新訳紅桜篇
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7 夢は、嫌なことだらけ
さっき聞いた話が、もう一度頭をよぎる。
_「この計画の、最も重要な部分……つまり、紅桜を真選組にバレないように工作する部分だ。」
…もう人を殺すのは、まっぴらごめんだ。
人を殺して、何になる?
私はわかっている。これが殺し屋の運命だ。
私は死ぬまで、人を殺し続けるのだろう。
でもせめて、「人間」でありたい。
だが、私は獣を宿している。
「殺し」に快感を覚えてしまう、もう1人の自分が。
…運命に抗いたい。
…そのためには、何が何でも…高杉の野望を、打ち砕く。
これが私にできる、抵抗だ。
出発の準備をせねば。
指令は後日下される、と聞いた。
今日はとりあえず、寝よう。
布団に入り、部屋の灯りを消した。
血なまぐさい、戦場…
その野原に無残にも散っていった、無数の兵士たち…
そのはるかかなたでまだ戦っている、「最後の武士」…
_私も行かねば…
そう思うも、なぜか体が動かない。
地面にうっぷつしていた。
はっと正面を見ると、高杉がいる。
なぜか、彼も動かない。
後ろで、足音がする。
嫌な予感がする…
もしや、奈落か…?
力を振り絞って、後ろを振り返る。
…嫌な予感は、的中した。
天璋院奈落。その奈落の首領にして、私の兄、朧が率いる、無敵の暗殺部隊。
そう…その彼こそが、「銀時を兄と間違えられる騒動」の、元凶。
私もかつては、奈落三羽に数えられていた。
あの兄とともに。
だが、私は途中で組織を抜け、師 松陽のいた松下村塾へ行ったため、
それきり、兄とは別れたままだった。
まさか、首領になっていたとは…知らなかった。
_「兄者…!なぜ…なぜ、ここに…?」
_「決まっているだろう…?戦争を終わらせに来てやっただけだ。
戦争が終わり次第、お前を組織へ連れて帰る。
大丈夫、ただ迎えに来てやっただけだ。安心しろ、零。」
その言葉と裏腹に、後ろからは…ただならぬ気配を感じる。
高杉に言わねば…早く逃げろ、と…。
だが、出るのはただ、かすれ声ばかりで、口から声が出ない…
私は、持っている力を振り絞って、全力で叫んだ。
_「高杉ッ、逃げろォーッ。後ろだ、後ろに気を付けて、ただ逃げろォーッ!
私は、後から行く。」
高杉が振り返る。
そして、分かった、とでもいうように頷き、走っていった。
とりあえず、ほっと息をついた瞬間、右肩に異変を感じた。
_もしや…兄者!?
しまった、マズいことになった…。
もう手遅れか…?
恐る恐る振り返ると、朧がすぐそばに立っていた。
そして、目にもとまらぬ速さで、私の腕を取り、縛り上げた。
_!
渾身の力で抵抗するも、全然効かない。
_「放せ兄者、お願いだから。分かったから、放せ。おとなしくするから。
頼む、兄者…。」
それでも兄者には、私の言葉を無視して、従者たちに告げる。
_「零を、本部へ連れていけ。本部で、あの方が待っておられる。」
…え?ちょっと待って…え?「あの方」?…誰、それ?
ってか、人の話を聞け、コノヤロー!
もういい、こうなったら、最終手段を使ってやる。
そう、「魔法」の力。
朧が、私から目を離した隙に、私は一瞬の間時間を止める呪文を唱えた。
その隙に、袴の足首のところに隠しておいた万能ナイフで、縛ってある縄に切れ目を入れた。
少しの力で切れるくらいまで。
_よし、これで準備は整った。
時間を解放する呪文を唱える。
すると、時間はもとに戻った。
だが、時間とはあっという間だ。
さきほどの従者は、もう目の前にまで来ている。
前と後ろ、右と左から。
_結局、全方向からじゃないかァァァ!
どーなってんの?私、罪人なの?
どうしようか、計算する。
ふとその時、「殺し屋の直感」が、時を知らせた。
_…今だ!
渾身の力を込めて、縄を引きちぎり、腰に差した剣で迫ってくる従者たちを、
次々に倒していく。
やっと最後の一人が終わったと思ったら、後ろから聞き覚えのある声がした。
…朧。
_「随分と強くなったものだなァ…。」
だがそれは、明らかに1人の声ではない。
その声は…
高杉…?
なぜ、ここに?
はっとして、目が覚めた。
慌ててあたりを見回す。
そこはもちろん、鬼兵隊の船の中の、自分の部屋だった。
_なんだ、夢か。
それにしても、夢にまで高杉が出るようになるとは…
苦笑いしてしまった。
_まぁ、いい。ついでだから、このまま起きて、身支度を整えよう。
そして私は布団から起き上がり、身支度を始めた。
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