない。
私には難しい二段コウの複雑さも、もはや奈瀬女流には難しいものではないのだろう。
コウ材の少ない白は、眼を一旦は確保せざる得ない。
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北斗杯検討室
「よし、奈瀬がコウに勝ちにいった!」 倉田が喜びの声をあげる。
「左隅だけでかなりコウ材があるね」 安太善は冷静に盤面を分析する。
「これも損のない上手いコウ立てだ」 林日煥が奈瀬の手を褒める。
「カノジョは冷静だな。戦い方(戦闘碁)を知っている」 珍しく高永夏も他人を評価する。
「白はコウ立てが続かなくなった……」 洪秀英が指摘する。
「盤面は――15目ほど離れているか?」「もう白も投了間近だな」
「とりあえず2勝確定で日本チームが勝利か」
「ま、当然だな」 倉田が自分の手柄のように胸を張る。
「そうなると二人と比べて進藤はボロボロだな。スヨン」
「……」 声をかけられた洪秀英は黙ってモニターを見つめる。
(大舞台で動揺しないよう賭け碁の罰ゲームで全裸ストリップでもさせて度胸つけさせておくべきだったぜ)
倉田厚だけが一人どうでも良いことを考えていた。
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